第3夜

そして俺に急に抱きついてきた。

「え!?うわ!?」

「怖かった…怖かったです…!」

俺の胸に顔を埋めて泣く彼女に俺は思わずその頭を撫でてしまった。

「いいじゃないの、青春だねぇ」

「なんか親父臭いよ、一癒」

「おじさんだからいいんですぅー。さて、君が夜裂月さんだね?」

月は北里先生の方に向き直ると、涙目でコクリと頷いた。

「何があったか覚えてるかな?」

「は、はい、あの、風紀委員会と言ってた人たちが私をどこかに連れて行こうとして、助けてって叫んだら、彼が助けてくれて。そしたら、彼が風紀委員会の人に刀で切られそうになって…それで…」

「気がついたらここに居たって感じかな?」

月が頷くと北里先生は坂田先輩を見て頷く。

「間違い無く憑依だね」

「俺と楓の時もそうでしたからね。となるとトリガーは彼…」

「何です?」

俺が聞くとこちらを向き、「詳しい話をするから二人でついて来てくれるかな?」と言った

「分かりました」

「あ、あの!!皆さんは…?」

月の言葉に確かにと思った。急に目が覚めたら保健室にいて、事情を聞かされてないのだから。北里先生、三奈ちゃん、先輩方が自己紹介と軽い現状を説明してくれたおかげか、月の不安そうな顔は大分引っ込んだ気がした。

「そして彼が君を助けた…」

「安倍清市。同じクラスだ」

「安倍君、本当にありがとう。助けてくれて」

彼女は少し照れながら言うので俺は思わずドキッとしてしまう。

「か、勘違いすんな、俺はああいう高圧的な奴が嫌いなだけで、別にお前なんか助けなくたって良かったんだ」

「え??」

彼女は今にも泣きそうな顔をした。そんな顔で俺を見るな。

「彼…安倍君は妖怪が嫌いなんだって」

楓先輩のその言葉に、更に落ち込む月にだんだんモヤモヤしてきてしまう。

「だー!!オメェの所為じゃねえよ!俺は妖怪は確かに大っ嫌いだが、別に罪の無い妖怪まで嫌いになってねぇ!!まぁ、多少の苦手意識はあるが…」

それを聞き、月は涙目で頷き、手を差し出す。また握手か?

だが、俺は楓先輩の時と違い、その手をすぐに握る。その手は少し冷たいがとても柔らかかった。

「あれれー?私の時は握ってくれなかったのに、彼女は握るんだ??」

案の定、楓先輩は揶揄うような口調でそう言う

「いや、これは!」

「楓、揶揄わないの。大丈夫だよ、安倍君、この後話す、憑依の話にはその絆がとても大切だからね。さて、じゃあそろそろ説明の場に行こうか」


「は?」

連れて来られたそこは生徒会室だった。

「ここって?」

「うん、俺たちの部室。さあ、入って」

そう言うと坂田先輩が扉を開く。

「はーい、ただいまー」

「おかえりーって、なんか連れてきた?」

少し髪の長い男子が俺たちを見て言う。

「たか、おかえり。何かありました?」

今度はポニーテールに眼鏡の女子が声をかける。

「うん、ちょっとね。生徒会長どのー、お話ー」

「どうしましたか?たかちゃん」

一番奥の椅子に腰を欠けていた、眼鏡の男子生徒が坂田先輩を見て言う。

「この子達ね、憑依した」

「は!?」

眼鏡の男子生徒はそれを聞き、勢い良く立ち上った。

「何ですって!?憑依!?」

「驚き桃の木だよねー」

「君たち、名前は?」

「に、二年の安倍清市です」

「お、同じく二年の夜裂月です…」

「驚いた…夜裂家のご令嬢と君が憑依するとは…」

「待ってくださいよ、さっきから憑依、憑依って…何なんですか!?」

俺がかなりイライラしながらそう聞くと、眼鏡の男子生徒は坂田先輩を見る。

「たかちゃん、説明してあげなかったんですか?」

「いやぁ、こう言う事はさ、一応リーダーを通してからのほうがいいかなって。それにほら、俺ってば、説明ドチャクソ下手じゃん?」

坂田先輩はそう言って笑うと、眼鏡の男子がため息をつきながら、俺達に説明を始めた。

「憑依はある一定の状況下…特に死地などに追い込まれ妖怪と人間の相性がいい場合に限り、妖怪が武器になる現象です」

「武器??」

「ほら、君の場合は爪だったでしょ?あれは夜裂さんが鵺って妖怪の末裔だから妖怪鵺の力が武器、つまりは鵺の虎の手足が武器化した」

「この憑依は極めて珍しい事案でね。うちの高校でも憑依できるのは本当に一握りです」

「つまり…?」

「彼女と相性がいいって事だねー」

そう言ったのは後ろに立っていた、髪の長い男子生徒だった。

「冗談じゃない!!誰がこいつと…」

そう言って月を見るとまた泣きそうな顔をしている。その顔はやめろって…

「彼は妖怪が嫌いなんだよ」

またまた楓さんがそういうと眼鏡の男子は驚いた顔をした。

「ほぉ、またどうして?」

楓さんが再び俺の妖怪嫌いの経緯を話す。しばらく黙々と聞いていた眼鏡の男子だったが、【悪路王】という単語が出た瞬間、顔色を変えた。

「悪路王ですって!?」

「知ってるんですか?」

「私の親を殺した犯人です」

「!?」

その言葉に一瞬、気を失うかと思った。ふらついた体は月に支えられた。

「何ですって…?」

「君と同じく、悪路王に親を殺された人間なんだ、私も」

「…」

言葉が出ない。この人も俺と同じ…坂田先輩と同じ…

「悪路王、やはり死すべき存在だな、あれは」

【そいつは面白いな、是非殺してみてほしいものだ】

急に空から声が響く。その声は低く、聞いた者に恐怖を植えつける声…聞いた事がある。まさか!?次の瞬間、周りに紫色の煙が充満する。煙はすぐに薄くなったが、俺の横に黒い影が立っていた。身長は俺の二倍はあるか?2メートルを優に超えるそれは赤黒い肌をした鬼だった。間違いない、こいつは…

「「悪路王!?!?」」

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