第10夜

あの後、藤原に時間ギリギリなのを告げられた俺と月は急いで登校し、何とか間に合った。

俺と月が共に教室に入ると教室がザワザワし始めた。

『お、おい!月さんと安倍だぞ!?』

『えっ!?二人が何で!?』

『月さん、転入して直ぐに安倍君と付き合ったのかな??』

『あり得ないだろ!!妖怪嫌いで有名な安倍だぞ!?』

そりゃあそうだろうな、と思いながら席に着く。月にはあらかじめ俺の席の後ろの席だと説明していたので月も腰を下ろす。するとすぐに龍美が俺の横に来る。

「あ、安倍君!!つ、月さんと登校したの!?な、何で!?」

龍美はなぜか顔が真っ赤で、慌てている。何だこの子は。

「あ、あとで説明すっから…込み入った事情でな…」

そう言うと龍美は大きく息を吐いて自身の顔をパンパンと叩いて、微笑む。

「でもとにかく妖怪を毛嫌いしない様にはなったのね?」

「…それもあとで話すよ」


昼休みまでは何事もなく進んだ。先生方も特に月の事は触れなかった。昨日、北里先生が他の先生と学園長に説明しておくと言ってたので把握はしているんだろう。無用に話題にされないのは有り難かった。

昼に入り、龍美に軽く事情を伝えると、驚いた顔をしていたが、納得はした様で「誰かに話す内容では無いから、私の中でしまっておくわ」と言ってくれた。これも有り難い。龍美は俺が妖怪の件で気持ちを改めたのは嬉しく、ホッとしたと言っていた。

それから藤原、荊と合流して昼食をとる。月は手作りの弁当でビックリするくらい綺麗な盛り付けだった。

「つ、月さんの弁当、すごいねぇー」

荊が言うと「家政婦の木葉さんが作ってくれて」と照れ臭そうに笑った。

「安倍君、唐揚げどうぞ」

そう言って月は箸で掴んだ唐揚げを俺に見せる。俺が指でそれを掴もうとすると「うー」とふくれっ面を作って声を出した。まさか口に運ぶ気か、月。

「あーんしてください!!」

「いやいや…それは流石に…藤原達が見てるし…」

藤原と荊は俺をニヤニヤと見ている。コイツ等…

「うー!!恥ずかしくないですよ!!それとも食べたくないですか…?」

月はシュンっとした顔をする。この顔に俺は弱すぎる。

「わ、分かったよ…あー」

俺が口を開けると月は嬉しそうな顔で俺の口に唐揚げを運ぶ。

唐揚げは非常に味が染みており、今まで食った唐揚げの中でも群を抜いて美味かった。

「美味い!!!」

「良かったです!!…実は唐揚げだけは私も少しお手伝いしたんです。だから安倍君に食べてほしくて…」

照れ臭そうに顔を仄かに赤くして月はそう言う。俺はありがとうと言って頭を撫でると、嬉しそうな顔で笑う。猫耳なんかついてたらピコピコ動きそうだなーなんて考えていると、藤原が笑い声を上げる。

俺が藤原を睨むと、「すまんすまん」と言って苦笑いする。

「お前がまさかこんなになるなんて夢にも思ってなくてな、俺は嬉しいよ!」

「本当にねー、これで付き合ってないって方が嘘でしょー」

「付き合ってないから!!!これはアレだ…えっとー…そうそう!おままごとの延長線だよ!あはは…」

「その年でおままごとねぇー?まぁいいや。それより今日は俺も一緒に帰ってもいいか?」

「え?」

「今朝、風紀委員会に襲われただろ?あのリーダーっぽい女子生徒、風紀委員会の【リーパー】って呼ばれてる鮫島っていう3年の先輩だって荊が言っててな。何でも妖怪側では悪い意味で有名な女らしい。リーパーって言う通り名の通り、死神のように命を刈り取るって有名らしくてな…」

「風紀委員会はかなり粘着だって聞いたんだ。何でも退学まで追い込むまで攻撃を止めないって。多分、放課後にアイツ等襲って来ると思う。月さんはそんな状態だから戦力として数えられないし…僕はかなり強いからボディーガードを買って出ようかなーって」

俺はその提案がかなり有難かった。鮫島はかなり打撃を受けただろうから、来ないにしても、他の風紀委員は襲ってくるだろう。そうなると、月を守りながら戦うにも限度がある。

