第32話 いやー、見ごたえある勝負でしたな

「ダーっ! ニャー、こら! 見たか、タコ、こら、タコ!」


 アリス選手、勝利のマイクパフォーマンスですか。割と伝統芸能に忠実なのよね。AIの割に。


「なかなか良かったんじゃないでしょうか。特に、アリス・カッターは芸術点が加味されたと思いますよ」

「アリス・カッターっ!」


 出さなくて良いから。あっぶねえだろ。さっきは技名叫んでなかったし。


「レフェリーの泥ボー1さん、アリス選手の試技をご覧になっていかがですか?」

「ゴ、ゴ、ゴ……」

「倒した敵に取りついて身を隠す、非情の忍びに感動したと? むむむ、深いですな」


 さて、当地点の敵キャラは討伐したので、次のモンスターを求めて移動しよう。

 ウチは泥ボーズがいるから楽で良いわ。背中に乗せてもらおう。


「スラ1選手、どうでしたか? 対戦相手アリス選手の戦いっぷりをご覧になって?」

「ぷ、ぷ、ぷ、ぷるるん!」

「なるほど! そうですかー」


「どうせ失礼なことを言っているに違いないニャが、何といったニャか?」

「隠密行動については学ぶべきところがある、と」

「おお! スライムがめっちゃ大人ニャ!」


「ただ、『窒息攻撃』をパクるのはどうかなあって」

「パクリちゃうがな! 公知例ゆう奴だニャ。先使用権を主張するニャ!」

「必死だな、おい。特許紛争は競技会の外でお願いします」


 スポーツは政治や経済、商業主義とは離れたところで楽しむべきものでございましょう?

 プロ・スポーツは別よ。あれはショウ・ビズですから。


 さて、公平を期すためにはスラ1選手の相手もオーク3体と行きたいところですが……。


「おっ、いましたね。前方の森の中、200メートル程入ったところにお誂え向きのオークが3体。スラ1選手、準備は良いですか?」

「ぷっ、ぷるぅー!」

「おお! やる気満々ですね。それでは準備ができたところで、競技開始してください!」


「ニャンかもう、普通に意思が通じてるニャ。単純さ度合いが共鳴してるニャか?」


 そうこうする間に、スラ1選手ずるずると森の外れまでたどり着きました。


「スラ1選手、最大の課題はこのスピードですねえ。機動力さえ備われば恐ろしい破壊力を持った選手なんですが……」


 おっと? 何をする気か。スラ1選手空気を取り込んで膨らみ始めたぞ?

 風船のようにまぁるく膨らむと、その空気を地面に向けて噴き出した。


 「ぷしゅーっ!」


 おぉおおーっと! これはまるでロケットだぁーっ!

 圧縮空気を噴出し、スラ1選手が宙を飛ぶ!


 森の木々を超え、はるか上空に到達しましたねぇ。おや、ここで変形するようですよ。

 なるほど円盤状に変形して、回転しながら滑空するんですねぇ。これはエコで、優雅です。


「ほー。あれは盲点だなあ。スライムが飛行するとは……。どうしました、アリス選手?」

「ぬぬぬ。パクリニャ。あれはボクの『フライング投網アタック』の丸パクリニャぁーっ!」

「いや、こっちの方がはるかに高度でしょ? 自分でジャンプしてるし、高さも出てるし。飛距離だって……」

「パクリニャ、パクリニャ! 真似っこ動物ニャ!」


 何ですか、そのおいしそうなビスケット風アニマルは? いや、オリジナリティ高いでしょう?


 どうやらオークの上空に到達したようです。スラ1選手、またもや変形します!

 今度は……パラカイトスタイルですね。空気をはらみながらゆっくり下降しようという作戦か?


「なるほど、パラカイトタイプでらせん状に旋回しながら降りて来るわけね。これなら操縦性が高い」

「洞窟タイプの第1層にいた癖に、何で空を自分の物にしているニャ?」


 おーっと! 『飛べないスライムはただのゼリーだ』と言わんばかりのスラ1選手パフォーマンスであります!


 うん? 何か上空から落としていますか? 「ふん」じゃないですよね?


「落ちて行った『何か』がオークに直撃します……?」


 ちゅどーんっ!


 何ーっ! 爆発したぁあああ! どういうことだ? あれは爆弾か?


