第30話 スラ1無双! 対物理無敵じゃね?

 実際に遭遇してみると、アリスさんがゴブリンを捕獲したがらなかった理由がわかった。

 低い鼻に、乱杭歯、目は細く吊り上がり、瞳は「山羊タイプ」で、ツルッパだった。


 さすがの俺も愛玩したいタイプではない。慣れれば味が出るか……? いや、いや、いや。


「『モテる前提で合コン前に妄想を繰り広げる馬鹿男』ムーブはもう十分ニャ。目の前の部屋にゴブリン3体が待機中ニャ。早速戦闘を開始するニャ」

「へいへい。今回はどういう作戦?」

「泥ボー2体を前面に立てて侵入。その陰からトーメーがスラ1を投げつけるニャ。スラ1がゴブリン1体に取り付いている隙に、ボクが華麗にゴブリン2体にケミカル・ウェポンをお見舞いするニャ」

「国際条約的な物に抵触しそうな気配がするので、ケミカルの内容については聞きません。効果はどのような物でしょうか?」

「一発で退治するタイプのやつニャ」


 はぁー。G相手だったら売れ筋と言えるんだけどね。相手は2足歩行タイプだからなあ。

 この世界には国連も、動物保護団体も無いから見なかったことにしよう。


「ハニー・ビー隊の観測によれば、敵は酸素呼吸メタボリズムの持ち主ニャ。基本の生態系が一緒なら、アリスにゃんに倒せない敵はいないニャ!」


 好戦的なAIって設定は引くなあー。いずれ人類抹殺に向かうのであった的な展開がちらつくじゃん。

 程々に頼みますよ。ほんとに。


「それではアイテム目当ての欲に駆られた戦いに、どっぷり身を投じるニャ! 作戦開始ニャ!」

「ラジャー!」


 戦いへの思いはそれぞれに、戦士たちは武器を取った。つー感じで行きましょうか。


 泥ボー2体はガシガシと前進し、部屋に入ったところで壁を作った。ウイーン、ガシャンとチタン合金の盾を並べる。


 ほんじゃ、試合開始!

 俺は振りかぶって第1球のスラ1を投げ込んだ。


 敵ゴブリンはこちらに向かってくる途中だった。山なりに飛んで行ったスラ1は右端のゴブリンに見事命中した。俺って「軟投派のコントロール重視タイプ」だからね。野球やったことないけど。


 ぐんにょりと形を変えてスラ1はゴブリンの首から上を覆った。不定形生物の面目躍如だね。

 ああなるとゴブリンには引きはがせない。何しろ片栗粉の塊みたいなやつだから。爪も牙も意味がない。


 暖簾に腕押し。糠に釘。スライムに物理攻撃。


 あれ? スライムって雑魚キャラと思ってたけど、こうやって見ると結構な危険生物じゃん?

 飛びつく俊敏性があったら、危険度マックスだよこれ。


 電撃でも持ってないと、撃退できないんじゃない?


 おっと、アリスさんを忘れてましたよ。奥の手のステルスモードに移行していたから、俺にも居場所が掴めなかった。スライム以上に変形自在だからね。

 床の模様が震えたと思ったら、ぶわっと盛り上がり、波のようにゴブリン2体に襲い掛かった。


 こん棒を構える腕を斬り落としながら胸元に斜めの線を刻む。ドクドクと傷口から血があふれ出す間にも胸がどす黒く変色していく。

 ゴブリン2体は悲鳴を上げる余裕もなく、胸を抑えて倒れた。


 スライムに顔を覆われた1体はチアノーゼで顔を紫に染めつつ、溶解液に溶かされて崩れ落ちた。


 「戦闘終了ニャ」


 すっと猫形態に戻ったアリスさんが尻尾を立てて戻って来た。正に鎧袖一触がいしゅういっしょく

 強さの底が見えない。


 スラ1もどこか満足気な様子で戻って来た。頑張ってくれたので、よしよししてやった。

 ナノマシンを介してもほとんど知性は感じられないのだが、「ヨイ」という意識が伝わって来た。喜んでいるのだろう。


 あれ? 意外とスライムって可愛いかも。飴ちゃんとか食べるかな? はい、どーじょ。美味い?


 これまでのところ第1層ではドロップアイテムも宝箱も得られなかった。階層が浅いせいなのか、それとも「このダンジョン」にはそういう物が存在しないのか?

