第8夜

目覚ましが鳴る。

眠気眼をこすりながら、スマホの画面をタップしてアラームを止める。

「夢…見なかったな…」

驚いたことに今朝は何も夢を見なかったようだ。あれだけ俺を悩ませていた、あの鬼と母さんの惨劇…もう2度と見たく無いと熱望した…それをたまたまかもしれないが見なかった。それだけで俺は幸せを感じた。

「月…」

のおかげだと思った。あいつとはたった1日しか絡んでないが、それでも俺の中では確かに何か変わった。

あいつの笑顔を思い浮かべる。熱が上がる気がして、俺は自身の顔を両手で叩いてから学校に向かう準備を始めた。


「おはようございます、安倍です」

月の家のインターフォンを鳴らし、反応の後にそういうと、中から昨日の美人な女性が現れる。

「お待ちしておりました、安倍様」

「いや、様はいらないですよ…」

「お嬢様の学友ですもの、それくらいは礼儀ですから…それより、まだ私自己紹介しておりませんでしたわ、失致しました。私、夜裂家に代々仕えております、木葉このはと申します、葉天狗はてんぐと言う妖怪の娘です、どうぞよろしくお願いいたします」

そう言って木葉さんはペコリと頭を下げる。俺もそれに倣い、頭を下げた。

「お待たせしました」

しばらく俺と木葉さんで雑談をしていると、月と月のお母さんが出てきた。

月は昨日と違い、髪を纏めてポニーテールにしていた。俺は思わず見惚れてしまう。

「あのぉ、安倍君?」

月の声で我に返り、慌ててはぐらかす。熱が高まる。顔が熱い。

「な、何でもねぇよ…」

月は不安げな顔をしていたが、すぐに安心した顔をして微笑む。

「さぁ、じゃあ行くぞ、月」

「はい!!!」

俺は月のお母さんと木葉さんに頭を下げて、学校に向かった。


「奥様、月お嬢様、イキイキとしておられましたね?」

見送りの後、木葉が月の母、華に言う。

「余程、彼に会うのが楽しみだったのでしょうねー、私が若い頃を思い出します」

「奥様の若い頃ですか!?」

「ええ、あの人に少し似てるの、あの子」

華の顔は嬉しそうでいてどこか悲しそうでも有った。


「時間は…うん、大丈夫だな、ゆっくり行こう、月」

「はい!安倍君!」

月はそう言うと、俺の手を握ってくる。俺は思わず、声が出る。それを聞いた月は再び不安そうな顔で「嫌でしたか?」と言う。

「嫌な訳あるか。ただ、少しびっくりしただけで…」

月はホッとした顔をして、俺の手を強く握る。

俺も月の手を少し強めに握る。痛そうな顔はしてないか?大丈夫か?そんな事を考えていると、月は俺を見て微笑む。それがあまりにも嬉しかった。

しばらく、他愛も無い話をしていると、目の前から、集団がやってきた。

「!?」

それを見た瞬間に俺は身構える。ウチの制服を着ている。それに腕章…あれは!

「風紀委員会!」

俺は元来た道を戻ろうとUターンをするが既にその方向からも風紀委員が集団で迫っていた。

「やぁやぁ、おはよう諸君ー」

前方の集団から声が聞こえる。女の声だ。

「あんたら、風紀委員会だろ!!何の用だ!!」

「またまたー、分かってる癖にー、私達に楯突いた、妖怪嫌いの安倍清市君に我々の怨敵、妖怪鵺の夜裂月さん?」

月は俺の腕を掴んで震えている。俺は彼女の頭を撫でて、微笑む。

「大丈夫だ、月。お前を絶対に守る」

月は少し安心したのか、微笑む頷いた。

「確かに俺はアンタらに攻撃した。だが、それは月を攻撃したからだろうが」

「あれれぇ?おかしいね、君は妖怪嫌いの筈だろう??何で妖怪の肩を持つのかなぁ?」

「俺は少し考えを改めたんだよ。アンタらみたいに全部の妖怪を恨むのを辞めた」

「辞めた?辞めただと?ふざけた事抜かすなよ!?ガキが!!」

その女子は急に大声を出すと、武装玉を取り出す。それは大鎌の形になり、俺達に向ける。

「恨むのを辞めたなんて笑わせないでよ!!妖怪は全部悪だ、全部殺されなければいけない!!クフフ、妖怪を殺すまではするなって言われてるけど、もうそんなの関係ないわ、貴様等、ここで死ねよ!」

鎌の女子がこちらに猛スピードで突っ込んでくる。

俺は昨日のやり取りを思い出す。


【月の家に向かう前 保健室にて】

「あぁ、そうだ、君にこれを」

そう言って渡辺先輩が渡してきたのは武装玉だった。

「武装玉…?」

「うん、多分君達は完全に風紀委員会に目を付けられたと思う。しかも今は月さんがこんな状態だ。無理に憑依などしたらどんな弊害があるかも分からない。そこで、仮にあいつ等に襲われた時の最終手段として渡しておく。ただし、憑依と違って妖力を詰め込める限度がある。憑依よりかなり脆いから、連戦はしない様にね」


「仕方ねぇか!!」

俺はズボンのポケットから武装玉を取り出す。そして目を閉じると、それは月よりはかなり小ぶりな爪型の小手になっていた。

俺はそれで鎌を防ぎ、横に受け流す。

「くっ!?武装玉か!?」

「お生憎様、俺も月も死ぬ気はねぇ!!」

俺は腹に蹴りを入れようと蹴るがそれよりも早く、女子は後ろに下がった。

「糞忌々しいな!!!おい、テメェ等!囲め!!!」

女子がそういうとすぐに俺達は風紀委員に囲まれた。どいつもニヤニヤして剣や斧を構えている。

月は涙目になり震えている。絶体絶命か…

「月、俺が道を作る。お前はそこから逃げて誰か呼んで来てくれ」

「嫌です!!嫌、安倍君が怪我するなんて嫌…」

月は泣きじゃくる。

「月!!!」

俺が月の肩を掴んで叫ぶとビクッとした。

「頼む、言う事を聞いてくれ。このままじゃ2人ともコイツ等に…」

月はそれでも首を横に振る。

「ごめんなさい…私が弱いから…」

月はその場に座り込んでしまう。違う、そんなんじゃない

「月の性じゃねえよ、俺は月のお陰で変われた、感謝している」

俺は月を無理やり起こすと彼女を抱きしめる。

「ありがとうな、月」

俺は耳元でそう囁くと、武器を構える。そして、1人の風紀委員に突っ込んだ。

「月!!頼む!!!」

「安倍君!!!!」

「その必要はねぇ!!!」

後ろからそんな声がきこえた。次の瞬間、次々と道を塞いでいた風紀委員が倒れていく。

「え!?」

やがて、集団を倒した奴が俺の目の前に現れた。お前は!!

「ふ、藤原!?」

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