第15話 片想いがバレた

「ま、まあ、向こうも気にしてくれているだけマシか」

「前向きに考えれば」

 そうだ。すっかり忘れてどうでもいいと、放置される可能性だってあったのだ。ただでさえ、自警団の面々に馬鹿にされるくらいだ。歯牙にもかけない可能性は十分にあっただろう。

「こうなったら、対決することも視野に入れなきゃならねえな。おいっ、マクスウェルについて、俺たちにも詳しく教えろよ。お前の主観でいいからさ」

 実際に捕食現場を見ているならばなおのこと、気味の悪い化け物として近づかないはずだ。それなのに三回も魔導師の試験を受けてまで救いに来たのはなぜか。今も尚、話し合いたいと願う理由は何なのか。

「えっと」

「あっ、ひょっとして、あれ。禁断の関係だったとか」

「っつ!」

 そこで即否定しなければいけないのに、息を飲んでしまったラグランスだ。おかげで二人からなるほどねえという顔をされ、ついで、釣り合っていないなと首を捻られる。

「か、片想いだよ。マクスウェル多分、俺のことなんて、何とも思っていない」

「へえ」

「ほうほう」

「――」

 めちゃくちゃ恥ずかしい。そんなしげしげ見ないで欲しい。二人の探るような視線に、ラグランスは穴があったら入りたい気分だ。

「片想いならば珍しくないわよね。特にマクスウェル様ならば、一クラス分の片想いの相手がいそう」

「まあな。特に禁断のってのが良い響きなんだろうな。それに神学校だったら必ず一組以上いるし」

「えっ、そうなの?」

 二人の言葉にマジで驚いてしまうラグランスだ。この秘めた想いは珍しく、また、神の教えに背くものだから、恥ずかしいものだと思っていた。するとトムソンは哀れみの視線を向けてくる。

「なんだよ?」

「お前って本当に抜けてるよな。となると、マクスウェルはどうだったのかな?」

 睨むラグランスにトムソンは話題をマクスウェルに切り替えてにやり。それはつまり、完璧に見えるマクスウェルが堕ちた理由の一つになるのではと邪推しているのだ。

「それはないよ。マクスウェルに限ってそれはない。どこか近づき難いところがあったからね。間違っても、その、そういう関係になった奴はいない、と、思う」

 神学校ならば同性愛は珍しくないと言い切られ、ちょっと自信がなくなった。

そういえば、妙にべったりの奴らっていた。いつも二人で寄り添っているような、そういう奴らは確かにいた。それに、寄宿舎は二人部屋が基本だ。部屋の中で何をしていても、まずばれないだろう。

 と、そんなことはどうでもよくて、マクスウェルのことだ。神学校時代のマクスウェル。それはもちろん、ラグランスが憧れていた頃のマクスウェルだ。

 常に学年トップの成績で優秀。もちろん授業中にもその優秀さは遺憾なく発揮されていた。先生も端から難しい問題はマクスウェルにしか聞かないものだった。

 そんなマクスウェルは、誰に対する時も微笑を浮かべ、まさにその頃から魔導師として必要な素質を身につけていたといった感じだ。

「そんな奴、同じ学年にいなくてよかった」

 トムソンが思わずそんな感想を漏らす。見たまんま劣等生だったトムソンは、マクスウェルとは対極だ。そんな奴が同じ学年にいたらイジメていたかもしれない。もしくは、より一層やさぐれていたか。

「俺は目標にしてた」

「それはそれは」

 ラグランスの言葉に、その頃から魔導師を必死に目指す土台があったのかと、トムソンは冷やかす。

「だって、自分が持っていないものを持っている人だもん。少しは近づきたいって思うじゃん」

「素晴らしい考えですわ。嫉妬とは無縁だったんですね。少し見直しました」

 ラピスがそこで胸の前で手を組んでにこっと笑う。今まで、本当にポンコツとしか思われていなかったらしい。悲しいが、まあ事実だ。否定したところでどうしようもない。しかし、そんなところで見直されるのもどうなのだろう。

「ま、まあ、そういうわけだから、よくマクスウェルのことは見ていたんだよね」

「完全なストーカーだな」

「うっ」

 片想いの相手をじっと見ていた。その状況をからかわれ、ラグランスは顔を赤くした。自分の行動の数々を思い返すと、マジで恥ずかしい。確かに自分でもストーカーだったと思う。

「まあまあ。で、どうだった?」

「そうだった。今思えば、あれも兆候だったのかなって思うことがあって」

 マクスウェルはよく外を見てぼんやりとしていることがあった。何か考え事をしているような、物思いに耽っているような。しかし、何かと多感な時期だし、誰だって詩人を気取って外を眺めたりするものだと、ラグランスは不思議には思っていなかった。

「詩人を気取るって、単なる反抗期だろ?」

「い、いちいち茶化さなくていいよ」

 トムソンのにやにや笑いに、どういう表現をしようが自由だろとラグランスは噛みつく。

「そういうもんだって話だろ。俺は何時か神父なんてつまらないものではなく世界征服をするんだとか、逆にこの世の終わりになるんじゃないかと人類滅亡を妄想したり、あるいは今日の授業が出来ないように隕石降ってこないかなと思ったり」

「おい。空想が神父にあるまじきことばっかじゃねえか」

 トムソンの具体例に、何を夢想してるんだとラグランスは怒鳴る。

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