第31話 アリス選手の無双モード炸裂です。ちょっとタコっぽいかも?

「おっどろいたねぇー」


 まさか最弱モンスターと言えばでお馴染みのスライムが、単騎でフロアボスを倒しちまうとはね。

 正にこれは下剋上!


 フロアボスを討伐したことによってボス部屋の扉が開放され、部屋の中央には宝箱がキラキラ効果付きで出現した。


「おー! SFX付とはお目が高い! 良くってよ、良くってよ。そういう細部は大事ですよ」

「結果オーライニャが、プライムレート1は説教部屋案件ニャ。抜け駆けの功名は手柄にあらずニャ」


 アリスさんのご意見はごもっとも。なんだけど、何しろ急造チームだからね。次から同じことをやったら処罰対象ということで、今回は手柄もペナルティも無しということでいかがでしょうか?


「甘いニャが、そこらで手打ちということにするニャ」


 猫とスライムじゃ手打ちもしにくいだろうけどが。スラ1もわかったね。うん、うん。わかればよろし。


「ジジイと透明もんじゃが意思疎通しているのはシュールな光景ニャ」


 外見は若者とパンケーキくらいでしょ? 中身は確かに爺さんだけど。


「それよりもお宝発見ですよ、お・た・か・ら! ディス・イズ・ダンジョンですねぇー!」

「ここまでゲーム仕立てが徹底していたら、ミミックの可能性もあるニャ」


 確かに。ホイホイと手を触れるわけには行かないか。


「チャンス・ターイム!」

「何ですか唐突に、アリスさん?」

「プライス・タグに名誉挽回の機会を与えるニャ」


 バーゲンセールみたいな呼び方だね。スラ1に宝箱を開けさせようって言うんですか。

 スパルタンだな、アリスさん。


「名付けて『スラの穴作戦』!」

「いや、もう『スラになるのだ!』って言わなくてもスラなんですけどね?」

「行け、ブラ1!」


 何かブラジャー1丁のお姉さんが目に浮かんじゃうんですが、その呼び名。悪くはないが。


 ぶるぅん。


 スラ1は決意をみなぎらせて、透明の体を震わせた。

 スライムの決意を読み取れたとしての話ではあるけど。気持ちの問題ね。


 とはいえ慎重に触手状に伸ばしたボディで宝箱にぃいいい、ターッチ!


「おっと、無事です! スラ1選手宝箱タッチ、クリアー!」

「ニャんだか筋肉自慢の男たちが競い合う競技の気配がしたニャ」


 気のせいですよ、アリスさん。当パーティーは実在の人物団体とは一切関係ございません。


「よし。開けてくれ、スラ1!」


 パッカーン!


 出ました、「オークハム」……?


 ピコーン!


『説明しよう! オークハムとはお世話になったあの人に、心を込めて贈る格調高きハムの一品。脂が乗り切ったオーク肉をこれでもかと贅沢に使用。それでいてハーブとスパイスが臭みを抑え、しつこさを全く感じさせない至高のハムなのだーーっ!』


「何だこれ?」

「外れアイテムニャ」


『説明しよう! オークハムとは……』


気色きしょい! いらん!」

「激しく同意ニャ!」


『説明し……』


「火炎放射!」


 ボウッ!


「ドロップは無かった。それで良いね?」

「何のことニャ? ドロップって何ニャ? 甘い飴かニャ?」


 トーメー探検隊は第1層を後にした。


 ◆◆◆

 

「さあ、気を取り直して第2層攻略ニャ!」

「どうやら今度はオープンフィールド型の迷路みたいだな」


 頭上には空があった。周囲に壁は無く、どこまでも草原が広がっている。


「良いんだけど、これだと敵も味方も丸裸だね」

「気付かれずに接近して急襲するというのは難しいニャ。僕はできるけどニャ」

「そうだよね、スラ1はできるけど、誰にでもできることじゃないね」

「ニャ、ニャ、ニャんだと!」


 アリスさんはステルス性能に自信を持っていたので、スラ1の登場に危機感を感じているらしい。

 デリケートな部分なのね。


 俺たちがお気楽にだべっていられるのは、例によってハニー・ビーズに偵察をさせているからだ。下手に動き回っても効率ダウンするだけなので、第2層スタート地点でマッピング完了まで待機している。


