第2夜

「お前が転校生の夜裂月だな??」

「は、はい……えっと皆さんは…?」

「俺達は風紀委員会。転校生が妖怪だと聞いてな。悪いが捕縛させてもらう」

「え??ま、待ってください!一体どこに連れて…誰か、誰か!!」

月を見つけ、その手を無理やり引っ張られているのをみた俺は気が付く飛び膝蹴りで風紀委員会の1人を吹き飛ばしてしまっていた。

やっちまった…風紀委員会に楯突くなんて……

風紀委員会……かなり黒い噂を持つ組織……

何でも俺みたいな妖怪嫌いが集まっているらしく、妖怪を半殺しにしたり、退学に追い込んだりとかなり暴力的に妖怪を排除していると聞く。

何故俺がそこに入らないかは、ただ気に入らないってだけだ。確かに妖怪は大っ嫌いだ。俺の事をバカにしてくるやつもいるし、力で解決しようとするやつもいる。それでも戦う意思のない妖怪や善良な妖怪まで傷付けようとは思わない。俺は風紀委員会のやり方は嫌いだ。

「くっ!?貴様、2年の安倍か!?」

「そいつに何をしている?」

「決まっている、風紀委員長に判決してもらうのだ。半殺しかそれ以外か」

それを聞き、月はふるふると震え出した。

「そんな事させるかよ」

「何故だ?貴様も妖怪が嫌いな筈だろ?何故、妖怪の肩を持つ?」

「こいつがテメェらに何かしたかよ?こいつは今は善良な妖怪だ。それを傷付けることは許さない」

「やはり貴様とは分かり合えないようだな。総員!!囲め!!」

そう言うと風紀委員は俺と月を取り囲む。

「死んでもらう」

「マジかよ……」

その手には刀や槍を持っていた。武装玉ぶそうだま。数珠に妖術を詰め込み、念じると武器に変わる不思議な数珠、まさか本当に使うとは……風紀委員の1人が切りかかり俺の腕をかする。

冗談ではない、これは本気で俺達を殺そうとしている。かすった所が暑くなりジンジンと痛む。

「今のは警告だ。その妖怪を渡せ!!!」

「お断りだよ」

「そうか、本気で死にたい様だな。残念だ。殺れ。」

風紀委員は再び刀を構える。今度は胴を完全に狙っている。終わりか……

「ごめんなさい、全部私のせいで……」

「黙ってろ、これは俺の決めたことだ。俺が切られた瞬間に逃げて誰か呼べ。とにかくお前は助かれ」

「そんな…嫌です、そんな……!」

月がそう言って泣くと、刀はもう俺の目の前に来ている。俺は目を瞑り、先程より数倍強烈であろう痛みを待った。


次の瞬間、強烈な風が吹いた。

そして人が倒れこむ音と悲鳴。俺は恐る恐る目を開くと、そこには先ほど俺達を取り囲んでいた風紀委員が全員倒れており、リーダー格らしき男がこちらを指差して口を大きく開けている。

「き、貴様!!!なんだその手は!?」

俺はその言葉に不審に想いながら自身の手を見る。そして驚愕した。

「何だよ…これ…」

俺の手はまるで獣のような爪のある恐ろしい形になっており、色も赤黒く不気味だった。

「小細工なんか使いやがって!!死ね!!」

リーダーが俺に刀で切り掛かってくる。俺は咄嗟に爪でその攻撃を防ぐ。バキバキという音と共に刀が砕ける。それを見たリーダーは唖然とそれを見ていたがすぐに顔色を変えて「化け物!!」と叫びながら気絶している他の風紀委員共を放置して逃げ出した。

何なんだこれ……

そう言えば月は??あいつ、逃げれたのか??

