第11夜
「き、貴様!!何だその姿は!?」
藤原の変わり様を見て攻撃の手を止めた如月が叫ぶ。
如月の顔を見つめた藤原の目は真っ黒で口からは黒い煙が漂い、涎がぼとぼとと滴り落ちている。
「ガァァァ!!!」
藤原は凄まじい勢いで藤原の襟を掴むと、そのまま鮫島がもがいている壁に向かって投げつける。凄まじい勢いと共に壁が壊れ、煙が上がる。
「藤原??おい!!しっかりしろよ!!俺が分かるか!?」
「ガァァァ!」
返事は叫びとなり、こちらに向かってくる。それは友好的な感じではなく明らかな敵意だった。
「月!!逃げるぞ!!」
「は、はい!!!」
俺は月の手を引っ張り、逃げ出す。しかし、常人ではない今のアイツに俺たちが逃げられる筈もなく、大きく飛び上がった藤原は俺たちの道を塞いだ。
「嘘…」
「コロス!!!」
月の悲鳴が響く。藤原の鋭い爪が月を引き裂こうと振り下ろされる…
「月!!!!」
俺は寸前で彼女を突き飛ばし、藤原の爪を防ごうと、武装玉で防御体制を取る。
ガラスの砕ける音が響いた。俺の武装玉は簡単に壊れた。あれだけの戦闘で壊れかけてたのもあるだろうが、それよりも藤原の一撃が凄まじかった。
防いだはずなのに身体中から激痛が走る。見ると、身体中に引っ掻き傷が出来ており、血だらけになっていた。
「!?」
「安部君!!!!」
「ガァァァ!!ゼッタイニコロス!!!」
再び爪を振り上げる。もう防ぎようがない…
「誰か…誰か助けて!!!!!」
月が叫ぶ。だが既に爪は…
ガンっという鈍い音が響く。俺の間に誰かが入り込んでいた。それは…
「碓井先輩!?!?」
「おう!!大丈夫かー、安部!!」
攻撃を防がれた藤原は後ろに下がり、黒い煙を今まで以上に吐き出した。
「半妖化…まさかこの子もなんてな…仕方ねぇ、少し粗治療だ!!薫!!やれるか!?」
「ええ、任せて頂戴!!」
後ろには卜部先輩を含めた生徒会委員の全員が立っていた。
「生徒会長!?」
「いやぁ、良かった。立て込んでた仕事が終わってひと段落してたらね、乃々が変な妖気を感じるって言うから来てみたらビンゴ!!まさか半妖化とはね…」
「大丈夫じゃったか?二人とも?」
「ええ、大丈夫です。助けに来てくれてありがとうございます」
「もう大丈夫。後は薫ちゃんと亮に任せて」
俺は二人を見る。凄まじい戦闘だった。目にも止まらない、凄まじい碓井先輩の斬撃。それをやっとのこと防ぐ藤原。しかし、後ろからは更に卜部先輩の弓矢が際限なく飛んでいく。やがて疲れが溜まったのか、斬撃を防げず、そのまま刀に斬られた藤原。
「藤原!?先輩!?まさか!?」
「大丈夫。あの程度では半妖化は止まらんし死にもしない。だからそれだけ怖いんだよ、半妖化は…」
その通りだった。すぐに藤原は立ち上がり叫びを上げる。傷口が見る見る塞がっていく。
「だろうな…であれば、気絶していただくかね!!【剣術-
その言葉に刀が青白く光る。そして刀身からバチバチという音がこちらにまで響いてくる。そのまま刀で藤原を斬りつける。バチバチという音と共に藤原の体が青白く光、凄まじい叫びが辺りに響いた。ドサッという音と共に藤原がその場に倒れ込む。
「藤原!!!」
「待って、安倍君。だめだ。あれだけされても多分数分後には起き上がる。凄まじい恨みの力と体力を感じる。あれだけされれば普通は数日は起きないが彼は強すぎる。数分で起きるぞ」
「じゃあどうするんですか!?」
「こうするのよー」
そう言うと坂田先輩はポケットからお札を取り出す。
「これね、超絶強力な封印札ね。これを貼って呪言を唱えるとあーら不思議。半妖化が収まるって代物なのよー」
そう言い切ると、坂田先輩は黒焦げになっている藤原の額に札を貼り付けて、手を忙しなく動かしてブツブツと何かを言い始めた。暫くすると、藤原の体が光輝く。すぐに光が収まると、そこには藤原と荊が倒れていた。
「さぁ!二人を保健室に!!詳しい話はそこで!!!」
「あ、でも風紀委員は?」
「風紀委員???」
俺は壁のほうを指差す。ボロボロに崩れ落ちた壁だったそこには誰もいなかった。
「え??」
「風紀委員会の幹部だね??大丈夫だよ、アイツ等は馬鹿みたいに頑丈だ。死にはしないだろう。……しかしここまでするかね?桜」
坂田先輩はそう呟くと苦虫を噛み潰した顔をする。桜って誰だ?
