第39話 トビー君ピーンチからのスラ1大活躍

 鎖骨一本奪取したコビ1が後方3回転宙返りでストーン5の背後に戻る。香港製カンフー映画をほうふつとさせる動きだ。ワイヤーなしでここまでやれるとは。


「敵はまだ混乱しているぞ! 一気に畳みかけろ。火炎放射だ!」

「ま゛っ!」


 ストーンズ3体が火炎放射を開始した。


「こんがり『お骨』にしてやれ!」

「ま゛っ!」


 じゅぅぅうううう!


「なっ?」


 ストーンズの炎が鎮火された! 魔法的な放水、ウォーターの魔法か?


「むっ! 敵後方に新勢力ニャ! IDは『レイス』ニャ!」

「おっと、魔法を使える霊体の乱入か」


 しゅぼっ!


 再び火炎放射? 誰だ? あら、スラ1だったの?

 うん。再び展開される魔法的防御、ウォーターの壁展開。これを浴びせられたら、炎が消え……ないね?


「おや? スラ1の炎が消えないね」

「特殊な燃料を使ってるニャか?」

「ぷぷーぷ」

「『ナパーム』だって? 米軍装備からは外されたんじゃなかったっけ?」


 ぼーんっ!


「おわっ! 危っね! ありゃ水蒸気爆発だな。天ぷら油火災に水を掛けたようなもんだよ? ナパームは燃料に粘性があるからね。水じゃ消えないんだ」

「飛び散った炎がスケルトンに付着したニャ。南無ー」


 菩薩に引導を渡されたらモンスターと言えども成仏したんじゃない? おおー、骨と骨をつないでいられなくなって崩壊していくよ。


「ふん。骨のある奴らニャッたが、ストーン5の敵ではないニャ」

「コビ1とスラ1に良いところをさらわれてるけどネ」

「大丈夫! ストーン5、一気に畳みかけるニャ!」


 満を持してのプラズマ攻撃!


「ラグジュアリー・フラーッシュ!」

「何にでもフラッシュ付ければ良いってもんでもないと思いますよ」


 ぶばぼん!


「レイスが吹っ飛びましたね」

「霊体系のモンスターはサンクチュアリー・フラッシュの敵ではないニャ」

「さっきと名前変わってますがな!」


 さて、この先は大広間とレーダーに映っている。


「いよいよグールですかな?」

「気は進まないニャが、そういうことニャ」

「ゾンビより運動性能が高いと考えておいた方が良いだろうね」


「KwaaaAAArrr!」


「ああ、運動性能で言えばウチには地上最速のトビー君がいたね」

「ふむ。レンチン戦法よりもクリーンなファイトが期待できるニャ」

「ならば、先鋒トビー、後詰めストーン5の編成で攻めてみようか?」

「異議ないニャ。万一の備えはクラゲ1とボクが担当するニャ」


 俺とコビ1は予備隊ね。なんだかんだ言って、余裕のある編成だなあ。


 ◆◆◆


 広間に続く扉前に突入隊が整列した。トビーはストーン・ダイヤモンドの肩に留まっている。


 作戦はいつも通り簡単だ。ドアを開けると同時にスタングレネードと催涙ガスを発射する。

 敵が怯んだところにトビーが飛び出し、スピードにものを言わせてグールの前衛を行動不能にする。


 前衛が邪魔になって2列目以降が動けなくなったところを、ストーン5が遠距離攻撃をかます。

 火炎放射とか、高圧放電とかね。


 その間に接近しておいて、動けなくなったところをタコ殴りである。


 完璧に思えた作戦であったが、思わぬ落とし穴が口を開けていたことを俺たちは思い知った。


「オン・5。5-4-3-2-1、ゴーゴーゴー!」


 アリスのカウントでドアを引き開けたストーン5はスタングレネードと催涙弾を室内に向けて発射した。ここに手抜かりはない。間髪を入れずにトビーがドアの隙間から広間に飛び込んで行った。


 一瞬ドアを閉じてグレネードの爆発をやり過ごしたストーン5は、改めてドアを全開にして内部に侵入する。


 トビーは既にグールの最前列に接近していた。


 ポン、ポン、ポン!


 小気味よい音を立てて最前列のグールに穴が開く。膝を撃たれたグールは跪き、肘を撃ち抜かれたグールは前腕を吹き飛ばされた。


 グールの列を飛び越えて上昇しようとしたトビーの目の前に、2列目のグールがジャンプして迫った。


「KrrwaaAAh!」


 トビーは慌てず急旋回して正面衝突を回避しようとした。その時だ――。


 しゅっ!


