第7夜
あれから俺が泣き止むまで月の母さんは俺の背を撫でてくれていた。
俺もだいぶ落ち着き、ハンカチで涙を拭き咳払いをする
「す、すみません、初対面でこんな…」
「ふふ、気になさらないで、色々と思い詰めてたのでしょ?どう?
スッキリしました?」
俺が頷くと月の母さんは微笑む。
「俺、実は妖怪が嫌いで…でも今、死んだ母の言葉を…」
「妖怪嫌いにお母様が関わってるのですか?」
俺は再び頷くと月の母さんは不安そうな顔をする。
「すみません、妖怪である貴方の前でこんな…」
「良いんですよ、気にしないで…お願いがあるんです、安倍君。私は嫌いでも構いません。ですから、どうか娘…月だけは嫌いにならないであげてくれませんか?」
「もう…大丈夫です。妖怪はあいつだけを恨みます。あの悪鬼だけを…」
「悪鬼?」
俺は母の死の原因である悪路王の事を話した。悪路王の名前が出た瞬間、月の母さんは先ほどまでの優しそうな顔から鬼の形相に変わる。
「悪路王ですって!?」
「は、はい、母をあいつに…」
「悪路王、あの外道が…まさか妖怪に限らず人にまで…」
「え!?悪路王は妖怪も襲ったのですか!?」
「ええ、あの悪鬼は自身の力を高める目的で様々な妖怪を喰らいました。どの妖怪も人間との共存を目指した優しい方々でした…それをあの悪鬼は…妖怪だけでは飽き足らず人にまで手を出すとは…滅ぼさなければ…」
「それが実は…」
俺は憑依大会にあの鬼が出る話をする。それを聞き、月の母さんはひどく狼狽した顔をした。
「そんな危険なところに安倍君や月が!?…ですが多分、悪路王の件は大会に伝えたんでしょうね…」
「はい、八岐大蛇の乃々先輩という方が…」
「八岐大蛇様の…」
「俺、その大会に出ます。月さん本人の決意は今は聞けてませんが…お母さんは反対されますよね?」
俺は月の母さんの顔を見る。少し戸惑った顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「…母ですからね、それは月に危険な目には遭ってほしくありません…でも、それは私の決める事ではありません、月が決めることです」
「じゃあ」
「ええ、もし月の記憶が戻ってあの子が決めたら…その時は…ですからどうか月を守ってあげて欲しいのです、安倍君」
月の母さんは俺の手を握る。
「でもだからと言って貴方も危険な目に遭ってほしくありません。必ず2人とも危険な事をしないという前提での話です。約束できますか?」
俺は月の母さんを真っ直ぐ見つめて頷く。それを見て月の母さんは安心した様な顔で微笑んだ。
「今日はどうもありがとうございました」
俺が頭を下げると月の母さんや先ほどの女性が微笑む。
「こちらこそです、気をつけて帰ってくださいね」
「あの…」
月の母さんに身体を寄せていた月はか細く声を出す。俺が不思議そうに見遣ると月はモジモジと身体をくねらせ、顔を赤くしてなかなか次の言葉が出ない。
「どうした、月?」
「あのー…よ、よかったらまた明日迎えにきて欲しいです」
「へ??」
「あ、安倍君と登校したい…です…」
「え!?」
俺は顔が赤くなってるんじゃ無いかと思う程にドキドキした。月は俺を見ているがその目は涙目だった。月の母さんや女性は俺を見て微笑んでいる。
「お、俺でいいのか?」
「安倍君以外は…嫌です…」
俺はその言葉で完全に参ってしまった。何でこんな可愛いのか…
「わ、分かった、明日迎えにくるよ」
それを聞いた月は顔をパーッと明るくして満面の笑みで「待ってます!!」と返事をした。
【月が記憶喪失になった頃 風紀委員会】
「で?失敗したわけ??」
「も、申し訳ございません…」
「あー!!!もう使えない奴らだな!!!これなら最初から私が出てたらよかったじゃない!!!」
髪の長い女がヒステリックに叫ぶ。
「うるさいぞ、
「あ!?あんたこそ、その図体のデカさをどうにかしなよ、
如月という大柄な男が言うと鮫島という女が再び叫ぶ。
それを嫌な目で見つめるニット帽を被った男とショートヘアの女が奥で座る女に目で何かを訴える。
「2人とも、黙れ」
奥に座るポニーテールの女が静かにいうと2人はすぐに黙る。
「とにかく、これは私のミスである。あの月という鵺の娘を甘く見ていたな」
「い、いやそれが…じ、実はその場に2年の安倍という男子生徒が割り込みまして…」
「何?」
「そ、その上で憑依をしまして…」
「貴様ら、なぜそれを最初に報告しなかった?」
「も、申し訳ございません!!」
ポニーテールの女は机を力強く叩く。その場にいた全員が震える。
「妖怪は絶対に許さん。妖怪共に肩入れする人間共も…だが急いては事を仕損ずるとも言う。鮫島、お前だけでいけるな?」
「も、勿論で御座います、会長!!」
「であれば、貴様に月と安倍の狩を命じる。私を失望させるなよ?」
「仰せのままに、会長…クフフ」
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