 これもまた検証の対象であった。


「倒した死体はしばらくするとダンジョンに吸収されるようニャ」


 後ろに残して来たハニー・ビーが見届けたらしい。ダンジョンてリサイクルが完璧なのね。


「アリスさん、この後はどうするね?」

「国勢調査の結果、第1層のモンスターはスライム、コボルト、ゴブリンの3種類ニャ。宝箱、隠し部屋は無し。どうやらアイテムも落とさないようニャ」

「ふーん。それじゃあこの階に長居する理由はないかな」

「そういうことニャ。後はボス部屋があるかどうかニャ」


 次の階に続く階段がフロアボスに守られているというのはゲームでのお約束だが、「このダンジョン」ではどうなのか?

 

「答えはこの扉の向こうにあるさ」


 俺は複雑な文様が刻まれた黒い扉に両手で触れた。


「それは壁の模様ニャ。扉はこっちニャ」


 あ、通路の反対側が階段部屋への入り口なのね? それらしい模様に騙されちゃったよ。お恥ずかしい。


「見ててやるニャから、臭いセリフをもう1回やるニャ」

「勘弁して下さい。ワタシが悪うございました」


 似合わないことをするもんじゃないね。格好つけるのは止めます。


「超音波エコーと赤外線スキャナーで部屋の内部を探るニャ」


 泥ボーズ大活躍だね。えっ? 何だ?


「アリスさん。何かスラ1君が言いたいことがありそうなんだけど……」

「さすがに異世界生物とは意思疎通が難しいニャ」


 いや、この世界の人たち、俺にとってはみんな異世界生物ですけどね? 今更じゃん。


「うん? コマンド的には『攻撃』と『防御』を点滅させて来てるね」

「自分が前に出たいと言ってるニャか?」


 でも、スライムだしなあ。中の様子もわからないし……。うん? そうなのか?


「お前、中を偵察に行くって言ってるのか?」

「ついに透明ゲロとも喋り出したニャか? 妄想癖も極まれりニャ」

「だって、このタイミングだろ? おっ、やっぱり行くのか?」


 スラ1はぷるぷるしながら推定ボス部屋のドアにたどり着いた。どうするのかと見ていると、じわーッと広がって水たまりのようになり、ドアの隙間から部屋の内部に侵入していった。


「おー! さすが変形自在。アリスさんのお株を奪う隠密ぶりだね」

「ふん! ボクはあんなねしょんべんみたいな変身はしないニャ。もっとこう天女の羽衣のごとく、上品な中にもエロス漂う感じで透明になるニャ」

「透明になったらエロスもへったくれもないだろうに」


 おっと。スラ1からライブフィードが送られてきましたぞ。あの見かけで音声付き動画を配信できるとは、スライム侮るまじ。えっ、式神が埋め込んだ超小型デバイスだって? あっそ。


「おっ? 何かいますね。部屋の中央付近に。大きいな」

「スライスチーズ目線ニャからニャ。相手の大きさが強調されるニャ」


 確かにね。床から見上げるアングルだから、ちょっと腰から上が見にくいかな。

 いや、スラ1さん、腰蓑の中身とか写さなくて良いから。うぷ。


「モンスターデータベース照会の結果、ボス部屋の中身はオークと決定したニャ」

「あるんですね、データベース」

「携帯ゲームを中心にデータ収集したニャ」

「ゲームデータかいっ!」


 そんなデータまで前の世界から持ち込んでいることに感心するけどね! 


「あれ?」


 ライブフィードの視点が変わってるよ? オークのオークがどアップに!

 あっ、モザイクが入った。ありがとう、運営。良い仕事です。


 画面が揺れ出した。オークが気づいてカメラマンを振り落とそうとしてますね。

 ああ、殴って……、掻きむしって……。構わず上昇してます。すんげえ突撃カメラマンです。


「ナイスですねえ」

「ゆーとる場合ニャ!」

 

 これ……、スラ1君単独でフロアボスを討伐しようってことか? えー? できちゃうの?

 モンスターの序列ってどうなってんのよ?


「これはパターンに入ってしまったニャ。物理攻撃しかないオークはもう打つ手なしニャ」


 スラ1が接近する前に叩きまくっておけば、累積ダメージで潰せただろうけど。

 取り付かれちゃったら打撃じゃ倒せないよね。


 1分後、顔面ビラビラになったオークは意識を失って朽ち木のように床に倒れた。


――――――――――

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