そんなことを思っていると再び強烈な風が吹き、腕で目元を覆う。

風は次第に止み、目を開けると、俺の足元に月が倒れていた。

「お、おい!!お前!!!」

俺が揺すって起こそうとするが、一向に目を覚まさない。

くそっ!どうなってんだ…

俺がもう一度、揺すろうとした時、角から誰かがくる気配がした。

俺が先生とか違う風紀委員会の人間じゃないかと警戒していると、見慣れない小太りの男子と背の低いツインテールの女子が現れた。

「おお、随分凄い事に…」

「あんたは…?」

「自己紹介は後にしようか、その子を休ませてあげないとね」

そう言って男子は月を見遣る。

「保健室に行こうか。君も少し傷があるみたいだしね。その子は俺が背負うよ」

そう言って男子が月の身体に触れようとする。俺はその手を掴んでしまった。

「おや?信用できないかな?」

「当たり前だ。お前、風紀委員会の人間じゃないのか?」

「風紀委員会か…懐かしいね…」

「え??」

「いやいや、こっちの事だよ、気にしないで。それより、俺が信用できないって話なんだけど、俺は誓っても風紀委員会の人間ではないよ。生徒会の人間だ」

男子はそう行ってニコッと微笑む。

生徒会…妖怪も在籍している本校で一番の発言権がある存在…

「とりあえず、今は彼女の事が最優先だと思うなー。大事な子なんでしょ?今だけでも信用してくれないかな?」

側に立っていた女子がにこやかにそう言う。誰が大事な子だと言い掛けたが、それを飲み込み頷き、月を男子が背負った。


「失礼します」

保健室の扉を開いてそう言うと、奥から「はーい」という返事が聞こえ、すぐに奥から白衣の男が現れた。

「おや、坂田君?久しいね」

「お久しぶりです、北里先生」

「それと…その背負っている女の子と彼は初めてかな??」

そう言って北里と言う先生は月と俺を見遣った。

「は、初めまして」

「はい、初めまして。とりあえずその子を寝かしてあげてようね。それから君も腕の傷を見せて」


「彼女の方は妖力の枯渇だね、妖術液を注射したから次期に目を覚ますと思う。それから君の傷は…三奈みな!」

「はいはーい」

そう可愛い声が聞こえると小学生くらいの女の子が薬剤の棚からこちらにやって来た。

「三奈、鎌鼬かまいたちの秘薬ってまだある?」

「うん、少しだけ。またお姉ちゃんに作ってもらわないとね?」

そう言って三奈という少女は自身のハーフパンツのポケットから小さな瓶を取り出した。

「ちょっと痛いかもだけど我慢ね」

そう言って北里先生は小瓶から緑色の粘液状の物を少量取り出し、先ほどの刀傷に塗る。

一瞬、焼けるような痛みが走り、声を上げたが、すぐに痛みも引き、傷口も見る見るうちに塞がっていった。

「す、すげぇ…」

「すごいでしょ??これね、お姉ちゃんが作った塗り薬なんだよ?どんな傷もあっと言う間に塞がっちゃんだー!」

三奈という少女はそう言うと胸を張る。

「彼女は三奈、鎌鼬という妖怪の娘で僕の仕事を手伝って貰っているんだ。それから私は北里きたざと 一癒いゆ見ての通り、保険の先生ですよ、仲良くしてね」

「この流れで俺達も紹介させて貰っちゃうね?俺は坂田さかた 貴文たかふみ。生徒会書記の3年生だよ、よろしくね。それからこの子が…」

「こんにちは、私、松山まつやま かえで!同じく3年生で隠神刑部狸いぬがみぎょうぶたぬきって言う妖怪の娘なんだーよろしくね!!」

そう言うと楓先輩は俺に手を出してきた。多分握手を求めてるんだろうな、と言うのはすぐに分かったが、俺は妖怪のせいかその手を握れなかった。

「うん??」

「俺、妖怪大っ嫌いなんすよ」

その言葉に楓先輩と三奈ちゃんは凄いショックを受けていたようだったが、すぐに楓さんは手を引っ込め、ニコッとした。

「たか君にそっくり…」

楓先輩はそう呟くと坂田先輩を見る。坂田先輩は優しく微笑むと俺に声を掛けてきた。

「ねぇ、君の名前は?聞いてなかったよね?」

「…安倍…安倍清市…」

「うんありがとうね、安倍君。それで安倍君、君は妖怪が大っ嫌いなのかな?」

俺は坂田先輩の優しい口調に理由を話し出した。もう誰にも話すつもりも無かったあの話を…

それを聞き終えた坂田先輩はすごく驚いた顔をしていた。

「驚いた…ここまで俺にそっくりとは…」

「え???」

「あぁ、実は俺も親を鬼に殺されていてね」

それを聞き、俺は言葉を失った。この人も俺と…

「その性で俺も入学当初は随分荒れたもんだよ、なんで妖怪共なんかと一緒に生活しなくてはいけない?全員殺してやろうって」

「でも今は…」

「うん。今の生徒会長殿に色々と諭されてね。それからは妖怪を全て恨むのは辞めようって」

「先輩の言ってる話は嘘じゃないかもしれませんけど、妖怪は悪ですよ」

「うーん、じゃあなんでその女の子を助けちゃったのかな?」

「え?」

「すまないね、見させてもらっちゃった。君は彼女の手を引っ張っていた風紀委員の1人を蹴っ飛ばしてたよね?」

しまった、生徒会に見られてたとは。俺の表情を見て察したのか、坂田先輩は微笑む。

「安心してくれ、俺は君にあの時のことを違反行為として話してるんじゃないし、あの事は不問としているからね。それよりも何で君は妖怪である彼女を?」

「妖怪じゃないかもしれない…」

この人は月を妖怪として話してるが俺はこの人に一言も月を妖怪だとは言ってない。何で妖怪だと分かっているんだ?

「あぁ、それか。まず、風紀委員会が目を付けた時点で一般の人間では無いって事は分かるし、今日、妖怪の転校生が2年に入るって話は聞いてたしね。彼女のリボンの色が赤だったからそこで」

驚いた。あの短時間でこれだけの事を見てたとは…確かにうちの高校は男子はネクタイ、女子はリボンを着用し、その色で学年を分けている。一年は青、二年は赤、三年は紫だ。

「それから決定的なのは妖力」

「妖力?そういえばさっき先生が妖術液って…」

「妖力は妖怪が発しているエネルギーみたいな感じかな。訓練すると誰でも感じられるようになるんだけどね。俺はその子から尋常じゃない量の妖力を感じた。それで今日の転校生を思い出した。夜裂家のご令嬢が来るってね」

「ちなみに妖術液は妖力の無くなった分補給する栄養剤みたいな感じかな。人間で言う栄養補助食品みたいな」

俺はそれを聞いてハテナだったが、一番聞かなくてはいけない事を思い出す。

「そうだ!先輩、俺の腕が!!」

そう言うと、待ってましたとばかりに坂田先輩が笑う。

「うんうん、それが一番聞きたいだろうし、僕等が一番説明しなくてはいけない事なんだ。でもまず、彼女が…夜裂さんが目を覚ましたみたいだ。

そう言うと、ベッドの間に引かれたカーテンの隙間からこちらを除く目があった。

俺は駆け出し、カーテンを乱暴に開ける。そこには少し頬の赤い、月が涙目で立っていた。

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