第12話 強くなければ生きていけない。俺の名はダーティ・トーメー。なんちって。

 格好いいじゃん、トビー。


とびじゃない鳥に『トビー』と名付ける感覚が問題ニャ」

「ああ。そこね? まあ気にしなければいいじゃん。名前を使うのは身内だけだし」


 子供を世に出す訳でも、芸能界デビューさせる訳でもないからね。気にしたら負けよ。


「ネーミングセンスはともかく、物にこだわらない感性は成仏に向いてるニャ」

「褒め方がなあ……。素直に喜べないよ」


 さて、トビーはアロー以上にナノマシンが憑依しているんだよね。ということはやっぱり、以心伝心でいうことを聞いてくれる訳だ。


「よし。来い、トビー!」


 右手を構えると、地面からばっと飛び上がってトビーが前腕に停まってきた。


「あつつ……。やっぱり爪がちょっと痛いね」


 そっと掴んでくれてはいるが、落ちないようにある程度の力で爪を立てなくてはならない。


「これは手甲か腕輪を装備した方がいいね」


 自動回復で傷は残らないが、腕に停めるたびに流血していては格好が付かない。今日の所は、布を巻いておこう。

 中二病的な外見になるが、救急キットの包帯を手首に巻いた。


「思った以上に軽い!」


 飛ぶために必要な筋肉以外、骨と皮しかないと言ってもいい。


にわとりとは訳が違うニャ」


 飛べない鳥はただのとりさ……。


「トビーには上空警備を担当してもらうニャ。哨戒機兼ステルス戦闘機ニャ」

「kwAAA……!」


 トビーは俺の腕を飛び出すと、力強く大空に上昇していった。


「いいねえ。まさに荒鷲戦闘機。気分が上がるねえ」


 試みにトビーと視覚をリンクさせると、バードビューカメラ映像がPinPで視野に表示される。PinPをメイン画面と入れ替えることもできる。ズームイン、ズームアウトも自由自在。何たる高性能。


「もちろん録画機能も付いてるニャ。デジタル画像処理も万全ニャ」


 そりゃAIが高性能だもんね。


「盛り上がった所で残念なお知らせニャ」


 俺のPinPモニターにも赤い点が表示されている。


「招かれざる客ってやつか……」

「手首に包帯巻いて、調子に乗ってるニャか?」


 別に中二病が発病した訳じゃないよ。こういう場面でお決まりのセリフを言ってみただけ。


「この先で待ち構えているようニャ」

「昨日の今日だからなあ。避けて通る訳には行かないね」

「避ければ逃げたと思われて舐められるニャ」


 今後ずっとヘタレ扱いされてたかられるのは御免だ。


「ガツンとやっとくしかないか」

「殺生は好まぬが、降りかかる火の粉は払わニャならぬニャ」


 何で時代劇風?


「こういう世界で、殺しを避けてもいられないか……」


 生きるか死ぬかなら、生きる方を選びますよ。俺は。


「昨日はよくもやってくれたな」


 お約束すぎるセリフで登場したのは、昨日のごろつきたちだった。

 あっけなく眠らされたことに懲りて、今日は人数が増えている。5、6、7人か。何人でも関係ないけどね。


「大人しく砂金の穴場を教えろ。さもなければ……」

「ああ、もういい! そういう口上は要らないから。さっさと来い!」


 今日の俺は一味違うぜ。もういいや、中二病モードで。


「全員再起不能にするから、そのつもりで」

「何だと、このガキ!」


 俺も俺だけど、向こうもテンプレだね。頭に血が上ると、セリフは単純になるらしい。


「全員、片足と片腕は貰っとこうか」

 俺は武器を構えもせず、うそぶいた。戦うの俺じゃないし。


「糞! やるぞ!」


 ようやくその気になった? もう遅いよ?


「kRewwww……!」


 声がした時にはもう遅い。トビーがごろつきたちの足元を掠めて、地面すれすれを飛び去って行った。


「何だ?」

「どうした?」


 悲鳴を上げる間もなく、ばたばたと三人が倒れた。何をされたかも分かるまい。

 トビー自慢の超音波砲をすり抜けざまに発射したのだ。その膝は再生不能だぜ?


