第14話 真意は?
「なるほど」
思いがけず聞いた話は、マクスウェルにとってそれは有益な情報だった。枢機院から派遣されたシスターがいる。かなり危険だと判断していいだろう。不良だから替えてくれと訴えられたのにシスターが派遣されてきたとなると、そのシスターの能力はかなり上のはずだ。やはり、教会に近づかないのが無難であるらしい。
「ふむ」
そうなると、問題はここにやって来たラグランスか。魔導師になっていたのは意外で興味を引かれたが、もはや住む世界が違う。しかも自分を倒すだけの能力を持つ魔導師になったとなれば、会うべきではないだろう。
「魔導師の監視を続けてくれ」
マクスウェルはさらに、ゴルドンたちにラグランスを城に近づけるなと指示を付け加えておく。
「ラグはマクスウェル様のことを、非常に心配しているようでしたけど」
ゼーマンはいいのかなと、一応はそのことを伝える。ラグランスはただ倒すために来たわけじゃない。話し合いの場を持ちたいようだった。
「心配してもらっても困るだけだ」
だが、その言葉はあっさりと切り捨てられてしまった。マクスウェルは拒絶するように目を伏せてしまう。
「まあ、そうですよね。相手は馬鹿に見えても魔導師ですもんね。本当は倒すつもりかもしれないし」
本当は会いたいようだけどいいのかなと再び思うも、ゼーマンは会うべきではと進言は出来ない。二人の関係が今や敵同士だというのは間違いない。それに町のためにどちらを取るかと訊かれれば、迷いなくマクスウェルを選ぶ。部外者でしかも王朝の手先であるラグランスの肩を持つ必要はない。
「そういうことだ。他に何か困っていることはあるかな」
「いえ、平和なもんです」
そんな感じで、あっさりと報告は終わってしまった。しかし、マクスウェルの中には何とも言えない不安が広がっていた。
酔っ払って教会に戻ったものだから、当然のようにラピスから怒られた。
それはもう、こってりと。
もちろん、怒られるメインはトムソンだったが、どうして力尽くで止めなかったのかとラグランスも怒られた。
「いや、自警団の奴もいたからさ。下手に断ると疑われるかなって」
「疑われませんよ。酒盛りを断るのは神父として当然のことですからね。というか、神父服を着たまま飲酒してる方がずっと問題でしょ。それも魔導師がついていながら。信じられない」
ラピスは嘆かわしいと、大袈裟なまでの溜め息を吐いてみせた。まったく、本当にしっかりしたシスターだ。ぜひ、魔導師になって頂きたい。
「それで、何か成果はあったわけ?」
「――」
「――」
ラピスの問いに、二人揃って沈黙する。ただ三人でだべっていただけだ。何一つ進展はしていない。
「でしょうね。まあ、これでラグが町の連中に怪しまれることはないわ。それだけでも良しとするか」
「それはどうだろうな」
ラピスの意見に、珍しくトムソンは反対を表明する。そしてその顔はとても真剣だ。
「どうかしたのか?」
「いいか。自警団の連中はマクスウェルを守っているんだ。しかも崇拝している。ということは」
「俺の真意を探っていたと?」
今日の一連の流れはマクスウェルが仕組んだのでは。その可能性を考えていなかった。ラグランスは自分の迂闊さに目を見開く。
「そう。おそらくゼーマンはゴルドンに頼まれて俺たちに声を掛けたんだろう。団長であるゴルドンが出張れば、マクスウェルの指示だってバレバレだからな。で、酔わして本音を引き出そうとしたに違いない」
「な、なるほど」
たしかにそれは自然な流れだ。それに昨日は追い払おうとしたのに、あっさりとトムソンの友人だと信じたことも、よく考えると疑わしい。昨日は泳がせておいて、マクスウェルに確認したのではないか。
「確認はするだろう。こいつを知ってるかって聞くだけでいいんだし」
「そうだよな。魔導師なんて危険な存在だと判断しているわけだし」
「それは当然だろ。吸血鬼は神に背いた存在なんだぞ。堕天の烙印を押されているんだ。神の代弁者である魔導師は敵だよ」
「だよね」
ラグランスは解ってますよと、遠い目をしてしまう。
そうだ。今、尊敬し、片想いしているマクスウェルの目から見ると、自分は単なる敵でしかない。それも倒すことが可能な能力を持っている、唯一の地位にいる厄介な敵だ。
「で、だ。そうなると、単に探りに来ただけということは、マクスウェルはお前のことを覚えているってことだな」
「それは、ちょっと安心かも」
忘れられているのではと危惧しただけに、覚えていたというのは嬉しい。
「が、その先は全く読めないな。今日は真意を探りに来ただけとして、この先はどう対処するつもりなのか。マクスウェルが先手を打って攻撃を仕掛けてこないとも限らない」
「ま、まあね」
そこはマクスウェルの方が頭いいからと、ラグランスは頷いた。何か考えがあるからこそ、自警団の連中に探りを入れさせたのだろう。そんなこと、自分には無理な方法だ。頭で考えて誰かを動かすというのが苦手だ。だからこうして、身一つで何も考えずん乗り込んで来た。自分の力だけで旅の用意をし、周囲に根回しすることなく、自力でこの地までやって来た。
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