「ニャらば勝負ニャ! どっちがより優秀なステルス・ハンターか」

「おお! 受けてやろうじゃねえか!」


 スラ1の代わりにステルス勝負を受けてやりました。やるのはスラ1だけど。

 こういうのは乗っからないとね。イベントは乗っかってなんぼです。


「ルールは簡単。交互にモンスターにアタックを掛けて、より美しいステルス・アタックを掛けた選手の勝利となります」

「望むところニャ! ところで判定は誰がするニャ?」

「不肖わたくしトーメーはスラ1選手のセコンドに付かせていただきます。よって、レフェリーは……」


「泥ボー1号!」


 おまえ、驚いた顔をするんじゃありません。ゴーレムに表情なんか無いけど。

 ウチはアドリブが利かないと、やっていけませんよ? 黒と青の旗を渡すから、勝った方の色を挙げてね。


「黒がアリス選手。青がスラ1選手となります」

「相手にとって不足なしニャ! 正々堂々と戦うことを誓うニャ!」

「……」


 ちょん。プルーン。


 猫とスライムのハイタッチにより、競技は開始した。

 先攻はアリス選手。前方にある大岩の影にオークが3体いるらしい。


「ふん。数が増えたところで所詮はポーク。ボクの敵ではないニャ」


 ふふん。ボクとポークが被っちゃってますよ? ボケにいつものキレがない。


「行って来るから見ているが良いニャ」


 言い残してアリスは音もなく駆け出した。しなやかな動きですね。敵ながらあっぱれ。


 叢に入り込んだところからアリスの姿が観えなくなった。でも、大丈夫。

 現地ではハニー・ビーの皆さんが、他視点カメラで中継をつないでくれています。


 現場のハニー・ビーさん! つっても返事は無いけどね。

 視点を切り替えると、先ずは大岩上空からの俯瞰映像が送られてきた。


 いやー、臨場感あるね。アリス選手は完璧に姿を隠しているけど、こっちのカメラには位置情報が赤い光点として示されている。


「や、奴が来る! 赤い黒猫だ!」


 なんつってね。黒猫は黒いけど。


 オーク3体は……丸見えだね。上から撮られてるとは思ってないわな。ドローンで盗撮しているようなもんで。ここまで標的扱いだとちょっと可哀そうだわ。


 さて、アリス選手は大岩の手前側に貼りつきましたね。ふーん。完全ステルスモードで光学迷彩まで使用しているから、通常カメラには映らないか。赤外線映像を重ねてくれる?


 はいはい。猫形態を崩して薄く広がってるのね。それはウチのスラ1の物まねでは? えっ、オリジナルだって? まあ、良いでしょう。


 そのままにょろにょろと大岩のすそ野を回って行く、と。オークの足元から迫ろうっていう狙いか。

 オーソドックスですな。批判じゃないですよ? 王道には王道の美しさがありますからな。


 しかしあれですね。普通忍び寄る時は「息を殺して」近付くもんですが、アリス選手の場合は全身ナノマシンなので呼吸してません。そんなもん気付けるわけがないですね。


 えっ? スラ1も肺なんか無いって? そりゃそうか。どういう不思議メタボリズムなんだか。皮膚呼吸?

 そーですか。金粉ショウとか危険なのでやらないように。


 現場のアリス選手が攻撃ポジションに着いたようです。

 

『それではアリス選手、先攻のアタックをどーぞ。』


 おっ。オーク1の前方の地面が何やらもやもや揺れていますね。これは?

 オーク1気付きましたか? 1歩踏み出して小首をかしげた。そんな仕草もできるのかー!


