第12夜
「は…?」
「俺は元風紀委員長、坂田貴文だ」
そこまで聞いて俺は坂田先輩の襟を掴んでいた。
「嘘だと言ってください、坂田先輩!!」
「嘘じゃないさ」
俺の手が震える。月や藤原達を傷つけた風紀委員会の元会長だと!?
「じゃああんたが…」
「やめなさい、安倍君」
「あんた達も知ってたのかよ!?」
「やめなさい!!!」
渡辺先輩が今までになく大声で怒鳴る。俺は驚き、手を離す。
「知っていましたよ、彼が…たかちゃんが元々風紀委員会の会長だって事も。私と彼は…一度、本気で殺し合いをしてましたから…」
「!?」
「悪いね、安倍君。俺の話を聞いてくれるかい??」
俺が頷くと、ニコリと微笑んで坂田先輩は話をし始めた。
「まず、俺は今は風紀委員会とは繋がっていない。君達にかくしたのは、恥ずべき…いや、死に値する事をしてきたからだ。俺が昔は妖怪嫌いだって話はしたよね?あれは本当。悪路王に俺の母と父は殺された。うちはね、古くから武士の家系でそれを知っていた悪路王は…うちには妖怪のお手伝いさんが二人いたんだ。その二人は傷だらけだったがなんとか一命は取り留めた。それが酷く憎かった。なんで貴様等は生きて俺の母と父は死んだか??その恨みがやがては全ての妖怪に及んだ…この高校で俺の名前を出してみるとわかると思うが、みんないい顔しないよ。俺の性で退学や大怪我になった生徒は優に五十人は超えてると思うから…」
そこまで聞き、悪寒が走る。妖怪嫌いなのは俺もだが、退学や大怪我までさせた事は無い。相当な恨みだというのが分かった。
「それから彼…生徒会長の始君に出会った。最初はお互い、大怪我しながらも闘いあった。まぁ、洒落にならない喧嘩だな。それでお互いを理解した俺は考えを変えた。それからは年月とこの子…楓が解決してくれた。俺はそれから風紀委員会を無理矢理、抜けてここ…生徒会に所属した。それで風紀委員会は解体すると思ってた。だけど俺の考えが甘かった…」
「解体しなかった?」
「あぁ。アイツ等の恨みは強すぎた。アイツ等は新しい風紀委員長を立てて、学園での暴走は止まらなかった。否。俺の時より悪化している」
坂田先輩は苦痛に満ちた顔で頭を抱える。
「なぁ、安倍君。君が望むなら俺を殴ってくれてもいい。それで気が晴れるなら俺をいくらでも殴ってくれ。でもお願いだ。生徒会長や他の子は関係ない。嫌いにならないでくれ」
俺は握り拳に力が入る。こいつは全ての元凶だ。俺はその拳を…
「ダメです」
月が俺の拳を握る。
「月…?」
「恨みでは何も変わらないって…安倍君、言ってました。私はそんな安倍君が好きです。もう誰も恨んじゃ嫌です…」
月の瞳からは涙が溢れていた。俺は拳から力が抜けて、月を抱きしめていた。
「先輩…確かにあんたがそんな風紀委員会を作ったのかもしれない。でも今のあんたは変わった。ならもう責めません。ですが俺は今の風紀委員会を許す事はできない。たとえあんたの元同期でも……」
「…分かっているよ。大丈夫。俺は本気で風紀委員会を解体する。その落とし前をつける時が来た」
「その気持ちを信じます。そして俺は闘います」
「そうか…であれば俺も協力するとも」
「もちろん私たちもね」
そう言って生徒会長達は微笑む。
「巻き込んで本当にすまない」
「何言ってるんですか?お互いに困ったことがあれば協力する。それが友と云う者ですよ?」
その言葉に藤原が昼に言っていた言葉を思い出した。
「みんな!!藤原君と鬼怒川さんが目を覚ましたよ!!!」
三奈ちゃんがそう言ってカーテンを開く。そこには腕を組んで困惑顔の藤原とボーッとした顔の荊がそれぞれベッドに座っていた。
「藤原!!!荊!!!」
「おお、安部!!ここ、保健室だよな??なんで俺ここで寝てるんだ?えっと確か…」
そこまで言う藤原に抱きつく。
「ちょっ!?安部!?」
「良かった…本当に…」
困惑した顔で俺を見る藤原に全て説明する。今までの事。先輩方の事。暴走の事…
そこまで聞いた藤原は俺の肩を掴む。
「俺が…お前を殺しかけた…??」
「大丈夫だ、先輩が助けて…」
「大丈夫なわけねぇだろ!!!」
藤原は今までに見せた事ない顔でそう怒鳴る。
「俺は…お前を…殺したかもしれないのになんで俺を責めない…?」
「親友だからだ」
「!?」
「こんな俺でもついてきてくれた親友だからだよ。お前が暴走するまで俺と月を必死に守ってくれたお前だからだよ。この件は暴走だ。仕方ないことだ…」
「藤原君。私が言えたことではないんだけど…実はね、私も半妖化でここの三人を殺しかけたことがあるんですよ」
生徒会長はそう言って暗い顔をする。
「生徒会長さんも…??」
「ええ。私はそれが一時、トラウマになりましてね。半年ほど、引きこもりまして…でもね、彼等はそんな私も受け入れてくれた。傷は治る。でもお前との絆が壊れたら二度と直せない…そう言われて私は必死に妖力をコントロールしました…藤原君。もし君がもう二度とこんな事態を引き起こしたくないのであれば、妖力コントロールを教えます。どうでしょう?この後時間は??」
