第40話 アンデッド・フロア制覇! ボスはアイツだった!

「スラ1の躍進が止まらないね」

「『宇宙生命体』だったという時点で、驚きのポイントを振り切っているニャ」


 確かにねぇー。


「しかも、ジジイより高等な知性を保有しているとはニャ」

「俺だけの問題じゃないからね? 全人類の知的レベルを超えているんだから」

「一歩間違えば、トーメーの方がテイムされてたかもしれにゃいニャ」


 そう考えると、危ないところだったのかな? 結果オーライで、良しとしましょう。


「ジジイを成仏させるより透明ゼリーが仏陀になる方が早いかもしれないニャ」

「おおう? 高度な知性が悟りに近いとは限らないけど、食欲以外の欲望を超越していそうだな?」

「ぷるぷる」

「トーメーみたいなこの世の不思議に出会えるので、まだまだ現世に未練がある?」


 嬉しいことを言ってくれる。社交辞令でもありがたいよ。


「ブサかわペットの飼い主的な心境ニャ。手が掛かる子ほど可愛いっていうやつニャ」

「くーっ! こっちがペットの立場ですか?」


 相手が高等知性体だからしょうがないか? 大体世の中のペットだって飼い主のことを下僕だと思っていそうだもんね。


「ぷぷーぷるぷる」

「おお! そうだ。トビーのことを忘れていたよ。具合はどうなの?」

「ふむ。ナノマシンの生体モニター情報によると、既に怪我は完治したニャ」

「それは速いね。ナノマシンの自動回復効果を超えてるな」


 ナノマシンは生体のメタボリズムを手助けしたり、外科的手術や化学的施術をしてくれるが、「細胞を作り出すこと」はできないからね。外からパーツを持って来て修理をするようなスライム流再生術にはかないっこない。


「トンビもどきは今回の負傷を痛く悔しがっているニャ。自分の未熟が招いた事故だと。何人たりとも触れることのできぬスピードの頂点を目指して、研鑽を積む覚悟だそうニャ」

「どこの新横綱さんですか?」

「好きな四字熟語は『不得要領』ですニャ」


 なんのこっちゃ?


「気を取り直して先に進もうか?」

「これでこのフロアの巡回モンスターが一通り出揃ったニャ。フロアボスは置いといて、後は組み合わせだけの問題ニャ」

「そうだね。グールの武闘派ぶりに驚いたけど、接近しちまえば後はストーン5の質量ですり潰すだけだから、手順だけの問題だね」


 当家はバトル・ジャンキーじゃありませんからね。好んで戦いを求めるものではございませんよ。

 嵌め手でもチートでも、安心確実に勝てる手を組み立てましょう。


「注意が必要なのは魔法を操るレイスと身体能力が高いグールだニャ」

「ですな」

「スタングレネードと催涙弾も、効果がない場合があると学習したニャ」

「であるからして?」


「基本は部屋の外から『電マ砲』フラッシュニャ!」

「かなり外道な技ですが」


 何しろ相手がこちらに手を出せない状況で一方的に必殺技をぶつけるってことでしょう?


「外道上等ニャ! 好きな四字熟語は『極悪非道』ですニャ」

「ときどきどっちが悪役的立ち位置なのか、わからなくなりますね」


 結局安全第一を標語として、我々トーメー探検隊は「電マフラッシュ」を標準攻撃として採用した。

 その結果――。


「そして、『骨』だけが残った……」


 そう。スケルトンだけは電マ砲の影響を受けなかったのだ。レンチンで煮えるような体じゃないと。

 こうなるとさあ……、1人だけ張り切っちゃうのよね。


「わぉおおおおおおん!」


「はいよ、コビ1。やっておしまいなさい」


 もう、趣味の骨集めに精が出ること。骨集めのためなら、どんな骨折りも厭わないって? 骨休めも要らない?


「コビ1だけで骨狩り無双状態ニャ。ジジイが老骨に鞭打つ必要は無さそうニャ」

「心遣いが骨身に染みるねぇ……」


 お後がよろしいようで。


 ほくほく、ルンルン気分のコビ1を引き連れて、ついに我々はフロアボスが待つボス部屋に到着した。


「透視の結果、現状この部屋は空っぽニャ。挑戦者が足を踏み入れるとフロアボスがポップするタイプの部屋みたいニャ」

「アンデッド系の強者ってことだよね?」

「そういうことニャ。今更物理系は芸が無さすぎるから、魔法キャラが登場しそうニャ」


 魔法を使うキャラねえ? リッチとか黒魔導士、吸血鬼あたりか?