 おっと地面のもやもやがキラキラに変わって、ざわっと波打った。波の中から……アリス・カッター!

 きらりと光る透明な大鎌といった感じの攻撃ですね。これは高得点が期待されます!


 オーク1は首元を深く切られて血を噴き出しております。1歩、2歩よろめいた。

 しかーし、さすがは鈍感タイプで有名なモンスター。傷口を片手で抑えて持ちこたえたぞ。圧迫法の止血です。回復力パねえー!


 あ? しかし、様子がおかしいぞ! これはアリス選手、一服盛りましたね。傷口を中心にみるみる周囲がどす黒く変色していきます。おっと、耳を越えてこめかみまで黒く染まったー!


 あーっと、脳に毒が回ったか? オーク1、たまらずダウーン! 顔面から地面に倒れ込んでけいれんしている。これは戦線復帰は絶望的!


 一方、オーク2とオーク3が曲者に気づきましたね。これだけ派手にやれば、アホのオークでも気が付くというものです。

 アリス選手は再びステルスモードに突入。ぬわーっと薄く広がって光学迷彩で地面に溶け込んだぞ。タコみたいだ-!


 危険を感じたオーク2と3、見えないながらも辺りの地面をこん棒で殴っております。いいぞ、馬鹿なりの抵抗! 下手な鉄砲もね、数打ちゃ当たるんじゃないかという確率論的攻撃です。


 相手のいないモグラたたきみたいですが、意外と理には適っている。アリスさんの接近を阻んでいるぞ。


 しかし、手応えが無い。あいつは一体どこに行ったんだ? 手を停めて辺りを見回すオーク2であります。


 おや、死んだと思ったオーク1の腕がピクリと動いたぞ! 毒に耐えて生き残ったのか? 近付いて様子を見るオーク2を呼ぶように、オーク1の腕が招く。


 と思ったら、オーク1の胸の上にもやもやしたわだかまりが現れた! 何と、アリス選手がオーク1の死体に取り付いて隠れていました。これは作戦勝ちだ! さすが性悪AI!


 こん棒を振りかぶってアリスに殴り掛かるオーク2! だが、アリスはオーク2のモーションを盗んで、カウンターで飛び掛かった! 低い! 低い位置の挙動で、相手の攻撃を寄せ付けないぞ。


 オーク2の足首に絡みついたアリスは、ぐりんと足首の周りを一周し、走り抜けた。

 もちろん取りついた隙に足首をざっくり斬り付け、得意の毒を注入して行ったぞ! えぐい! えぐすぎるぞ、悪魔チックAI!


 バランスを崩して倒れるオーク2。立ち上がろうともがくが、もうだめだ。猛毒が足首から広がっている。


 残るはオーク3ただ1体。あっという間に倒された仲間を見て、腰が引けているぞ! へっぴり腰で地面を叩き回る。体力だけは無尽蔵だ!

 今度は死体に取りつく卑怯な手段は使えないぞ。どうする、アリス選手!


 地面叩きに夢中のオーク3選手。中継カメラは上空からその姿を捉えております。


 おーっと? 大岩の頂上に動きがあるぞ。もやもやが固まると……アリス選手だーっ! ステルスモードで岩の上に移動していたぞ。

 オーク3は気が付かない! 相変わらず地面に注意を集中しているー!


 アリス選手、黒猫モードに戻って客席を煽る! 行くぞ、行くぞ、と。身を縮めてー……。

 大岩最上段からのー、ジャーンプ! おっと空中で変身! 投網のように広がった!


 そのまま前かがみになっているオーク3をすっぽり頭から包んだぁあああっ!


 おや? これはスラ1選手の窒息攻撃ですねぇ。下から攻めたスラ1選手に対して頭上からというアプローチの変化はありましたが……。芸術点は若干下がった模様です。

 オーク3も戦闘不能で倒れました。


 戦闘終了ー! アリス選手、無傷の勝利でしたー!

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