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雨が降るか降らないかの瀬戸際。


放課後、図書室で暫くは本を読んでいたものの…。

梅雨時期もあり天候が崩れてきたので、早めに帰り支度を始めた。






「…あっ……」


帰路も残り僅かとなった頃。

ポツリと鼻先に、落ちるひと雫。しかし…





「うわっ…先輩、走ろう!!」


気がついた時には、既に土砂降り状態で。

慌てて芝崎が僕の腕を掴み、走り出す。


バシャバシャとコンクリートを埋め尽くす雨水の上を、飛沫を上げ全速力。運動音痴な僕は必死で芝崎の猛スピードについて行く。




余りに必死だったから。

雨で冷えていく身体に反して、掴まれた腕が酷く熱を帯びているのにさえ気が付かなかった。






あっという間に家の前まで到着したが、依然雨は激しさを増し降り注ぐ。


急いで鍵を開け玄関に滑り込んだ。




酷い雨量に急かされていた所為から。

背後に佇む芝崎が、一瞬見せていた苦痛の表情に…


僕は全く気付く事はなかった。








いつもの、なんら変わりない帰路の筈なのに。

隣にコイツ…芝崎がいると言うだけで別世界にでもいるかのような、妙な浮遊感に襲われる。



口下手な僕に、軽快な会話のスキルが有るわけもなく。対して、良く舌の回る芝崎のくだらない話に相槌を打つだけの、なんとも奇妙な時間。


こんな僕の隣ほど、つまらない場所なんてないだろうに…。それでも、芝崎は凄く楽しそうに笑ってくれるから…。


正直、安心するんだ。








荒くなった呼吸を整え振り返れば。

芝崎は何故か雨に打たれたまま、玄関の外で立ち尽くしていて。




「何してる…?早く入れ。」


声を掛ければ、大袈裟な程に肩が跳ね上がる。





「えっ……いい、の?」


コイツの言わんとする事は、解らなくもないが…。

今は非常事態だ、やむを得ない。





「…いいから、入れ…。」


躊躇って動こうとしない芝崎に痺れを切らし、

自ら強引に手を掴んで家の中へと導く。


少し手が震えてしまうのは…きっと雨で冷えた所為だろう。







「すぐそこがリビングだ、服脱いで待ってろ。」


指で扉を差し、返事も待たずに洗面所を目指す。




何やら放心状態の芝崎だったが…。


僕が動くと、ハッと我に返り。

「じゃあ、お邪魔します…」と遠慮がちに告げてから、グショグショになったスニーカーを脱ぎ始めた。

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