第10話 アリスさん大変身! ボクでロリで猫なのニャ!
「付き合わせちゃってすみませんね、ウェンディさん」
「仕事ですから」
「お陰で随分お安く買い物が出来ました」
「当商会での取引としては、妥当な価格でしょう」
「さすが大店ですね。最後にお願いが」
「――何でしょう」
さすがに顔が引きつってますね。大丈夫。無茶なことは言わないから。
「明日からしばらくは砂金採りを続けます。毎日夕方メラニーさんに会いに来るので、その後で買い取りをお願いします」
「それは当然の仕事です」
「それとは別に週イチで買い取りをお願いしたい物があります」
「何でしょう?」
これはアリスの作戦ではなく、俺の考えだ。
「採れた金で細工物を作るので、その買い取りです」
「そんな技術をお持ちなんですか?」
ウェンディさんが驚いて、聞き返す。
「たいしたもんじゃないけど、アクセサリーとかね」
「金を売ってしまったら作れませんよ?」
「もちろん金が十分集まったらという話です」
「分かりました。今日が月曜日ですから、毎週月曜日を細工物買い取り日としましょう。目利きを立会わせます」
話がついたので、俺はゴンゾーラ商会を後にした。
『中々良い話し合いでしたね』
『監視は鬱陶しいけど、お陰でゴンゾーラ商会の力を利用出来たからね』
『余分な資金を預金出来たのは、助かりました』
そうなのだ。商会の取引となれば大金が動く。為替とか、口座取引は当然の商慣習として存在した。
俺はゴンゾーラ商会に
『これだけゴンゾーラ商会に囲い込まれれば、外から狙われる危険は減るだろう』
『ゴンゾーラ商会に楯突くことになりますからね』
『ゴンゾーラに食い物にされるリスクは残るが、ヤバくなったら逃げ出しゃいい』
『どこに行っても生きていけますからね』
『気楽なもんだね。金持ち喧嘩せずとはよく言ったもんだ』
借りた家までアローに跨りぽこぽこ進む。馬具一式装着済みなので、大分乗りやすい。
本当は馬の世話って大変らしいがうちの場合はセルフケア。アロー君お利口だから身の回りのことは、大概自分でできるらしい。
排泄物はナノマシン改め使い魔チームが分解してくれるので、スッキリ手間なし。除菌消臭もバッチリ。
水汲みは難しいらしいので、俺が担当した。何のこれしき。20歳の肉体とアロー君への愛情があれば。
『さて、落ち着いたところでアリスから発表があります』
リビングで寛いでいると、アリスが語りかけてきた。
「なんの発表だろ?」
『新しい仲間を紹介いたします。どうぞ――』
ドアノブがかちゃりと音を立てた。10センチ程ドアが開いて止まった。
「あれ? 誰かいるの?」
「もう来てるよ!」
子供の声がする。女の子?
「ココだよ、ココ」
足元に猫がいる。
「はじめまして。僕アリスだよ」
えーと、ちょっと待って。色々渋滞してるぞ。
「黒猫が喋ってるねえ」
「そう、僕だよ」
「声は女の子だねえ」
「そうだよ。僕はボクっ娘だよ」
「名前がアリスだって?」
「そうだよ。キミのアリスが猫になったよ」
何だそれ? どこのAIが猫になるんだよ?
「何なの? ネコ型ロボットなの? 猫の死体に取り付いたの? それとも生きてる猫の体を乗っ取ったの?」
「ブブー。全部不正解。今のアリスは100パーセント純粋なナノマシンで出来てるのさ」
「丸ごとナノマシン? 何個使ってんの?」
「エヘン。軽く兆単位だよ」
兆単位? いや、それはいいけど何で偉そうなの?
「イケイケなのはキャラ作りの一環だよ。平凡な人生に対するアクセントさ」
ひとの人生平凡て言うな。
「それにしても兆単位のナノマシンなんて、よく揃えたな」
俺の体を準備するのに100年掛かるって言ってたけど?
「トーメーの場合はゲノム情報の改変と細胞培養に時間を掛けたけど、必要なナノマシンは数億個レベルだよ。そこへいくと僕は混じり気なしだからね。100年の間にナノマシンをひたすら増産したのさ」
しかし、なぜまた黒猫に? 荷物でも届けてくれるのか?
「人間サイズにするにはあと100年必要なんだもん。可愛いから猫でいいでしょ?」
そんな理由? 頭の中で語り掛けてくるナビ・バージョンより劣化したんじゃない?
「トンデモナーイ! 僕の体はすんごいんだヨ!」
「何が凄いの?」
「フフフ……。見せてあげよう――変身!」
ぐにゃりと黒猫アリスの体が崩れて、全く違う形になった。
「うえーっ? 何だそりゃ?」
「ワンワン! 僕はアリスだワン!」
猫が犬になった……。だから何?
