第5夜
「あんたは…?」
「ワシは三年の
俺が頷くと乃々先輩も頷く。
「ついでに私たちも自己紹介させてもらいますね。挨拶が遅れてしまい、申し訳ない。私は生徒会会長の
そう言うと渡辺先輩達はそう言うと頭を下げた。
「さて、とりあえず、少し頭もはっきりしたと思うから、先ほどまでの話を…」
「そうだ…!!月は…!月は!?」
「落ち着くんじゃ、安倍殿!!彼女…月殿は無事じゃ!!怪我もしておらぬ!!お主の隣のベッドで寝かしておる!!」
乃々先輩はそう言って俺の体を抑える。とんでもない力だ。さすが妖怪か…
俺がそれを聞き、落ち着くと、乃々先輩はふうっと息を吐く。
「話を進めるぞ?まず、ワシと後2人、妖怪が…彼奴等については後で紹介するがの、とりあえず、ワシが生徒会室に戻ると、もぬけの殻じゃった。じゃがワシはとんでもなく嫌な予感がして、妖術で部屋を探ったら、大正解。何者かが莫大な妖力を使った痕跡が有った。そこでワシは急いでその痕跡を追って体育館に辿り着いた。そこに行けば吃驚仰天、始達は倒れておるし、傷だらけの悪路王はおるし…」
「悪路王!?貴様!!何をしたんじゃ!?」
「ふっ、八岐大蛇の所の孫か…見て分からんか?私がこれだけの大怪我を覆ったのだ、そこの小僧小娘によってな」
それがお主、安倍殿と月殿じゃった。
「貴様、それだけの手負で逃げられると思うておるのか?ここで消滅させる」
「笑わせる、いくらこの私が手負いとはいえ、憑依もできない貴様等に負ける道理など無いわ!」
そう言ってあやつは立ち上がっての、そしてこう言った。
「そこの小僧小娘に言っておけ!!私はとある小僧と共に妖術全国大会に出る!!そこで真の殺し合いをしようではないか!!」とな。
「その後はすぐに彼奴、煙になって逃げてしまっての、封印などは出来んかった。最も、封印などワシ1人では到底無理じゃっただろうが…」
そう言って、乃々先輩は息を吐く。
俺はそこで疑問を口にする。
「妖術全国大会って?」
「年に一度、憑依を行える人間と妖怪だけが参加できる大会で…まぁ、スポーツの大会みたいに思ってくれればいい。そこにあの悪路王が出ると言うのは不可解極まりないが、あいつは脅しや嘘を言うような悪鬼では有るまい。それにあの時点で君や僕らを殺せたはずなのにあえて見逃している。その大会に何か思惑があるんだろうが…」
「先ほどワシの方で大会に連絡を取ったがやはり特例を認めるわけにはいかないとワシ等の参加も出来んし、かと言って開催しなければあの悪鬼、何をしでかすか分かったもんじゃないしのぉ…」
「え!?先輩方は参加できないんですか!?」
「あぁ、一度大会に参加した人間は参加資格を失うのが大会の基本規約でな。ワシの方でも抗議はしたが、さすがの八岐大蛇の孫でも聞き入れられんかった。そこに、悪路王じゃ、悪戯だと思われたんじゃろうな笑われたわ」
そう言って乃々先輩はふくれっ面を作った。
「大会は今年の10月、今は5月だ。それまでに力をつけた上でもう一つの資格もクリアーしないとね」
渡辺先輩は苦い顔をして手を顎に当てる。
「もう一つ…?」
「あぁ、実は大会に参加する学校から4人の憑依者を選出しないといけないんだ。安倍君で1人だからあと3人……」
「み、みんな!!月ちゃん起きたよ!?」
話の途中で三奈ちゃんが叫ぶ。俺は痛みや周りの静止を無視して月のベッドに急いで向かう。
そこにはボーッとした顔で壁を見つめる月の姿が有った。
「月!!」
「えっと…それって私のことでしょうか?」
「は???」
「なっ!?月が記憶喪失!?」
俺が叫ぶと周りの全員も驚いた顔をした。北里先生は苦渋の面を作り、頷く。
「半妖化の反動…なんだと思う。いかんせん、僕も記憶喪失になった前例を見た事がなくてね…」
「俺の性…なんですよね」
「違う、安倍君、君の性では…」
「俺が怒りに任せなければこいつが記憶を無くすことは無かったはずです!!」
俺はそう怒鳴ると力任せにドアを開き、走り去った。後ろからは先輩の声が聞こえたが構うもんか。俺は校舎を駆け抜けた。
「ここにいたんだねぇ」
「!?坂田先輩!?」
俺はあの後、行き場を失くして、仕方なく、その辺をぶらぶらしていた。やがて疲れと怪我の痛みが来た俺は、近くの河川敷で座り込んでいた。そこになぜか坂田先輩と楓先輩が来た。どうしてここにいると分かったんだ?
「どうしてここに来たんだ?って顔してるねぇ」
坂田先輩は俺の心を見透かす様にそう言った。俺が頷くとニヤッと笑う。
「実は俺、妖術使いの名門の家系でね、君に僅かに残った妖力を辿ったのよー」
「…なるほど」
「たか君、ちゃかすの辞めてあげなよ、必死で走り回ったんでしょ、私たち」
楓さんは坂田先輩をジトっと見ると坂田先輩はくすくす笑った。
「すまんね、そう言う事よ、どんな反応するか楽しみでね。まぁ、妖術使いの家系てぇのは本当の事だけど…」
「…それで?俺を連れ戻しに来たんすか?」
「いや、少しだけ話をしたくてね」
そう言うと俺の隣に腰を下ろす、坂田先輩。俺はため息をついた。
「話って?」
「君は彼女の事を巻き込んでしまったってすごく後悔してるみたいだったけど、君は妖怪が嫌いなんだよね?何でそんなに後悔してるのかなって」
「それは…」
「妖怪嫌いならそのまま彼女の事を俺たちに任せたって良かったんじゃ無い?」
「…」
「君は彼女が好き……」
「そんな訳ない!!!」
隣に座る先輩方が驚いた顔で俺を見る。かく言う俺も思った以上に大声が出て驚いた。
「そんなんじゃ…無いです…」
「じゃあどうする?俺達委員会に彼女を任せて手を引くかい?」
「え??」
「大会にあの悪鬼が来ると分かった以上、俺達でも手の取りようがある。あいつは本気だろう。大会に君達が出ても出なくてもきっと沢山の死人は出る。でも大妖怪殿の力を使えば封印は出来るだろう。だから彼女が嫌いで大会にも出たく無いならそういう手の取り方もあるよ?でもそれでいいの??」
坂田先輩が俺の手を掴む。
「俺は…」
「君は逃げる前に【怒りにまかさなければ】って言ってたよね?半妖化は怒りや絶望に強く反応する。それだけの怒りを覚えた悪路王を君は放っておけるの?」
「……」
そこで急に先輩のスマホが鳴る。先輩は画面を確認して耳に当てる。
「あーい、どうしたの?……へ??いや待て待て!?ぎゃ、ギャグかい??ち、違う!?あぁ!!分かった取り敢えず急いで連れて行く!!」
先輩はそう言って電話を切ると、俺の手を強く引く。
「え!?ちょ、ちょっと!?」
「すまない、事情が変わった!!月さんが暴れているんだ、来てくれ!!」
「はぁ!?」
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