28.俺への裁き(side:ナイジェル)

裁判の後俺はすぐに牢に入れられた

シリルは俺を愛していると思っていた

たしかにあの舞踏会の日、俺はシリルを追いかけた

あいつはやめてと言いながらも目を潤ませていた

だから俺は…何度もあいつの中で精を放ったんだ

なのに襲われたと思っていたなど思いもしなかった


どれくらいの時間そんな事ばかり考えていたのかわからない

でも気づいたら牢の前に帝王が立っていた


「帝王…」

「根底が覆されたようだな?」

「…」

「お前のうぬぼれと勘違いがシリルの命を奪った。アリシャナはその被害者だ」

「…」

俺は何も言い返せなかった

「逆恨みし、虐げ、すべてを押し付け、お前は何がしたかったのだ?その地位に胡坐をかき下の者を見下してきたようだが結局はブラックストーン家の当主としても、魔術師団長としても無能の一言だったな」

「ぐっ…」

帝王の言葉に返す言葉もない


「さて、裁きを与えよう」

「帝王!それだけはどうか…どうか…!」

ナイジェルは牢の格子を掴み訴える

「そのように泣いて懇願したシリルを襲ったのだろう?」

「!」

目を潤ませたシリルを思い出す

そうだ、あの目は確かに怯えていた

それを俺は気付こうともしなかったんだ…


「お前に虐げられたものは少なくない。お前の元で育ったアンジェラに苦しめられた者もだ」

「アンジェラに…?」

「婚約者を寝取られた令嬢も多い。そのことを抗議すれば野盗に襲わせ自殺に追い込んだこともあるようだな」

「そん…な…」

あのアンジェラが令嬢から婚約者を寝取った?

それも今の言い方だと1人や2人じゃない

だからか?

だから婚約を申し込んで意味の分からん言葉が返ってきたのか?

『私共よりふさわしい方が沢山おられるようですから』

その言葉を何度も返されていたのを思い出す

あれは…寝取った令息から選べばいいだろうという意味だったのか…?


「よく似た父娘ではないか?なぁナイジェル」

『ディフェントヒール』

「!!」

不意を突かれただ帝王を見るしか出来なかった

「これからは国の為に働いてくれ」

「そんな…どうかご慈悲を…!」

騎士団や魔術師団の実験台等やってられるか…!


「これまでさんざん国を食い物にしてきたお前に、ただ牢で時が過ぎるのを待つだけの日々を送れるはずがなかろう?」

「だからそれは…」

「お前が支払うべき金は1兆ルビ(1ルビ=1円)を軽く超える。奴隷として働いても返せるような額じゃない」

「それでも…!」

帝王の言わんとすることは分かる

でもだからといって自分が実験台になることを納得するわけにはいかない


ディフェントヒールを掛けられた犯罪者の苦しむ姿を何度も見てきた

俺自身何度も相手を火あぶりにしてきたんだ

あんなことを自分にされるなど…何としてでも回避しないと…!

俺はもう逃れることしか考えられなくなっていた


帝王にディフェントヒールを掛けられた翌日牢の前が騒がしくなった

「来いナイジェル」

4人の騎士に周りを固められ訓練場まで連れてこられた

手は後ろで拘束され足は30センチほどしか開けない状態で拘束されている

魔封じの首輪まではめられている為魔術は使えない

それでも俺は何とかして逃げ出そうとたくらんでいた


「よしお前らこいつが的だ」

「え、でもそれじゃ死にませんか?」

「大丈夫だ。こいつにはディフェントヒールがかかってる。死ぬ前に全回復するから何度でも繰り返し練習できるぞ」

「でも…」

目の前の新人だろう騎士は戸惑っているようだ

これはチャンスだと俺は思った


皆の注意が今はあの騎士に向いている

俺は逃げるために走り出した


「おい、獲物が逃げ出してるぞ!」

「丁度いい、動かん標的より練習になるんじゃないか?」

何だと?!

予想もしなかった言葉に冷や汗が出る


「いい機会だ弓部隊!最初に仕留めた奴に飯をおごってやるぞ!」

その言葉に新人騎士どもが浮足立った

「やめ…やめてくれ!」

直後四方八方から飛んで切る矢が体中をかすめていく

「っ!!」

痛さと熱さが同時に襲う

「お前らしっかり魔術を纏わせろ!ただの矢は魔物相手じゃ何の役にも立たんぞ!」

煽る様に指示が飛ぶ

止まったら完全に仕留められる

そう悟ったら走り続ける以外の選択肢は浮かばなかった

でも、女を抱く以外の運動をしてこなかった俺が長時間逃げられるわけもなく息もすぐに苦しくなった

「ぐぁ…!」

火を纏った矢で内臓を撃ち抜かれた

「やめ…ぅあぁぁぁぁっ!!」

熱い、痛い、苦しい

それだけに支配された

そして意識を手放す直前に体が軽くなる


「すげぇ…一瞬で完治してますよ」

矢を放った当人が一番驚いていた

たとえ完治してもその前の痛みや苦しみを忘れるわけじゃない

俺はこれからずっとあんな思いをし続けるというのか?

