第41話 棚ボタ式ダンジョン攻略を実地でやってしまいました

「不毛だった……。アンデッド・フロアはこの上もなく不毛だった」

「そう、気を落とすなニャ。収穫もあったニャ。電マ砲とか、電マ砲とか……」

「いや、それを言うならむしろ多能性スライム細胞だろう!」


 ノーベル賞物ですよ、本当に。この世界にノーベルさんはいないけど。


「スライム細胞はあります!」


 大声で叫びたいね。……興奮して、失礼いたしました。


「こんなフロアに未練は無いから、さっさと第5層に進もうや」

「異議なしニャ。だんだん魔法型モンスターが増えてきたニャから、第5層は魔法中心フロアかもしれないニャ」

「相手にとって不足なし! トーメー探検隊の実力を見せてやりましょう!」


 俺たちは、勝って来るぞと勇ましく階段を下りて行った。


 ◆◆◆


「お前んち、天井低くない?」


 そういう状況が俺たちの目の前に広がっていた。

 階段の間につながる通路は、床から天井までの高さが150センチしかない。


 たったこれだけのことで、ウチのチームにとっては大打撃だ。


「えーと、確認してみるか? アリスさん、スラ1、トビー、コビ1は言うまでもなく問題なしだね?」

「わん!」

「ハルバードが引っかかる? 横向きにしなさい。味方のお尻を刺さないように気を付けてね」


「おほん。それから俺自身は頭を下げれば何とか通れる。長い時間はきついけど」


 腰に良くないですよ。前傾姿勢は。


「問題はストーン5ニャ」

「ですよねぇ。デザイン上は分解して運べる予定だったのに、石化でばらせなくなっちゃったから」

「加工機械が無いので、ナノマシンで削ろうとすると時間が掛かるニャ」


 墓石の匍匐前進とか見たくありませんよ。


「ぷっぷるー」

「えっ? 行けるのか、スラ1」

「ぷーるるん」

「何と、宇宙生命体として漂流中に武闘派の寄生型宇宙生物から超強力溶解液の作り方を教わった? 宇宙貨物船で活躍した友達だって?」


 うわー……。いかつい交友関係ですこと。紹介しなくて良いからね、お友達は。


「その溶解液をもってすれば、ストーン5など豆腐同然……と」

「そうニャ。ニャッたら、こんな感じでメスを入れてほしいニャ」


 アリスさんが施工手順を3D-CAD図で発注してますね。呑み込みの早いことで。

 スラ1は俺たちの目の前で5体に分裂し・・・・・・、ストーン5の体を覆って溶かし始めた。


 ポタリ、ポタリ。


「スラ1がナノマシンに分乗して防御網を構成した時から分裂機能を持っていることは知っていたニャ」

「……アリスさん?」


「しかし、さすがに5等分に分かれて分業ができるとは予想していなかったニャ」

「……ええと、ちょっといいですか?」


 ポタリ、ポタリ。


「いや、もちろんボクにもできるにゃ。猫型でいるのはあくまでも趣味ニャ」

「これは、えぇえ?」


 ポタ、ポタ、ポタ。


「ボクが言っているニャは生命体として分裂・再合体を自由にできると言うニャは……」

「あの、アリスさん!」


「何ニャ! 人が話の途中でしょうニャ!」

「これ、ヤバい奴じゃないでしょうか?」

「何がニャ?」


 ポタ、ポタ、ポタ、ポタ……。


「ストーン5だけじゃなくて、ダンジョンの床も溶けてますけどー」

「逃げるニャ!」


「ぎゃあああああ!」


 ドン! ガラガラガラ……!


「ぷるぷるー」


 おっとー! 危機一髪スラ1が体を網上に広げて俺たちを掬い上げてくれた。

 ナイス・セーフティネット! 国の政策もこうであってほしいね。


「それはさておき、危ないじゃないか、スラ1! 工事中は周囲の安全を確認すること」

「ぷるぷるん」

「わかればよろしい!」


 さて、我々はどうなったんですかな?


 ピコーン!


「うん? 何か、光る宝箱的なものが出ましたけど?」

「ニャ? これは……光る宝箱ニャ!」


 見たまんまかい! しかし、なぜに宝箱がここに?


「ほえ? がれきの下から血が広がって来ましたね」

「ここ掘れ、ニャンニャンニャ」


 ニャンニャンに「ニャ」の語尾を付ける必要はないんじゃないでしょうか?