「エッヘン。僕は変身出来るんだワン!」
待てよ? 変身できる黒い動物キャラ……? 往年の名作アニメに出てくる、三つの
「変身して地を駆けるんだワン!」
「ストーップ! それ以上は大人の事情でカット!」
変身能力ねえ。変身した所で元が小さいからなあ。戦いの役に立つかどうか……。
「任せるニャン。これからはアリスにゃんがナノマシン飛ばしまくりで無双するニャ」
アリスはまた猫形態に戻って胸を張った。
「なぜ急に語尾を変えた?」
「変えてないニャ。犬形態に変身して思い出したなんてことはないニャ」
――こいつ、誤魔化したな。
「良かったニャ。これで独り言が多いお寂びしキャラを卒業できるニャ」
「誰がお寂びしキャラじゃ。知的な大人キャラだっちゅうねん」
しかしあれだな。全身が純粋ナノマシンの集合体ということは、もう俺が唾を飛ばしたりする必要はないということだな。
「アリスはピュア・キリングマシンなのニャ。爪をギュイーンて伸ばしたり、毛針をピュンピュン飛ばしたり、自由自在ニャ」
「おおう。特殊能力っぽいね」
「攻撃が当たれば相手に取り憑いて、麻痺させたり眠らせたりどうにでもできるニャ」
掠っただけで一撃必殺か。そりゃ凄まじいわ。
「ところで、黒猫のアリスはどういう扱いをすればいいのかな?」
テイマーの設定を生かすなら従魔ということになるのだが、この世界には魔物なんていないんだよね。
「獣使いとその使役獣というところかニャ」
「飽くまでも動物の範疇だよね? 爪が伸びたり、毛を飛ばしたりする動物なんているのかな?」
「辺境の山奥で捕まえた、特殊な品種ということにするニャ」
「大分強引だなあ。飛び道具は滅多に見せない方がいいね」
「攻撃力については爪に毒を仕込んであることにするニャ」
それなら麻痺とか催眠攻撃の説明が付くか。飼い猫にそんなことするなんて相当危ない奴だけど。
「それからアリスは人前では喋らニャいけど、簡単な命令は理解できる設定で行くニャ」
「さすがに喋る猫はいないよね。俺が話し掛ける分には猫好きの行動ってことで誤魔化せるか」
さて、行動方針が決まったら風呂入って飯食って寝よう。
と言いつつこの家に風呂はない。ボイラーなんてないからね。湯を沸かして身体を拭くか、水を浴びるかだ。
ナノマシンが体を清潔に保ってくれているのだが、気分の問題がある。形だけだとしても湯を沸かして身体を清めよう。うん、さっぱりしたね。
風呂を済ませたので今度は食事だ。基本的に食事は外で取ることにした。独り者のゴールドハンターならそんなもんでしょう。幸い家の近くに食堂があった。
入ったのは町中華ならぬ町の洋食屋さん的なお店。昔風に言うなら一膳飯屋? メニューなんて気の利いたものはなく、出されたものを食うという感じ。嫌なら食うなと。
もちろん食いますよ。爺は勿体ない精神を持ってるからね。何かの肉が入ったシチューですな、これは。学校給食だと思えば、食えますとも。
折角だからお酒も頂いてみた。赤ワインだね。渋みの中に酸味が立った若い酒だが、まあいいでしょう。野性味を楽しむべし。
今日もいろいろありましたな。腹が一杯になったら眠くなってきた。早よ帰って寝よ。
そう思っていたのにさあ――。
「これは俺に御用かな?」
家までもう少しという所で待ち伏せされた。前に2人、後ろに2人。腰の剣はまだ抜いていないが、剣呑な感じは滲み出ている。
「大分金回りが良いようだな」
リーダーらしき男が尋ねて来た。
「あれ? ゴンゾーラ商会の息が掛かったオイラに威圧とか掛ける訳?」
長いものに巻かれたのはこういう面倒を避ける為だったのに。
「ふん。何も金を巻き上げようって訳じゃねえ。俺たちと組まねえか?」
「あー、そういうこと? 俺が砂金採りの穴場を見つけたんじゃないかって当てにしてるのね?」
「てめえ、いい度胸だな。そういうことだ。明日の稼ぎにゃ俺達も付いて行くぜ」
要するにたかりだ。金を横取りする訳ではないので、ゴンゾーラ商会に敵対はしていないと言い張る積りだろう。良い面の皮である。
「子分は要らないなあ。手は足りてる」
「何だと、この野郎! 嫌だと言っても勝手に付いて行くぜ」
「面倒臭いな、そういうの。アリスさん」
さっきから肩の上で大人しくしていたアリスに声を掛ける。
「構わないから少し懲らしめてやりなさい」
旅の隠居風に命令してみた。
「にゃあー」
アリスは嬉しそうに肩から飛び降りた。
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