「良いのか?藤原も荊も傷つくかもしれねぇんだぞ?」

「何言ってんだよ、親友だろ?それくらい承知の上だって。俺はお前と月さんが傷つくのは見たくねぇーからさ」

「そうだよ?それに風紀委員会には他の生徒も傷つけられてる。そんな行為許せないもん。だから僕自身の為でもあるんだから、気にしないで?鬼は強いんだよ?」

二人はそう言って笑い合った。

「ありがとうな、二人共」

「本当に調子狂うなー?どうしちまったんだよー?前は礼も言えなかったじゃん?」

「ちゃ、ちゃかすなよ!こっちは真面目に言ってんだぞ??」

「分かってるって。言っただろ?お前はいい意味で変わってきた。俺は今のお前の方が好きだぜ?そんな大好きな親友であるお前の為にも、月さんの為にも絶対に守ってやるからな」

そう言うと荊もうんうんと頷いた。

俺は確かに今まで感謝など感じなかった。全部、おせっかいだと思ってた。でも今になって気がつく。俺は本当に大切なモノを今まで持ってたのに気が付かなかった事を。俺は誓った。月も藤原、荊も守ってみせる。それを傷つけるなら風紀委員会で何であれ、絶対に許さないと。


放課後になり、俺達は揃って下校する。しばらく歩くと、目の前に鮫島と大柄な男が立っていた。

驚いたのは鮫島の見た目だった。乱雑に包帯が巻かれ、傷は今朝と同じ状態で全く治療されてない様に見える。

「いやぁー、待ってたよー?クソガキ共。今朝はよくもやってくれたねぇ?」

「あんた、3年の鮫島だろ??」

「先輩に向かって呼び捨てとは恐れ入るなぁ?まぁ、それは許してやるよ。そう、私が風紀委員長直属の幹部、鮫島様だ!」

「あんまり調子に乗るな、鮫島。そんなんだから失敗するのだ、大馬鹿者」

「あぁ!?何だとテメェ!?アイツ等バラす前にテメェをバラすか!?ええ!?」

「このうるさい馬鹿者は無視するが、貴様等が委員長の言っていた2年共だな?俺は如月。こいつと同じく幹部で3年である。早速で悪いが、委員長の為にも死んでくれ給え」

そう言うと如月という男子は武装玉を大振りな斧に変える。

それを見て舌打ちをした鮫島もすぐに武装玉を鎌に変える。

俺も武装玉を取り出し、爪に変える。藤原は荊がどこからか持ってきて(本人曰く買ったらしいが)武装玉を使う。刀の形になった武装玉を振ると頷く。問題は無いようだ。

「なるほど、武装玉はどこからか仕入れてきたか。だがそれだけだ」

そういうと、如月は斧を横に大きく振る。

「!?伏せろ!!!」

俺と藤原はスレスレでその一撃をかわす。

「ほぉー?かわすか。まぐれかね?」

そういうと今度は飛び上がる。

「叩きつける気か!?みんな!後ろに下がるんだ!!」

藤原の言葉に俺達は後ろに大きく下がる。

次の瞬間、凄まじい爆音と共にコンクリートが飛び散る。

破片が顔を掠め、浅い傷口を作り、そこから微かに血が流れる。

「面白いな、貴様等!!今の攻撃も避けるか!!!運動神経と判断力が素晴らしい!!ぜひ我々の力になって貰いたいものだ!!妖怪を差し出せばの話だがね?」

「お断りだよ、お前達に絶対月さんや荊を渡すか」

「あぁ!!ウゼェな!!妖怪なんぞに肩を持ちやがって!!如月!!テメェも感心してねぇでさっさと殺せや!!!」

鮫島は後ろでそう叫ぶと如月は鼻を鳴らす。

「黙れよ、鮫島。貴様はいつもそうやって叫ぶだけではないか。少しは自身の力を付けろ」

「あぁ!!本当にウルセェな!!!今度は私がやる!!下がれや、如月!!」

そう言って鮫島は鎌を構えこちらに突っ込んでくる。

「学ばないね、鮫島先輩!!」

そう言って俺と藤原の前に立った荊は柔道の構えを取る。

そのまま突っ込んできた鮫島の鎌を掴むとそのまま鎌と共に後ろに投げ飛ばす。

「な!?」

そのまま投げ飛ばされた鮫島は地面に強く叩きつけられる。口から血を吐き、もがく。

「くぞが……!」

鮫島はそんな状態でも無理やり立ち上がり、こちらに向かって睨みつける。

「ダメだよ、先輩!無理したら死んじゃう…」

「妖怪無勢が私を気遣うんじゃねぇよ!!!テメェ等の性で私も如月も会長も!!」

「何でそんなに……」

「妖怪は滅びるべきなのだ」

「そんな事…」

「無いと言えるか?犯罪検挙率は妖怪共が圧倒的だ。そしていつも被害に遭ってるのは人間だ。そんな妖怪が我々と暮らすだと…??笑わせるな!!妖怪は滅ぶしかない!!我々を不幸にした妖怪共を!!!」

