2. うさぎのキャンディ

「どうしたの、江奈?」


 一緒の下校中、いつもなら話し好きな江奈が、いつまでも沈黙を守っているのを異様に感じた亜砂代。

 江奈は、辺りを見回し、下坂中学校の生徒がいないか確かめた。


「亜砂代、この事は、内緒にしてね.....」


 うさぎのキャンディを手提げカバンから、折れないようにそつと出した江奈。


「何それ? 私に友チョコの代わりにくれるの?」


「ううん、違う! これ、学校の私の靴に入っていたの」


「可愛い~、うさぎ~! 誰から?」


 亜砂代は、手に取って裏返して見た。


「う~ん、どこかに贈り主の名前や目印のような情報が無いかと思っていたけど、どこにも無さそう」


「思い当たる節が無いし、私も、どこかにヒント有るかなって探したけど......」


「誰からなのか分からないじゃん、これじゃあ」


 お手上げ状態の亜砂代。


「何だか、自意識過剰かも知れないけど......うさぎのキャンディっていうと、つい連想しちゃうんだよね......」


 江奈が頬を染めながら言った事で、亜砂代にも、江奈の言わんとしている事が伝わった。


「なるほどね~、宇佐君か~!」


「あっ、そんな大声で、亜砂代、止めてよ~!」


 さっき確認していたが、改めて、周りに生徒の姿が無いか確認した江奈。


「大丈夫よ、誰にも聞かれてないって! 確かに、響き的に、もろ宇佐君っぽいじゃん!」


 宇佐義彦は「うさ」や「うさぎ」呼びされる事が多かった。

 

「でも、男子の方からバレンタインデーに贈られるなんて、おかしいよね。第一、私、宇佐君とは、全く接点無いし......」


 同じクラスにすらなった事の無い江奈に、義彦が感心を寄せるとは、到底思えなかった。


「バレンタインが、女から男へ贈るいうのが常識のようなのは、日本だけって聞いた事有るよ! 宇佐君は、彼女いないから、可能性ゼロってわけでもないと思うけど、競争率は、かなり高いよね」


「うん、可能性は薄い。でも、もしも、仮に宇佐君からだとしたら、これって、どういう意味って、受け止めたらいい?」


 女子から男子へだったら、告白的な意味合いという線が濃厚。

 バレンタインデーにチョコを渡してない相手から、ホワイトデーにスイーツを贈られるという話も聞かないわけでもない。


 だが、今日はホワイトデーではなく、バレンタインデー。


 男子から女子への場合は、海外でもない日本の中学校において、このシチュエーションをどう受け止めるべきか、悩ましかった。


「普通に告られているみたいな感じかな? でも、もしかしたら、逆バージョンで、大キライって意味だったりして~?」


 江奈の反応を面白がる亜砂代。


「え~っ、キライで、わざわざバレンタインデーに、こんな提示されるって、残酷過ぎない? 泣けてきそう~!」


 大好きな義彦と接点が無いまま、なぜか嫌われてしまっているなどという事は、想像もしたくない江奈。 

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