うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

第42話 トーメーはダンジョン・マスターをテイムした。

「ワタクシ、すなわち物理的には当ダンジョンそのものですが……」

「ダンジョンってテイムできるんかい？」

「スケルトンやらゴーレムやらレイスやらがテイムできて、ダンジョンがテイムできないという理屈もないでしょ？」

　できるというのならできるのでしょうが……だから何だと言うんだ？　メリットあるの？

「ええと、ダンジョンなりダンマスなりをテイムした結果、俺は何ができるようになったわけ？」

「良いご質問です、マスター。正確にはダンジョン・マスター・マスター」

　人を「ミスター・ミスター」みたいに言うな！

「まず、当ダンジョン踏破記念に地上までのご帰還は瞬間移動でお送りいたします」

「おっ！　時空間魔法が使えるわけ？」

「いや、このダンジョン限定です。親父がメタボのお腹をギューッとひっこめる感じで、最下層を地上とくっつけます」

　下らなすぎるだろ、おい！

「大体、お前がダンジョンその物だったら俺について来られないだろう？」

「ノンノンノンですよ！　考えが赤坂見附、青山通りですよ」

　昭和の親父か？　何で東京の地理を知っとんねん？

「何のどこが浅はかなんだよ？」

「ダンジョンと言うのはそもそも不思議空間なんですよ」

「そうだけど」

「こんなだだっ広い空間が洞窟にしろ地面の中に納まっているはずがないわけで」

「ダンジョンってそういうもんじゃん」

「そこ！　そういうもんなんですよ！　要するに異空間！」

「だから、そうだけど」

「なので、持ち運び可能となっとります」

「何そのオプション的便利機能？」

「どうせ『どこにもない空間』なので、どこにでも持って行けるのです！　それだけじゃありませんよ？　どうせ異空間なんだから、出口をどこにつなげてもOKなのです！」

　何それ？　事実上の「ど〇でもドアー」？　好きな所に行けちゃうわけ？

「一応、位置情報をダンマスであるワタクシに登録してもらわないといけませんが」

「要するに実際に現地に行って登録しなくちゃいけないってこと？　それでも十分便利だけどね」

「でしょうー？　ダンジョン攻略報酬がダンジョン丸ごとだなんて、お得もお得。お得の極みですって！」

　なーんか、安っぽい感じが否めないんだけど。

「ふうん。じゃあ、ダンジョン・モンスターはどうなるの？　好きなモンスターを呼び出せたりするのかな？」

「あ、え？　え、えーと、それはですね。非常に込み入った事情がですね？」

「動揺っぷりがひどいな。その様子だと無理なのね？」

「あの、ワタクシがテイムされた時点で他のモンスターに対する支配権を失っておりまして……」

「ああ、平モンスターの地位に失墜したわけね」

「そう言っちゃうと身も蓋もないですが……」

　知らんがな。定年延長後も元管理職の実績にしがみ付く老人みたいな感覚は止めてくれる？

　つい最近までそういう人を一杯見て来たもんで。

「結局のところ、『どこでもダンジョン』が手に入ったっていうことだな」

「それはいいニャが、ダンマスは普段どこにいるニャか？」

「そうだね。ダンジョンなんか持ち運びできないんだから、どうやってついて来るつもり？」

「えーと、そこの小石を１つ拾ってもらえます？」

　小石？　どれでも良いのかな。じゃあ、ちょっときれいなこれ！　ラピスラズリかな？

「はい！　それがワタクシでーす」

「えっ？　気持ち悪っ！」

　手の中の石が喋ったので、思わず放り投げてしまった。

「失礼な！　気持ち悪いって何ですか？　正体不明の知的宇宙生命体（スライム）と仲良くなってる癖に！」

「いや、お前が連れて来たモンスターだろうが？」

「連れて来たって言うか、どちらかというと憑りつかれたと言う方が正確でして……」

　どうなんだそのセキュリティ？　宇宙生命体を気軽に惑星に持ち込んじゃって良いわけ？

「ダンジョンという物がそもそも時空を超えた４次元生命体であるとお考え下さい」

　見かけは小石でも本体は不思議空間につながっているというわけか？

「でも、本体の中に分身である小石が転がっているっておかしくない？」

「そう思うのは３次元的な狭い発想ですな。もっと柔軟に考えないと」