「あれ? スラ1に爆弾なんか持たせた?」

「そんなはずはないニャ。式神を埋め込んだ以外は、純粋に天然物のスライムニャ」


 スライムに天然物とか養殖物がいるかどうかは知らんけど。爆発物を連続投下しとるぞーっ!

 これは正に、「カーペット・ボミング」。いわゆるひとつの絨毯爆撃だぁーっ!


「どうやらスラ1選手は体の一部を切り離して、爆弾にしているようですね」

「そう言えば、少し体が小さくなったニャ」


 正真正銘、身を切る思いの必殺攻撃であります! しかし、なぜ爆発するのか?

 何ですか? ただいま手元に泥ボーズからメモが入りました。何々?


 えっ? フロアボスのオークを倒した時に、腰蓑が無くなっていた? スラ1選手が奪取していたと思われる……? これは……。


「わかったーっ!」

「何ニャ? 何がわかったニャ?」


 これは恐ろしいことですよ。スライム界に革命が起こるですよ!


「『スライム流錬金術』。それがこの技の正体です」

「にゃ、ニャんだと?」

「思い出して下さい。スラ1選手は溶解液として濃硫酸を分泌することができるのです」


 オークの腰蓑はお肌に優しい天然コットン100%。すなわちそれは……。


「セルロースニャ!」

「ご名答! 天然繊維であるセルロースを混酸に浸すと、そこにできるのは……」

「ニトロセルロース! 白色火薬ニャー!」


 スラ1恐ろしい子。濃硫酸ばかりか体内で硝酸まで作り出し、2つを混ぜ合わせて混酸にするとは。


「そうか。アンモニアおしっこを酸化して硝酸を作ったニャ」


 おーっと、これは正しくぅ体内化学工業と言っても良いでしょう! スラ1選手見事な錬金術により火薬を作り出していた―!


「謎はすべて解けた! じっちゃんは俺だけに!」

「ジジイご本人登場ニャ」


 しかし、これは技術点が高くなるぞ! スライムの常識を変える一撃だーっ!


 一回り小さくなったスラ1選手、今華麗にランディング―!


「あ、ちっちゃくなっちゃった分、お食事で吸収ですか?」


 スラ1選手いきなり、オーク3体を美味しく頂いております。ダンジョンの吸収力を上回るとは。正に無敵の高分子吸収体!


 さあ、栄養補給を終えたスラ1選手、意気揚々と凱旋してまいりました。


「ぷっ、ぷるぅー!」


「そうですかぁ。好きなタレントはしょこたんですか―」

「んなこたぁ言ってないニャ!」


 さあ、これで両者競技を終了いたしました。残るはレフェリーの採点のみ。

 レフェリーの泥ボー1さん、いかがでしょうか?


 デデデデデデデデ、デン!


「ゴ、ゴ!」


 おーっと、上がったのは青い旗だぁー! スラ1選手の勝利であります。序盤で見せたエアジェット・フライト、そしてそこからのディスク・フライング。パラカイト・スパイラルにセルフカット・ボミングと。

 実に多彩な技を見せてくれました。


 スラ1選手に惜しみない拍手を!


 一方のアリス選手も良く戦いました。「暗黒面AI」という酷評を跳ねのけ、真っ向から敵の油断を衝く卑怯な作戦を駆使してくれました。


 アリス選手にも拍手を!


「いやー、見ごたえある勝負でしたな。2人ともよくやりました」

「ぐぬぬぬ。勝負は法廷に持ち越しニャ」

「そうムキにならないで、お互い身内なんだから。今日のところは新人に華を持たせたということでしょ?」

「当然ニャ。ボクは空気の読める変身ネコ型生物ニャ」


 はい、はい。しかし、スラ1の「スライム流錬金術」には驚かされたなあ。どうやってあんな術を身に着けたの? えっ、俺たちと会ってから? どういうこと?


 のぞいた? 何を? データベース? アリスのネットワークをハッキングした?

 何じゃ、そりゃあ!


 いやいやいや。おかしいっしょ。スライムですよ、あーた?

 ザ・雑魚モンスターざましょ? 「ぽよ」とか「スラー」とかしか言わないような。


 確かに、スライムに高度な知性は無いってのは勝手な思い込みだけどさ? 進化しすぎて手足が退化した説?

 純粋知性体になる一歩手前? うっそーん!


 人類抹殺計画立てそうなキャラが、また登場しちゃったよー。オラ、知らねえッと。

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