第11話 3つの下僕に命令だ! まだ2つだけどね?

「にゃあ」


 アリスは猫らしく一声鳴いた。


「てめえ、ふざけてるのか?」


 小さめの猫にしか見えないアリスを見て、曲者はご不満らしい。


「俺テイマーなもんで、うちの使役獣がお相手するよ」

「猫に用はねえ!」


 曲者リーダーはアリスを無視して、俺に殴りかかろうとした。どっこいそうはいかないよ?


「シャーッ!」


 アリスは男の足元から肩まで駆け上がると、横っ面をサクッと引っ搔いた。


て! この畜生!」


 いや、畜生に畜生って……。人間相手にこの人間めって言うようなもんよ?


 トン、と地上に降りたアリスは、得意げに尻尾を立てて戻ってきた。


「もう勘弁ならねえ。腕の1本も――」


 何やら言いかけたリーダーは白目を剝いてぶっ倒れた。眠り薬ですか? 死んでないよね?


「安心して。眠っただけだから。次からは殺すよ?」


 残った3人を睨みつけると、俺の迫力に圧されたのでしょう。リーダーを担いで逃げ出していった。


 いや、足元でアリスさんが毛を逆立てていたけど……。


「有名税っていう奴かなあ」

「糞蠅が寄ってきているだけですねえ。じゃなかった、にゃあ」


 アリスさんお口が悪いです。あと、キャラ忘れてるし。街中で喋っちゃだめでしょ。


「舐められないようにしないとなあ。いちいち相手をしてられないし」


 剣の達人ってキャラでもつけましょうか? テイマーってイマイチ迫力無いからね。


「大型動物でもテイムしようか?」

『それも邪魔なんだニャ。猛禽類とか毒蛇あたりはインパクトが強いんじゃニャいか』


 うーん。毒蛇は自分もいやかな?


「黒●ときたら、次の下僕しもべは●鳥でいいんじゃない?」


 伝統とお約束を守らなければ。口から超音波砲とか出してほしい。


『自然界で超音波を出すのは蝙蝠ニャ』

「蝙蝠もイメージがなあ……。ウイルスの宿主って感じがマイナスだわ」

『鷹か梟でも見つけたらナノマシンを憑りつかせるニャ』

「梟もいいね。魔法少年って感じで」

『中身は老人ニャけどニャ』


 次の日俺は予定通り砂金採取に出発した。アロー君に馬車を引かせて颯爽と進む。


「良かった。昨日の連中はお礼参りに来なかったね」

『昨日の今日だからニャ。さすがに手が回らないニャ』

「念話の時は猫語尾にしなくてもいいんじゃない?」

『甘いニャ! キャラ作りに手抜きは許されないニャ』


 どうせ俺しか見てないんですけどね。演技派だったんですね、アリスさん。

 アリスは馬車の助手席にちょこんと座っている。こう見えて警戒は万全らしい。


『昨日の話の続きニャ』

「2匹目の下僕しもべかい?」

『アリスのような純粋ナノマシンは無理なのニャ』


 100年掛かるって話だもんね。そんなに悠長には待てない。


『かと言って、ただの鳥をナノマシンで操っても強さは高が知れてるニャ』


 そういう動物は「プローブ」として既に周囲に放ってある。下僕ともなれば、もっと特別感が欲しいよね。


『ちょっとだけドーピングするニャ』

「ドーピング?」

『大したことじゃないニャ。ちっとトーメーのを使うニャ』

「血? 何するの?」

『いつものツバじゃナノマシンの量が足りないニャ。今回は少しまとまった量を注入するニャ』

「どれくらいの量?」

『ニャあに、ほんの200ccニャ』

「200cc?!」

『普通に献血する量ニャ』


 そう言ってもねえ。シチュエーションが違えば、印象も変わるって。


「どうやって血を受け渡しするつもり?」

『手首をざっくり切って、血をぼたぼた掛けてやるっていうのが格好いいニャ』

「やだよ! 痛そうじゃないか」

『痛覚はカットできるし、傷口はナノマシンがすぐ塞ぐニャ』

「それでも血は見たくないの!」

『情けない男ニャ。爺の看板が泣くニャ』


 そんな看板はねえ! 流血は無しの方向で調整願います。


『つまらないニャあ。仕方ない。採血するニャ』


 普通にできるのかよ!


