第17話 3つの下僕、勢ぞろい!――3番目はアロー君だよ!

「養蜂業の話はその線で行こう。俺からも1つ提案がある」


 こいつもトーメー・チーム補強に関するお話だ。


「三番目の下僕なんだけどさ、新しく探すよりアローを使いたいんだ」

「巨大ロボは諦めたかニャ?」


 古き良き伝統に則れば、「変身黒豹」「怪鳥」「巨大ロボット」を揃えたい所ではあるが……。


「色々無理があるからね」

「確かにニャ」

「式神の話と同じで、まず置き場所に困るよね」


 海中に沈めておいていざという時呼び出すなんてのは、現実世界じゃ役に立たないよね。


「身近にいてこその下僕ニャ」

「その点アローならいつも傍にいるし、もう仲間だし、可愛いし」

「無駄飯食らいを増やさないという点は、考慮に値するニャ」


 何しろアロー君ときたら、裏庭の牧草を勝手に食べて生活してますからね。ある意味、自給自足。サステナブル。


「式も付けてあるから自動回復機能はあるけど、もう少し攻撃とか防御の機能を装備させたいんだ」

「将を射んとする者はまず馬を射よって、最初に狙われる運命だしニャ」


 そうなのよ。体が大きいから的にされやすいでしょ? この間みたいな荒事があると、ちょっと心配だ。


「何か能力の方向性はあるニャか?」

「まずは防御なんだけどね。本当は鱗を纏わせて全身鎧化したいんだけどね」

「スケール・アーマーの考え方ニャ?」

「さすがに言い訳できないでしょ? 鱗のある馬はいないから」

「そこだけファンタジー感を醸しても、無理があるニャ」

「なので妥協案。薄手の鎖帷子かたびらすだれみたいに丸めておいて、いざという時はビラビラ体の周りに垂らすのはどうだろう?」


 何本もに別れた「御簾みす」を丸めておいて、紐を一本引いたら全部広がって垂れ下がる構造ね。


「そのままだと裾がブラブラしちゃうので、磁石を仕込んでピタッと留めたい」

「現実にはそう上手くいかないニャが、ナノマシンで誤魔化せるニャ」


 そうそう。変形合体ロボって、そういうもんじゃん? ちょいちょいって辻褄合わせちゃえばいいのよ。


「鎖帷子の強度は秘密の合金を使っていることにする感じニャ」


 そうそう。「Z」的なやつね。「超」が付く。


「防御面の考え方は分かったニャ。攻撃能力はどうする積りニャ?」


 そこですよ。男のロマンが燃え上がる。


「トビーには超音波砲を装備したじゃん。伝統的に言えばアローにはレーザー砲と行きたいところだけれど、さすがにね」

「オーバーテクノロジーにも程があるニャ」

「なので、百歩譲って電磁加速砲レールガンで妥協しようかと」

「最先端軍事技術やがな!」


 てへ。でも、日本の自衛隊が実用化しようとしている技術なんだから、現実味はあるでしょ?


「いろいろ課題があるニャ。大電力を必要とするとか、砲身が大型化するとか……」

「その辺は軍事的に利用する場合でしょ? うちは民間利用だから……」

「砲弾サイズを小さくするにしても、摩擦抵抗やプラズマ化の問題があるニャ……」


 できないとは言わないのね。さすがうちのアリスちゃん。


「こんな無茶な話、いくらナノマシンを使っても――3日は掛かるニャ」

「3日でできんのかい!」

「うちのナノマシンはスーパー・テクノロジーだからニャ。砲弾自体にナノマシンを組み込んで、弾道制御の課題をクリアするニャ」


 ふむふむ。アリスの言うことには、課題の1つは砲弾の軌道が安定しないことによるレールからの離脱だと言う。そうするとプラズマが発生し、エネルギーが熱に変わってしまうと共にその時の熱で砲弾が溶けてしまうらしい。


 もう一つの課題は、砲弾射出に必要な大電力だ。発電所が丸ごと必要になる程の大電力だというのだが、磁界発生の部分をナノマシンのリアルタイム制御で補助しながら、強磁性物質を生成し極限までエネルギー効率を上げてクリアすると言う。


「7ミリサイズの銃弾を打ち出す規模感で構成するニャ」


 長距離狙撃や大規模破壊を目指すわけじゃないからね。近距離制圧ができる威力があれば十分じゃない?