 空中にあるグールが手の中の物をトビーに投げ付けた。

 それは先程吹き飛ばしたグールの前腕であった。


 方向転換したばかりのトビーは姿勢の自由が利かない。広げた翼に腕をぶつけられ、きりもみしながら吹き飛んで行った。


「ぷるるるる……っ!」


 トビーのピンチにいち早く反応したのはスラ1であった。


 がしゅーーっ!


 火炎放射用に溜め込んでいたジェット燃料に引火して、ロケットランチャーばりのスピードで宙を走った。


 しゅぱーん、しゅぱーん!


 飛びながら触手状に体を伸ばし、先端からダイナマイト・ボディを発射する。自爆的分身はまだ空中にいた先程のグールに着弾して粉々に吹き飛ばした。


 そしてきりもみ降下中のトビーをふんわり包み込むと、スラ1はパラカイト型に変身してUターンしてきた。

 パラカイトは改良型なのでロケット噴射付きであった。


 後ろから見ていた俺は焦ったが、ストーン5はロボなので感情で動くことは無い。次の一手を冷静に打つ。

 すなわち、火炎放射と高圧放電である。


 ずぼぁあああーーっ!


 グールたちが一斉に床に伏せた。なぜか反応が良い。

 どうやらグールの体質として轟音や刺激臭に強いので、スタングレネードと催涙弾の混乱効果が効かなかったらしい。

 

 さすがに閃光で視力は落ちたが、元々暗闇で行動するように肉体が最適化されているので目をやられても周囲の状況を把握できるのであった。蛇のようにピット器官を持ち赤外線を感知できるようだ。


 不運な最前列は壁にされてしまったが、2列目以降はそのお陰で炎の直撃を避けることができた。

 電流は空しく床に流れてしまった。


「ふん。ゾンビと違って少しは知恵がありそうニャ。ウチの手羽先をよくもキズものにしてくれたニャ。ボクが自ら相手をしてくれるニャ!」


「怪鳥モード!」


「GyaaaAAAs!」


 今初めて、アリスさんが猫以外の動物形態を取った。サイズこそ子猫モードと変わらないが、その姿は銀色に輝くプテラノドンであった。


「翼竜だから怪鳥じゃないけどね?」


 本家・・以来のお約束なので、ここは深く掘り下げないことにしよう。


 ばさりと飛び立ったアリスドンは一気に加速すると、グールの2列目に横から飛び掛かった。


 しゅぱーーんっ!


 鋭利な刃物と化した翼が、グール3体の首を切り飛ばした。

 あくまでも冷静なアリスドンは一撃離脱戦法で自陣に戻って来る。


「今ニャ! ストーン5、突撃!」

「ま゛っ!」


 シナリオに狂いがあったが、アリスさんのアドリブで強引に流れを引き戻し、ストーン5が肉弾戦に突入した。こうなれば質量とパワーに劣るグール勢にはなす術がない。あっという間にミンチにされた。


 ドロップ品は「グール・ミンチ」だと? 焼却しなさい、ストーン5よ。


 ところで、トビー君はどうなった?


「スラ1、トビーはどう?」

「ぷるぷるぷー」

「えっ? 治療中だから心配ない? どんな治療?」

「ぷるぷーぷーぷるぷる」

「な、何だと―っ?」


 驚愕の事実。ネイチャーに報告しなくては……。


「大げさに騒いでるニャが、どうしたニャ?」

「お疲れさまでしたアリスさん。スラ1がとんでもない新能力を発揮してます」

「新能力ニャ? それは何ニャ?」

「ずばり、多能性幹細胞培養です!」


『説明しよう! 不思議宇宙生命体であるスラ1は、己の肉体の一部をどんな器官にも成長可能な万能細胞として培養することができる。つまり、天然の「再生マシーン」なのだ!』


「ニャにぃ! それがスラ1が持つ高速再生機能の秘密だったニャか?」

「そうらしいね。今その幹細胞で翼の組織を培養してトビーに移植中なんですと」


「うーむ。恐るべき高度先進医療。事実上直せない病気・怪我は存在しないことになるニャ」

「なるほどね」


 一家に一体スライムさんですなぁ。膝軟骨がすり減ったあなたに、宇宙生まれの「スラコサミン」をどうぞ!

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