そこまで言うと如月は斧を構える。

「その為に我等が風紀委員長はこの学園から妖怪を追放し、ゆくゆくは国中の妖怪を殺すと宣言した!!」

「そんな事、許せないよ、間違ってる」

「では妖怪嫌いの安倍、貴様はどう思う?」

「…俺は確かに妖怪は大っ嫌いだった。鬼に親を殺されてから妖怪なんて全部滅びてしまえば良いって思ってた」

「であれば…」

「でもそうじゃ無いって気がついたんだよ。全部の妖怪が悪いなんて事は絶対に無い。俺たち人間に悪人と善人がいる様に……それをこいつ……月の優しさ、そして月のお母さんから。そして俺の母親から教わった。だから俺は今のあんた達の考えに賛同できない」

「ふざけているな、信念が無い。貴様は妖怪に家族を殺されたんだぞ!?そんなに妖怪と仲良くしていたいなら、ここで全員、黄泉の国へ送ってやろう!!鮫島、連携しろ!!」

「けけ!!言われなくたって!!こいつ等を殺せば委員長は褒めてくれる!!その為ならこんな傷、痛くない!!!」

鮫島は先程の怪我を感じさせない武器の構え方をする。

「!?」

2人一緒に突っ込んでくると、縦横無尽に鎌と斧の一撃が飛んでくる。俺が斧を防ぎ、藤原が鎌を防ぐ。とんでもない力だった。腕に痺れが走る。

「グッ!?」

「あんたそんな大怪我なのにどっからこんな力……!」

「けけけ、舐めんなよ、ガキが!私は委員長の幹部だ、委員長が笑ってくれればそれでいい、褒めてくれたらもっと嬉しい!!それだけが私の……私達、委員会の新年だ!!こんな傷、傷のうちに入らないね!!」

「グッ!」

(このままだと2人とも浪費しちまう……かくなる上は…!)

「荊!!!」

藤原が叫ぶ。その声に頷くと鮫島に勢いをつけ、飛び蹴りをする。しかしそれを分かっていたように、藤原の刀を横に受け流すと、荊の蹴りを鎌で防ぐ。

「なっ!?」

(反応速度が上がってる!?何で!?)

「妖怪ごときが人間様に勝てるわけねぇーんだよ!!」

荊が1度、後ろ側に下がった瞬間、再び藤原に鎌を振り上げる。

「しまった!」

刀で防ぐ準備が整ってなかった藤原は攻撃こそ防ぐが、刀を落としてしまった。

「けけけ!死ねや!!」

鎌が振り下ろされる。このままじゃ藤原が!!!

「藤原!!!!」

布が裂ける音が響く。

悲鳴が響く。

横目に見た、その光景は……


「だい…じょうぶ…??千春……」

「いば……ら??」

そこには荊が倒れていた。肩から脇腹にかけて非常に深い切り傷が出来ており、そこから血液がドクドクと流れている。

「良かったー……千春が無事で……」

「お、おい荊…?嘘だよな……荊??荊!!!!」

「ごめんね、最後まで一緒に居られなくて……必ず生きてね…??それから……愛して……」

そこまで言うと荊から力が抜けていく。

千春は頭が真っ白になった。大好きな幼なじみがこの女の性で……

「許さん……」

「けけけ!残念だったね?でもテメェ等が悪いんだぞー?私たち風紀委員会に逆らったから!!」

「うるせぇ、殺す」

「あぁ!?殺すだと!?やれるもんならやってみな!!!!」

鮫島が鎌で首を飛ばそうと振り上げる。次の瞬間、凄まじい激痛が腹に走り、気がつくとコンクリート壁に身体を強く打ち付けていた。

「は????」


「藤……原……??」

凄まじい音と共に鮫島が吹っ飛んで行き、俺を攻撃していた如月も手を止めて藤原を見る。当の藤原はゆっくり立ち上がっていたがその姿はまさに異形だった。

そう、その姿は……

「赤鬼……??」

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