第9夜
「誰だ!?貴様!!」
「2年、藤原千春」
「同じく2年の鬼怒川荊だよ」
「名前聞いてんじゃねぇんだよ、テメェ何してるか分かってんの?」
「分かってるよ。俺の親友と同級生の子を泣かしてるテメェ等を叩き潰す!」
「糞が!!!風紀委員会に逆らう奴がどんな末路を行くのか思い知らせてやるよ!!おい!あいつ等を殺せ!!」
俺を囲んでいた風紀委員会は困惑した顔をしたがすぐに藤原と荊を囲む。
『鬼怒川、お前、鬼の娘だったよなぁ?せっかく目をつけられずに生きられたのに、勿体無い事をしたなぁ?』
風紀委員の1人がニヤニヤしながらそう言うと荊は今まで聞いたことのない低い声で「黙れや、三下」と言う。その言葉はあまりにも冷たく、背筋にぞくっと悪寒が走った。それは風紀委員も同様な様で、武器を握る手が震えている。
「こっちは大事な友達を傷つける屑共に腸が煮えくり返りそうなんだわ。テメェ等、死ぬ覚悟できてんだろうな?あぁ?」
荊はそう言って手をポキポキと鳴らす。あまりの恐怖に風紀委員は武器を落としてその場に座り込んでしまった。
(これが鬼の本気……)
俺も恐怖で震えていると荊は俺を見て微笑む。それはいつもの元気な荊で少し安心した。
「何やってんだ!?テメェ等!?」
「鬼舐めんなよ。お前等人間如きが勝てる訳ねぇんだからよ」
「ふざけんな!!!鬼如きが活きがんな!」
あの女は鎌を再び構えて今度は一直線に荊を狙う。
「死ねや!!!!」
俺は思わず目を伏せる。しばらくすると悲鳴の声が上がる。恐る恐る目を開けると、片手に鎌の刃を掴んでいる荊の姿があった。
持ち主の女は風紀委員の集団の中で苦しそうにもがいている。
「手加減はした。これで分かったはずでしょ、勝てないよ、アンタ達では」
「ふ、ふざけた事を…!これだから妖怪は大嫌いなんだ!!!力で何でも解決!気に入らないなら殺す!!だからあの子は…」
そこまで言うと女は黙り込む。
「どんな事情があっても危害を加えて良い理由にはならないはずだよ?」
その言葉は俺にも刺さる。前であればうるさいの一言で片付けていた。でも今は…
「黙れ!!!ッ!!!だが貴様等の力は理解した。絶対に今度こそ貴様等を殺してやるよ」
そう言うと女は他の風紀委員に「帰るぞ!」と叫び、学園の方に戻っていった。
俺は気が抜けてその場に座り込んでしまった。月が泣きそうな顔で俺の元まで走ってきて、俺の顔を胸で包む。
「ちょっ!?月さん!?」
「良かった…本当に良かったよ…」
月は顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっている。俺は「ごめんな」と一言言って、彼女の頬に触れる。月はうんうんと泣きながら頷いた。
「コホン!そろそろいいか?」
俺たちのその姿を見ていた藤原が赤い顔でそういうと、荊も照れ笑いをして「とにかく無事で良かったよー」と言う。
俺は急いで立ち上がり、「す、すまん」と照れ隠し気味に言う。
「しかし今の風紀位委員会だろ?何であいつ等に?」
俺は今までの経緯を詳しく説明する。
最後まで聞いた藤原は困惑した顔をした。
「って事は月さん、記憶がなくなってんの!?」
「そう言うこと。で、あの時、月を助けたからだろうな。風紀委員会に目をつけられちまったんだろうよ」
俺がそこまで言うと月はかなり落ち込んだ表情をしたので「月のせいじゃねえからな」と言って、頭を撫でる。すぐに明るい顔になって頷く。表情がコロコロ変わって面白可愛い。
それを見ていた荊が信じられないと言う様な顔で口をぱくぱくさせた。
「つ、月さん、妖怪だよねぇ?」
「ああ、鵺って言う大妖怪なんだと」
「嫌、それは分かってるよ?安倍君、妖怪大っ嫌いじゃなかった…??」
その言葉にドキッとした。つい昨日までは荊にさえ、冷たく当たっていた、俺が転校生の月にはこれだけのスキンシップを取っている。荊にとっては不気味以外の言葉がないだろう。