「スラ1頼む。むむむっ? 何かいますね。これは……」

「おおーっ! 不思議生物正横綱のドラゴンニャ!」

「何ですと? ダンジョンフロア崩落に巻き込まれて、ドラゴン暁に死す!」

「昼も夜も無いから、暁かどうか知らんけどニャ」


 どうなんでしょうねぇ、これ。楽して元取れ的な発想で言えば、「ラッキー!」って喜ぶところでしょうが……。良いのかなあ?


「世の中、結果がすべてニャ」

「身もふたもないな」


 それよりも宝箱! 箱の中身は何でしょか?


「スラ1、つんつんお願い!」

「ぷるぷる」


 ツンツン。


 パッカーン!


「うおっ! ま、まぶしいー!」

「こ、これは! これはー!」

「何だろう?」


 光が収まると、何やら青み掛かった透明に輝く玉のようなものが現れた。


「新型のテニスボールでしょうか?」


 ピコーン!


『説明しよう! 当ダンジョンのラスボスであるマッチョ・ドラゴンが倒されたので、討伐報酬である『スキル・オーブ』が開放されたのである!』


「こいつ、誰やねん?」

『説明しよう! ダンジョン・マスターの残留思念である!』

「どうでも良いけど」

『ええんかい!』


 ふうん。スキル・オーブねえ。


「どんなもんなのか、触れたらわかるかな?」


 はい、タッチ! 何やら温かい。わずかに振動しているようだな。何だかもやもやする。

 もわっと、頭の中に言葉が浮かび上がってきた。


『スキル:モンスターテイマー』


「えーと、夢だな。うん。何か、変な夢を見たみたい」

「むしろ爺のくじ引き運がすごすぎるんじゃニャいか?」


 いやいやいや。ここに来て引くか? テイマーて?


「アリスさん、わたくし久しくテイマーでやらしてもらってますけれども?」

「これはあれニャ。公認と非公認の差、的なやつニャ」


 えー、くれる物はもらっときますよ? もらいますけどが、既に間に合ってる感がすんごいんですけど。


「何だかなあ。火魔法とか、風魔法とかね。剣技とかでも良かったんだけど、今更テイマーかって思いがすごいっすね」

「長い目で見るニャ。今回のゴースト、レイスなんかもそうニャがナノマシンではテイムできない系統のモンスターがいるニャ。ひょっとしたら精霊なんて物もテイムできるかも。そう思ったら、夢のあるスキルニャ」


 そうかあ。アリスさんたらセールス・トーク上手ですね。ちょっとその気になって来ましたよ。


「目指しましょうかネ? 精霊魔法師兼悪魔召喚士。悪魔は小悪魔希望ですよ。精霊もちょっとツンデレ系のね」

「うっせー、爺。虫でもテイムしてろニャ」


 何でやねん? 虫は要らんわ。心が通わないでしょうよ? やっぱり精霊とかが良いかな? 今回死んじゃったドラゴンも惜しかったね。ドラゴンライダーとかは格好いいじゃない。


 あれ? そう言えば、俺ってドラゴン・スレイヤーの称号が付くんじゃねえの? 倒してますもんね、ドラゴン。形はどうあれ。


 ピンポーン!


『称号が発生しました』


 おっ! 来たか?


『新しい称号は「業務上ドラゴン過失致死犯」です』


 何やねん、その称号! 故意に殺すべきものを過失で死なせただけやって!

 もう面倒くさいからさっさとスキルを吸収しよう。


「やり方わからんが、叫んでみよう。『スキル習得!』っと」


 ピカーッ!


 腕の中の球体が眩い光を発し、胸に吸収されていった。こ、これは?


「あっつい小籠包を無理やり飲み込んだ時みたいな感覚だな」

「奇跡体験が急に中華街体験に置き換わっとるガナ」


 ふうむ。胸の中に何かが刻まれた感覚はあるな。

 試してみるしかないよね?


「再び叫ぼう。『モンスター・テイム!』っと」


「ぷぎゃああああ!」

「誰の声?」

「ワタクシ、ただいまテイムされたダンジョン・マスターの残留思念でございます。長いので『ダンマス』とお呼び下さい」

「いや、お前は要らんわ」


 そんなもんをテイムして何の得があんねん? 第一、姿形もないじゃんか。

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