「吸血鬼はアンデッドっぽくにゃいニャが、大体そんな系統ニャろう」

「魔女や悪魔もひっくるめて『闇系』モンスターという想定で行こうか? そうなると、『物理攻撃無効化』持ちかな?」

「対魔法障壁も持っていそうニャ」

「ドレインとか魔眼も警戒対象だね」


 ふうん。整理してみようか。こっちの攻撃で通りそうなのは……結構あるんじゃね?

 ウチは魔法攻撃ってそもそも持ってないんだから、障壁張られても問題ないし。


 斬ったり、殴ったりは効かなくても、火炎放射や電撃は効くんじゃない? 冷凍爆弾もね。

 て言うか肉体があるなら、スラ1の溶解液も効きそうだよ。


 でもって、相手の攻撃で注意すべきは「闇魔法」か……。精神系の状態異常とか、重力系魔法、影分身、影縫い、影潜り、即死魔法、ドレイン、暗黒衝撃波……。


 ふむふむ。組み立て次第かしらねぇ……。


「ウチの変態メンバーの前では、正統派闇魔法など敵ではないのニャ!」

「威張るポイントが恥ずかしい内容ですが……」

「負けに不思議の負けなし! 作戦はこうニャ! ごにょごにょ……」

「ははあ。予想通り卑劣極まりないですな。結構でしょう!」


 作戦会議の結果、ボス部屋の前にはストーン5、アリス、スラ1が並んで立った。

 トビー、俺、コビ1は後詰めである。


「では、準備は良いですな? いざ、開戦!」


 俺の号令一下、ストーン5がドアを押し開けた。ずしん、ずしんと前進しつつ、敵の登場に身構える。


 部屋の中央が怪しく光り、じゃなくて怪しく暗くなり、闇の中からウゾゾゾゾと新手のモンスターが登場した。あの姿は……リッチですな。


「行け、ストーン5!」

「ま゛っ!」


 ご自慢のダイヤモンド・フラーッシュ! またの名をスタングレネードね。こいつを連射、連射、連射!

 部屋中ビッカビカにして影なんかどこにあるのかわからない状態にしちまうわけさ。下品なクラブみたいなフラッシュ照明ね。ストーン5は目なんかに頼ってないから、戦闘に差し支えない。


 精神攻撃? 即死魔法? 精神とかありませんし? マシンですから生きていませんし?


「WoOOOOOOnN!」


 リッチが何やら魔法を発した! これは、重力魔法だ! たまらず床に崩れ落ちるストーン5!

 どうする? 絶体絶命だっ!


「はい。タッチ!」


 じゅうじゅうとリッチの体から煙が上がった。体を捩って、リッチは苦痛にのたうった。

 集中が破れ、魔法が消える。


「GmmmmMMMM!」


 苦しいでしょうねえ。見えないバリアを構成していたナノマシンとスラ1分身体が体中に貼りついて、溶解液を分泌してますから。1つ1つは小さくても、数がとんでもない。


 そして……。


「天知る、地知る、猫が知る。ポンポンポン……」

「アリスさん、そういう奴カットで」

「アリス・ファイアウォール!」


 アリスさんは光学迷彩を解いて天井からリッチの頭に降り注いだ。既に貼り付いていたナノマシンと一体化し、リッチの全身を被膜で覆う。

 アリス・ファイアウォールとはすべての外部情報を遮断するという恐るべき技である。


 何が恐ろしいって、何も知覚できない・・・・・・・・からである。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚はおろか、温度まで遮断する。そして体表面の圧力を微妙に調整することによって、重力さえも錯覚させるのだ。


「感覚」を失ったリッチは、何が起こっているかもわからず、棒のように倒れた。


「選手交代!」


 床に化けていたのはスラ1だ。アリスと入れ替わってリッチの体表を覆う。リッチの感覚は戻ったが、戻ったところで……。


 先程迄の数十倍の、いや数百倍の溶解液が全身を溶かして行く。そんなもの、抵抗のしようがない。

 物理耐性? 何の意味があるの?


 ほんの数秒でリッチはスラ1に吸収された。


 ピロリーん!


「おっと、何か出ましたね? 久々のボス・ドロップ!」

「何かのカード……ニャか?」

「何か書いてあるね。何々? 『闇金カード』?」


『説明しよう! 闇金カードとは誰でもいつでも借金ができるが、10日で2倍に借金が膨らむと言う夢のカードである!』


「ストーン5、ファイア!」


 ぼうっ!


 弁護士会に連絡するぞ、ゴルァ!

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