「こ、これは…」
「月さんがす…」
「嫌!?そんなんじゃねぇが!?ただ、俺がコイツを巻き込んじゃったから責任とってるだけだが!?」
俺が必死にそう言うと荊は急に大声で笑い出した。
「な、何だよぉ…」
「あはは、いやいやごめんね、でも本当にいい意味で変わってきたなぁって…だって昨日までの安倍君、私たち妖怪を嫌いなのは勿論だけど、人間の子達にも心開いてなさそうだったんだもん。今の安倍君、すごくいい顔してるよ?」
荊はそう言って微笑む。
そうだ。俺は妖怪が嫌いだった。そしてそれに肩入れしてた人間さえも…やがて全部憎くてウザくて…でもそんな気持ちを月が確実に変えてくれた。絆されてきた。俺は月を見つめる。不思議そうに月は俺を見る。俺はそっと抱きしめる。月は急な事で軽くパニックになっていたが、すぐに安らかな顔で俺の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
後ろでは俺を茶化す2人の声が響いたが、関係なく、俺は月に感謝しながらしばらくその体勢を取っていた。
【風紀委員会室】
「で?言い残すことは?」
「ほ、本当に申し訳ございませんでした…」
風紀委員長は椅子から鮫島を睨みつける。
鮫島は身体をガタガタと震えて頭を下げている。他の風紀委員も震えが止まらない様子で、全員が頭を下げている。
「言ったな?失敗をするなと?たかが妖怪と人間の2人にそれだけの勢力を連れて何故に貴様も他の生徒も傷だらけで帰ってきているのだ?そこまで弱く育ててなどいないつもりだったが?」
「お、恐れながら申し上げますと、実はあの2人の他に乱入者が有りまして…」
「…何?」
「ふ、藤原と名乗る生徒と鬼の娘、鬼怒川が乱入しまして…」
「なるほどな…鬼の圧倒的な力で押し負けたか…」
「はっ」
「だからなんだと?」
風紀委員長は今までより更に威圧的に言う。あまりの恐怖に全員の額には大量の汗が流れていた。
「私であればあれだけの鬼なら造作なし。貴様の鍛錬が足らんからではないか?鮫島よ」
「は、はい、その通りでございます…」
「では分かるな?処罰室に連行…」
「お、お待ちください!!」
後ろから恐怖で声の裏返った男が声を上げる。如月だった。
「何だね、如月」
「た、確かに鮫島は油断しておりましたし、自分を過信しすぎておりました…で、ですが鬼は本当に強い!ましてや、鬼怒川という女はあの茨木童子の孫娘でございます。か、下級の鬼とは比べものになりますまい!!」
「だからなんだと?貴様も共に鮫島と懲罰を受けたいのかね?」
「め、滅相もございません!!す、全ては風紀委員長が正しくございます!で、ですがもう一度だけ、もう一度だけ、我等にチャンスをいただく事は出来ませんでしょうか!?」
如月は大量の汗を流し、半泣きな状態で風紀委員長に進言する。それを聞き、顎に手を当てた風紀委員長はしばらく思案した後、ため息をつき、如月を見つめた。
「よろしい、貴様の熱弁には流石の私も心が揺さぶられた。では如月、貴様は鮫島と共に行動してあの人間…そして妖怪共を完全に行動不能…殺してこい。手段は問わん。成功したら貴様等は不問。特別な報酬も与えるよ。ただし、失敗すれば…分かっているな?貴様が言い出したことだ。それなりの覚悟を持っての事であろう?」
そう言って風紀委員長は悪意に満ちた笑顔で言う。それを見て気絶した生徒も複数いたが、鮫島と如月、両名は何とか意識を保ち、「お任せを」と胸を張った。
「よろしい、放課後、行動を開始せよ……私はアイツとは違う……完璧に妖怪のいない世界を目指してやる……」
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