「弾速は一般的なライフルに合わせて毎秒3千フィート」

「時速にしたらどれ位?」

「時速約3,200キロ相当ニャ」


 どひゃー! ライフルってすごいんだねぇ。変な声出ちゃった。堂々のマッハ2超えじゃん。


「弾丸が持つ運動エネルギー自体はそれ程大きくないニャ。ピンポイントに敵を貫いて、無力化するイメージニャ」

「いいね。アロー君に殺人マシン化して欲しくは無いから。関節とか筋肉を破壊すれば敵は制圧できるもんね」

「カシャ、カシャ――後ろ足内部に電磁加速レールを組み込んで、蹄の中央から弾丸を射出。地面を蹴るモーションを加えれば、石を蹴り飛ばしているように偽装できる。ついでに土煙を上げてカモフラージュも可能――カシャ、カシャ」


 AIモードのアリスさんが演算展開しているようだ。


「副作用で発電機能と磁気発生機能が付くから、電撃とかマグ〇-ト的な攻撃もできちゃうんじゃない?」

「カシャ、カシャ――蹄鉄が超磁石という設定にすることはできそうニャ。電撃は――蹴られた衝撃で体が痺れたという線で誤魔化すニャ」


 アローに蹴られた時点で大抵はKOするだろうけど、全身鎧の相手なんかには電撃が有効かもね。

 超磁力は敵の剣などの武器を武装解除出来そう。磁力で飛び道具の軌道を反らせることも出来るじゃん。


 やだ、アロー君、カッコ良くなりそう。


「体内にマイクロ原子炉を組み込むので、結果的にはサイボーグ化することになるニャ」

「あら、そうかぁ。なら、アロー本人の意見も聞かないとなぁ」

「既にホットライン経由で確認済みニャ。主の役に立つなら望むところだそうニャ」

「アローーー!」


 俺は泣き崩れた。うちの子は何て優しいんだろう。


「本人曰く、元々捨てられて寂しく死ぬ所だったのを主に拾ってもらったニャ。自分の命は主のためにあるそうニャ」

「うわーーーん!」


 その献身、無駄にはせんよ。家族のために、俺は生きる!


「そうと決まれば色々考えておかなければならないニャ」

「たとえば?」

「超小型とはいえ原子炉搭載ニャ。冷却機構が不可欠ニャ」

「そうだね。原発と言えば大量の冷却水を必要とする物だもんね」


「炉心冷却にはナトリウムを循環利用するニャ」

「ふむふむ。分からないけど。それで?」

「通常は最低レベルに核反応を抑えて、必要時だけフルパワーで発電するニャ」

「ふむふむ。そうすると、普段の発熱量は少なくて済む訳ね」


「それでも大量の水を飲ませる必要があるニャ」

「うちの井戸はファウンテン式にして、いつでも水が飲めるようにしよう」

「アイドリング時の発生電力はバッテリーに貯めるニャ」

「ハイブリッド・カーみたいに?」


「ついでに取り込んだ水を電気分解して水素を作り出すニャ」

「ふむふむ。SDGsだね」

「出来上がった水素は口から火炎放射することも出来るニャ」

「えっ?」


「使わない分の水素は、げっぷとして回収するニャ」

「うわぁ。汚くは無いんだろうけど、何か生理的に嫌!」

「我が家は光熱費ゼロで快適に暮らせるニャ」


 アロー様様だねぇ。マイクロ原子炉と燃料電池のハイブリッドか。公称1馬力だけどね。


「さて、いろいろと忙しくなるにゃ。アリスにゃんのナノマシンを大量投入して、駄馬1号を鬼改造しまくるニャ」

「そうか。今やナノマシンの塊であるアリスが秘密研究所みたいなもんなのね」

「駄馬1号に取り憑いて、内から外から工事してやるニャ。だが、しかしニャ――」

「な、何だよ?」

「作業中、決して覗いてはいけませぬニャ」


 鶴の恩返しか? 血とか傷口とか苦手だから見たくないわ! テレビドラマ「ドクター・ドS」でさえ見てねえだよ。


「私、麻酔しませんから」

「いや、麻酔くらいしろよ!」

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