「気を付けろ! 何かの鳥だ!」


 昨日あっけなく眠らされたリーダーが警戒を呼び掛けた。テイマーの怖さ、少しは理解したかい?


「クビワモリハヤブサだ」

「何だと? 何を言ってやがる!」


 いや、せっかく親切に教えてやったのに。


「お前の命を取る鳥の名前さ――」


 決まったぜ! あ、鳥の名前はトビーか? いやでも、こいつらトビーって知らないし……。

 あっという間に空高く飛び上がったトビーが、急降下してくる。


「ハヤブサの最高スピードは390キロだ」


 俺の蘊蓄うんちく、誰も聞いてない? 言っても分かんないかあ……。

 来ると分かってる160キロのボールを、メジャープレーヤーが打てないんだぜ。


「トビーの攻撃は防げない」


 実際は超音波砲で攻撃してるからね。時速1200キロ超え? チートだね。

 しゅん。

 黒い影が一瞬見えたと思った時には、トビーの襲撃は終わっている。残りの4人がバタバタと倒れた。


「二度と俺に近寄るな。近寄ればそいつのようになる」


 ごろつきのリーダーは首から血を噴き出して倒れていた。


「た、たすけてくれ」


 手で血を止めようとしているが、無駄なことだ。頸動脈が切れている。


「もう遅い。お前の死は誰にも止められない」


 ようやく痛みが襲って来たのか、膝をやられた連中が呻き始めた。街まで自分で帰れよ?


「三度目はない」


 俺はごろつきに目もくれず・・・・・、その場を後にした。


「くそー、気分悪い!」


 採取場の河原に着くなり、俺は小石を蹴りつけた。あいつらふざけやがって。


「中二病でも後味の悪さはごまかせニャいか?」

「役になり切れば乗り切れるかと思ったんだが……」


 たとえ自分が直接手を下していなくとも、あいつは俺のせいで・・・・・死んだ。


「恨みつらみや悪意の糸は、いくら絡まろうと笑い飛ばせる。だが、人の痛みや生き死には……。見えない蜘蛛の糸がへばり付くようだ」


 ううー、気持ち悪い。吐き気がする。


「仕方ないニャ。特別ニャ」


 そう言って、アリスが俺の足元に擦り寄ってきた。


「何のこと?」

「特別にアリスにゃんをモフらせて上げるのニャ」

「いや、頼んでませんけど……」


 断るのもアレなんで、抱っこしますけど。これは……。すべるように滑らかな……。


「動物との触れ合いに癒し効果があることは、古くから実証されているニャ」

「ぶひひん」


 おう、アロー君もか。君の毛並みも負けてないよ。すべすべだあ。

 5分ほどうちの子たち・・・・・・をモフっていると、自然と心が落ち着いてきた。


「ありがとう。落ち着いたよ」

「礼はいらないニャ。ヘタレに痩せ我慢は似合わないニャ」

「誰がヘタレじゃ! 多少のヘタレ感は否めないけれどが」

「今回の対応は仕方がないニャ。むしろ最小限度の実力行使に抑えたくらいニャ」


 弱肉強食がこの世の習い。やられたらやり返す実力を見せておかないと、食い物にされて終わりだ。


「ハードボイルドって柄じゃないんだが」

「そこまで殺伐とする必要はないニャ。ジョン・ウエインの感じニャ」


 なるほどね。開拓時代の大西部。ワイルド・ウエストってやつか。

 馬も持ってるし、気分はカウボーイっていう設定で行こうかしら。


「どうせなら、ジョン・ウエインよりクリント・イーストウッドの方が好きなんだけどね。荒野の用心棒とか」

「イーストが『あずま』に被ってるからニャ?」

「そう言う訳じゃないけど、ジョン・ウエインっていわゆる典型的ヤンキーでしょ。ちょっと捻くれたイーストウッドの方が、共感できるっていうか」


 無駄話をしながら、砂金採取を始めた。


「そう言えば、成り行きで泊り掛けの行動にしちゃったけど、メラニーさんに毎日報告するっていう約束を守れないね」

「都合よくチンピラに絡まれたニャ。こっちも怪我をして数日帰れなかったことにするニャ」


 うちのアリスって、何てお利巧なんでしょう。


――――――――――

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