「ふうん。じゃあこの小石を踏みつぶしたら、本体もつぶれるのかな？」

「止めて下さい！　あんたがたもその中にいるんですよ？」

　そうか。ややこしい話だな。

「でも、使い方次第かもしれないニャ」

「『どこでもダンジョン』は便利だけど」

「移動手段以外でも、宿泊所とか、貯蔵施設として使えるニャ」

「ああ、そうか。運搬手段にもなるわけだ。ダンジョンへの搬入搬出は手間暇かかるけど」

　トラックや船の代わりだと思えば、とっても便利だね。燃料代が掛からないし。

「やっぱりもらっておこうか？」

　俺は青い小石を拾い直して、ポケットに仕舞った。

「さて、用事も済んだし、地上に帰してもらおうか？」

「わかりました。乗り物酔いにご注意下さい」

　足元がぐわんと揺れたかと思うと、俺たちは洞窟の出口に戻っていた。

「ほー。確かにこれは便利かも。一瞬で地上に戻れたね」

「ふむ。水色ゼリーも、小型犬も無事ダンジョンから出られたニャ」

「式神によるテイムは所有権の移転とみなされたようだね」

　スラ１に関しては、元々自由民だったという説もあるが……。

「この子たち……街に連れて行っても大丈夫かなあ？　モンスターって普通はいないわけでしょ？」

「ダンジョン討伐の報酬でゲットしたと言い張れば、何とかなるニャ。どっちも強そうには見えニャいし」

「……そだね。むしろストーン５の方が問題か？　モンスター感が半端ねえな」

　でも、出発時にお披露目はしてるんだよね。あの時は土人形だったけど。

　新進起業家の不思議発明ってことで押し切ろうか。歩くことしかできない振りでもさせて。

　とにかく一度お家に帰りましょう。ベッドで寝たいぞ。風呂が先だ。いや、酒か？

「あ、そうそう。こいつ、アリスさんに預けるわ」

　そういって、俺はポケットから「ダンマス」を取り出し、アリスさんにひょいと放り投げた。

　それをパクリとくわえたかと思うと、アリスさんはごくんと飲み込んだ。

「おー。これにてめでたく猫型ロボットのお腹に４次元空間が出来上がりました」

「それがやりたかっただけじゃニャいか！」

　いやいや、俺が持ってると無くしそうでさ。単なる小石だから。洗濯しちゃいそうじゃん？

　アリスさんなら忘れないし、無くさないし、消化もしないでしょう？

　俺たちはストーン５が引くカートに分乗して、久しぶりの我が家に凱旋した。

　◆◆◆

「やっぱりおうちが一番だねえ」

「落ち着くニャー」

　俺はソファでゴロゴロ惰眠を堪能した後、湿気た煎餅を持ち出して渋茶と共に味わい始めた。

「何にもやる気がない時に食べる湿気た煎餅がサイコー」

「ダメ人間も極めると見事なもんだニャ」

　そういうアリスもソファでのびのびだらけている。

「ボクの場合は体がだらけているように見えても、AIという機能は立派に稼働しているニャ」

「布団から出て来ないダメ中学生の言いわけみたいですな」

「この世界におけるダンジョンという物について、考察を行っていたニャ」

「ほほう。それはちょっと興味あるかも？」

「でしょうが？　まず数百年に１度という周期性に着目したニャ」

　なるほど。大きな特徴ではありますな。

「それだけ長い周期を持つ現象ということから、２つの仮説を立ててみたニャ」

「へいへい。その２つとは何と何？」

「地殻変動と天文現象ニャ」

　どちらもそれっぽいね。

「しかし、地殻変動はニャイだろうと早々に可能性から外したニャ」

「何でまた？」

「地形変化の原因としてなら考えられるニャが、モンスターを生む原因としては無理がありすぎるニャ」

　確かにねえ。宝箱なんて不思議現象は地殻エネルギーからは引き出せないもんねえ。

「そうなると天文現象の一択ニャ。彗星とか流星群とかと同列の現象ではニャイだろうか」

「ダンジョンが宇宙軌道上で公転しているか、宇宙を漂流しているかってわけか」

「そんな感じニャ。それなら宇宙生命体であるスライムを取り込んだという事実も説明がつきやすいニャ」

　ははあ。ダンジョンが天文現象だなんてトンデモ説は、ラノベ界隈でも珍しいんじゃないの？

「この仮説が正しいとすると、追加の発展仮説が生まれて来るニャ」

「ずずず。お茶うめえ。その発展仮説とやらを伺いましょうか？」

「ダンジョンは１つではないニャ」

　ずぶほっ！　何だってえーっ！