「あ、ありますけど…」
「鬼怒川さんは…大丈夫ですか?彼女…?」
俺が荊を見ると天井を見つめボーッとし続けている。藤原は荊の肩を揺するとハッとした顔になり俺や藤原を見つめる。まさか、荊も月と同じく記憶を…!?そう思ったが藤原を見て涙目になり抱き付く。
「うわぁ!?」
「千春…!!良かった…本当に良かった…」
荊はあの時の記憶を全て覚えていて、鮫島に切られた後、気がつくと何故か藤原の視点になっていたが体を動かすことも出来ず、喋れなかったらしい。そして藤原の思いもその時、流れ込みひどい恨みや怒りに侵され、俺たちを殺そうとしてたところまで覚えていたそうだ。
それから再び先輩方が軽く自己紹介をした。
その中には新顔の人もいた。
「俺は
「私は
碓井先輩の刀になっていたのが雷太先輩で卜部先輩の弓が風子先輩だそうだ。
それが終わると今度は場所を移動し、前に悪路王に襲われた体育館にやってきた。
「じゃあ、藤原君。この真ん中あたりに立ってくれるかな??」
「は、はい」
そう言うと渡辺先輩はジャケットのポケットから紙を取り出した。そして何かをブツブツ言いながらその紙を投げる。すると紙から黒い煙が出て、そこに刀を持ったマネキンの様な存在が5体現れた。
「な、なんだ!?」
「式神、古代より用いられている紙に封印された存在です。大丈夫、私の言う事は聞きますから危険はないですよ」
「そ、それで何をするんです??」
「藤原君、君は半妖化をした。と言うことは憑依ができるはずなんです。君にはこれから憑依をしてこいつ等を倒してもらいます」
そうか、半妖化は憑依の次の段階。藤原は全てすっ飛ばしてたが、絶対憑依できるはずだ!藤原はそれを聞き、困惑した顔をした。
「憑依って…?」
「む?説明し忘れてましたね…」
渡辺先輩は忘れていた恥ずかしさからか、頬を赤くして、憑依の説明をした。渡辺は納得したのか、荊の手を握り何か念じる。
「あれ???」
「出来ないです…」
「心を合わせて念じて」
「むむ??」
「出来ないんすけど…」
渡辺先輩は困惑顔で考え込んでいたが、一つ思いついたのか、こう宣言する。
「よし、式神共、安倍君を攻撃なさい」
「へ!?」
式神は俺を認識してどんどんと近づいてくる。
「ちょっ!?何してるんすか!?先輩!?」
「藤原君、君の大切な者を傷つけてるのは私や式神ですね?何か思うことは?」
「いくら先輩だからって冗談じゃ済まされませんよ?」
「へぇ?じゃあどうするの?何も出来ないでしょ?武器もないし?早くしないと彼、死ぬよ??」
そこまで聞いた藤原は怒りの目を先輩に向ける。次の瞬間、凄まじい突風が吹く。これってまさか!風邪が収まるとそこには赤黒い刀を持った藤原が立っていた。
そのまま、刀で式神共を斬りつけていく。式神はビリビリと言う音と共に紙となり地面に落ちた。
式神がいなくなると刀を渡辺先輩に向ける。
「お見事です」
「お見事ですじゃねえ、次はあんただ!!」
「あぁぁ!!やめやめ!!もう!!始君!!いくら演技でも危険なことしちゃいかんでしょ!?」
「演技…?」
渡辺先輩は頭を掻き、舌をペロリと出した。
「こんな大根役者でも何とかなりましたね。まずは、無礼を詫びます、藤原君も安倍君も申し訳ない」
「な、何であんなこと…」
「藤原君はとにかく安倍君や月さん、荊さんを守ろうとするのがよく伝わりました。半妖化…所謂暴走状態は荊さんがひどく傷ついた状態でなりましたね?と言うことは誰かが傷つく状態に追い込まれれば強い怒りで半妖化になるまでなく、憑依という状態で反応するであろうと。憑依は怒りや悲しみ、お互いの理解が頂点に達するとなると言うのがある程度分かっていますから…」
「それであんなことを…」
「もちろん、傷つける意図はありませんでした。攻撃する寸前で式神を止めればいいだけですから…しかし上手くいった」
「先輩!!!!」
藤原はそれから渡辺先輩を説教していた。乃々先輩もそれに乗っかり、色々言っていた。渡辺先輩はちっちゃくなりながら正座しながらへこへこと頭を下げていた。
「全く、もう少しまともなことを考えんか、バカもんが…」
「すまないね、乃々。しかしこれで憑依は成功したわけだ。憑依は自転車乗りに似ててね。一度身体が憑依を覚えてしまえば、それ以降はいつでも憑依できる様になるからね。ただし、大量に体力を使うから多用は禁止ね?それは安倍君もですよ?」
俺がそれを聞き頷くと渡辺先輩は微笑み、「それでは帰りましょう」と言って解散になった。
途中、また風紀委員会に襲われたら大変だと、全員で帰ったが特に何事もなく、月を家に送り、俺も家に着いた。
家に着いた瞬間、疲れがドッと押し寄せる。眠い…俺はシャワーも食事もせず、とりあえず寝たいと思い、ベッドに横になる。数秒後、意識は闇の中に落ちていった……
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