「先輩…?」
「うん?あぁ、いや。こっちの話だ。とにかく今は急ごう」
【保健室】
「うん、藤原君って方は傷だらけだけど特に命に別状はないね。それから鬼怒川さんの方も特に大きな傷はないよ」
俺は傷を治療をして貰いながらその話を聞いて驚きの声を上げた。それを聞いた皆んなが俺を見る。
「いや、すみません、大声出して。それよりも傷がなかった?荊に??」
「え??うん」
「おかしいんです、それだと…だって荊は鮫島っていう先輩に鎌で切り付けられて大怪我を…」
「何だって!?」
北里先生は困惑した表情をしていたが、そこに乃々先輩が声を出す。
「基本、半妖化で傷が治るなんて聞いた事ないが、もしかすると半妖化で鬼の遺伝子が覚醒したのやもしれんのぉ…」
「鬼の遺伝子?」
「あぁ、鬼の始祖は大妖怪、
乃々さんは顎に手を当てそう言う。なるほど。道中で荊の事を詳しく教えて置いて良かった。
「まぁ、ともかく、暫くすると目を覚ますだろう」
「それより、君達を襲った風紀委員会だが、鮫島って奴が襲ったんだね?」
俺は坂田さんに言われて頷き、如月という幹部にも襲われた事を話した。
「あの大馬鹿共が……」
「坂田先輩、先程から風紀委員会を知っているようでしたが…」
月がそう言うと先輩はバツが悪そうな顔をしたが、大きくため息をついてとんでもない事を言い出した。
「隠しても仕方ないか。いずれ分かる事だしね…実は俺ね、元風紀委員会会長だったんだよ」
「はぁ!?!?」
【風紀委員会 部室】
「も、申し訳ございません…」
「貴様等には失望したよ」
風紀委員長は今まで見たことのない顔をして鮫島、如月両名を睨む。二人は顔がぐちゃぐちゃになる程、涙を流し、土下座している。
「ど、どうかもう一度…」
「チャンスは与えたはずだが??そして如月、貴様は言ったな?あれだけの大口を叩いたのだ。覚悟はできてるんだろうな?え?」
「い、イレギュラーな事態だったのです!!!藤原が突然暴走して…」
「暴走したから倒せませんでした。と?ふざけているのか?」
「め、滅相もございません!!!」
「アイツの
「はっ」
「こいつ等をあの部屋に突っ込んでおけ。後で私が直々に調教してやろう」
「あぁぁ!!や、やめてください!!桜ちゃん!!!」
「その名で呼ぶな!!!!貴様等はやはり躾が足りんな!!」
久留木という男子生徒と蛇螺という女子生徒は二人を無理やり、隣の部屋に連れていく。涙、汗、涎でベトベトになった顔で会長を見つめるが、その顔は冷ややかだった。
四人が出て言ってすぐに数十人の風紀委員が集まる部室に緊張が走る。暫くすると会長は口を開いた。
「やはりアイツの同胞は無能か…まぁいい。再び教育すればいい。さて!ここに残った我が同胞よ!!これより殲滅作戦を始める事とする!!明日の朝、学園を占領して妖怪どもを殲滅する!!」
その言葉に残った風紀委員は無理やり声を上げる。中にはこんな作戦に嫌気が出たものもいた。だが、それは許されない。この会長がいる限り。暴力と力で制圧しているこの風紀委員会がある限り……
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