『昨夜の中に道具を作っておいたニャ』


 しかも準備済みじゃねえか。最初からそう言えよ。


『人生には適度なスパイスが必要ニャ』

「要らねえよ! こんなスパイス」


 とにかくいい感じの猛禽を捕まえたら、現地で採血しましょうということになった。


「強そうな鳥が上手く捕まえられるかな?」

『そこは物量作戦で押し切るニャ』


 囮も含め、20羽のプローブ部隊を投入しているんだと。そりゃあ手厚いこって。


『囮に食いついてくれれば、体の中から本体を乗っ取れるニャ』


 そうでした。食われれば勝ちなのだ。猛禽かわいそう。


「格好いい鳥がいいなあ。ハゲタカはやだよ」

『大きすぎると、扱いにくいニャ。そこそこのサイズで、スピードとか攻撃力に優れた個体がいいニャ』


 スピードは重要だね。いざという時にビューンと飛んで助けに来たり、敵の攻撃を搔い潜ったりね。うん格好いいぞ。


『なぜかニャ? 昭和の白黒アニメが脳裏に浮かんだのニャ』

「アニメ・テイストは好きだけど、さすがに白黒時代まで遡らないよ?」

『怪しいもんニャ。巨大ロボットが欲しいとか言い出しそうニャ』

「嫌いじゃないけどね。さすがにくろがねの城は邪魔でしょ」

『いくらナノマシンでも二足歩行ロボは再現困難ニャ』


 ロマンはあるけど、実用性がないか。四つ足とか多脚ロボなら、まだ可能性がありそうだけど。


『四つ足なら動物で間に合ってるニャ』


 そうだね。強そうな獣をテイムすればいいもんね。アロー号みたいに。


「ぶひひん」

『サイボーグの方が作りやすいニャ。ロボゴリラとか』

「うーん。見た目を想像すると、腰が引けるね。夜一緒の部屋で寝るのは嫌かな?」

『あっ! 条例的な理由からロボメイドは絶対ダメニャ!』


 そんなんせんわ! 何でわざわざメイドをサイボーグ化して下僕にせなあかんねん? 性癖が特殊すぎるわ!


 そうこうする内に馬車は山道に入り、やがて馬車が通れない場所にやって来た。


「馬車はここに置いて行こう。アローは馬車から外して、一緒に行こうな?」

「ぷるるぅ」


 トレッキングというのかな。森の中をポカポカ馬に乗っていくのって、気持ちいいのよね。この世界も長閑のどかな所は悪くないね。


 世知辛いのは程ほどにしてほしいよ。ノーモア・ハラスメント。


 昨日の採集場に到着したのはまだ昼まで2時間ほど残した頃だった。


「今日は獣も出ないし、馬車と乗馬だったから随分早く着いたね」

「この辺は大分採り尽くしたニャ。もう少し上流に行ってみるニャ」


 アリスは器用に鞍の前に座ってこちらを見上げていた。後ろ向いて大丈夫かね? 猫だから平気か。

 さらに30分、川の流れを遡っていった。


「この辺にするニャ」


 今回の遠征は泊り掛けの計画だ。ある程度の砂金が集まるまで川の近くで野営する。


「まずは拠点を設営するか」


 と言っても一人用のテントだからね。アローから降ろした荷を解いて30分ほどで設営完了した。


「雨さえ降らなきゃ問題なさそうだね」


 さて、砂金採取に取り掛かろうかという所で、アリスが顔を上げた。


「獲ったどーっ!」

「うわっ! びっくりした」


 急にでかい声出さないでほしい。猫語キャラ忘れてるし。


「2番目の下僕しもべを捕獲したニャ」

「おっ? 採れたか?」

「偶然と選択の結果、2番目の下僕は……」


 おー、わくわくするね。


「デレデレデレデレ……」


 独特のドラムロールだな。


「デン。動物ですっ!」

「何のっ?」


 いや、ピスタチ〇の漫才かい?


「ご本人に登場していただきましょう! ……ニャ」

「kwAAAA……」


 キランと陽光を反射し、木々の梢を掠めるように舞い降りたのは……鳥だった。


「ええと。何の鳥?」

「かつての世界で言えばハヤブサ目ハヤブサ科だニャ。クビワモリハヤブサ的なあれニャ」


 体長は40センチほど、背が黒く、腹が白い。首輪のように首の周りに黒い輪がある。


「おー。きりっとして強そうだねえ」

「バリバリの肉食男子だニャ。飛行速度は鳥類最速クラス。ステルス機能搭載のキラーマシンニャ」


 猫と違って、見るからに獰猛だもんね。これは抑止力になるわ。


「鳥目で夜は使い物にならないニャ」


 がっかりさせるなよ。そこなー……。梟にした方が良かったか?


「梟は夜行性ニャ。結局使い物にならないニャ」

「鳥はダメってこと?」

「心配いらないニャ。既に怪人、じゃなかった、改造手術を施してあるニャ」


 悪の秘密結社じゃないっつーねん。怪人化してどうするの? 改造ね、改造。それも怖いけど。


「30倍望遠レンズ搭載。赤外線対応高感度CCD内蔵なのニャ」


 どこぞの次世代スマホかい! 格好いいけど!


「夜でもばっちり活動可能になってるニャ」

「それなら安心して頼れるね」

「もちろんナノマシン搭載で、自動回復機能内蔵。キラーマシンにしてゾンビマシンニャ」


 何だよ、ゾンビマシンて。そんなマシンねえよ。


「自分もそうだからアレだけど、うちのチームってゾンビ軍団みたいになって来たね」

「死生を超越してこその大悟解脱。ゾンビ化は望む所ニャ」


 きりっと言われてもねえ。イメージ悪いわ。せめて不死軍団とか、不死身チームとか……。あんまり変わらないか?


「それより名前を付けてあげるニャ。ポチとかタマとか」

「そうだな。ハヤブサだからファルコンてのはベタすぎるから、えーと……。トビー!」


 何たって鳥だもんね。鳥類最速ってことは生き物の中で最速ってことでしょう。空を飛ぶからトビー!


「恐ろしいほどのネーミングセンスニャ」

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