16
雨が降るか降らないかの瀬戸際。
放課後、図書室で暫くは本を読んでいたものの…。
梅雨時期もあり天候が崩れてきたので、早めに帰り支度を始めた。
「…あっ……」
帰路も残り僅かとなった頃。
ポツリと鼻先に、落ちるひと雫。しかし…
「うわっ…先輩、走ろう!!」
気がついた時には、既に土砂降り状態で。
慌てて芝崎が僕の腕を掴み、走り出す。
バシャバシャとコンクリートを埋め尽くす雨水の上を、飛沫を上げ全速力。運動音痴な僕は必死で芝崎の猛スピードについて行く。
余りに必死だったから。
雨で冷えていく身体に反して、掴まれた腕が酷く熱を帯びているのにさえ気が付かなかった。
あっという間に家の前まで到着したが、依然雨は激しさを増し降り注ぐ。
急いで鍵を開け玄関に滑り込んだ。
酷い雨量に急かされていた所為から。
背後に佇む芝崎が、一瞬見せていた苦痛の表情に…
僕は全く気付く事はなかった。
いつもの、なんら変わりない帰路の筈なのに。
隣にコイツ…芝崎がいると言うだけで別世界にでもいるかのような、妙な浮遊感に襲われる。
口下手な僕に、軽快な会話のスキルが有るわけもなく。対して、良く舌の回る芝崎のくだらない話に相槌を打つだけの、なんとも奇妙な時間。
こんな僕の隣ほど、つまらない場所なんてないだろうに…。それでも、芝崎は凄く楽しそうに笑ってくれるから…。
正直、安心するんだ。
荒くなった呼吸を整え振り返れば。
芝崎は何故か雨に打たれたまま、玄関の外で立ち尽くしていて。
「何してる…?早く入れ。」
声を掛ければ、大袈裟な程に肩が跳ね上がる。
「えっ……いい、の?」
コイツの言わんとする事は、解らなくもないが…。
今は非常事態だ、やむを得ない。
「…いいから、入れ…。」
躊躇って動こうとしない芝崎に痺れを切らし、
自ら強引に手を掴んで家の中へと導く。
少し手が震えてしまうのは…きっと雨で冷えた所為だろう。
「すぐそこがリビングだ、服脱いで待ってろ。」
指で扉を差し、返事も待たずに洗面所を目指す。
何やら放心状態の芝崎だったが…。
僕が動くと、ハッと我に返り。
「じゃあ、お邪魔します…」と遠慮がちに告げてから、グショグショになったスニーカーを脱ぎ始めた。
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