そう恐怖を感じていると…


「いいかお前ら、この男は昨日の裁判で裁かれた男だ。お前らもよく知ってるアンジェラの父親でもある」

「あのクソアマの?」

「俺の友人は捕縛の魔術で拘束されて媚薬を盛られたと言ってたんだ。抵抗も出来ずあの女は自ら腰を振っていたと…そのせいであいつは婚約を破棄された」

何だと?

アンジェラがそんなことを…?

俺は信じられない言葉を耳にしていた

愛するアンジェラは男どもから愛でられて当然のはず

それがクソアマと呼ばれるような立場だったのか?


「この男に対する遠慮は必要ない。実験台として国の為に働くのがこの男の受けた裁きだからな」

「つまりこの男を的にして腕を磨けと?」

「そう言うことだ。動き回る上に何度倒しても回復されるこいつは、新人のお前らにとって魔術を纏わせた攻撃の練習をする格好の的だ」

人を的呼ばわりしやがって…

怒りをぶつけようとした瞬間さらなる言葉が飛んできた


「今後は魔術師団と協力した攻撃の練習も行う予定だ」

何だと?!

あいつらは補助系の魔術だけでなく攻撃や防御を得意とする者もいるんだぞ?

さっきの新人の矢であれだけの苦痛を味わったというのに補助を掛けられたら一体…?

そこまで考えて体が震えだす


「イヤだ…もう勘弁してくれ…!」

その場で懇願していた

「それは聞けない願いだな」

そう言いながら現れたのは騎士団長だった

「お前…」

「あなたには随分色んなことをされましたからね」

騎士団長はそう言って俺を睨んできた


「あなたのせいで犠牲になった若い騎士は大勢いますよ?たしか…騎士など俺の盾以外何の役にも立たん、でしたか?」

騎士団長のその言葉におびただしい殺気が俺に向けられた

これはまずい

確かに遠征に行った時にその辺の騎士を盾にしていたが…

それがなぜこいつの耳に入ってるんだ?!

「証拠の音声を記録していた者も何名かいた。それはすでに帝王に提出済みだ」

「貴重な騎士を盾がわりにしたお前を的代わりにして何が悪い?お前は死なないが騎士たちは未来を失った。その家族たちの悲しみも消えはしないだろう」

「それとこれとは…」

「違うと思うか?我々が鍛えるのは国民を、愛する者達を守るためだ」

「だがお前たちはアリシャナのことは守っていたではないか?」

「アリシャナは俺達を守ってくれていたからだ。かなりの数の騎士に出来うる限りの補助を掛け、傷付いたものには治癒も施してくれた。アリシャナに救われた者は多い」

あの小娘がいつの間に…

「アリシャナだけじゃない。お前以外の魔術師と騎士は同様に持ちつ持たれつの関係だった。それを今後さらに強化しようとしているだけだ」

俺の知らないところで何でそんなことになっている?

この国で魔術師団の地位は騎士団より高い

なのにそいつらを盾にして何が悪いというのだ!?


「お前には何を言っても無駄のようだ。だがお前が裁きを受けたことは覆らない。無駄に命を落とした騎士達の分も、お前にはしっかり役立ってもらうまでの事」

「何を…」

「今後グループごとに分かれて練習を行う。各グループ1時間ずつ順番にこいつを仕留めるように。1時間で仕留めた回数を記録し上位のグループには褒美をやろう」

騎士達がざわついた

待て…それでは俺の休む時間がないではないか?

「ただし仕留めてカウントされるのはこいつが動いていた場合のみだ。止まっているようなら足元に矢でも放ってやればいい」

その直後から俺は毎日24時間休むことなくひたすら追い立てられている

騎士も魔術師も確実に腕を上げてきているのが分かる

この回復は空腹も脱水も満たし、体調も万全に整えてくれるらしい

帝王がそう説明していたと騎士団長が後から言っていた


今では出入り口に結界を張り足の拘束は外されている

そのままでは逃げる足が遅いからと俺に身体強化の補助を掛ける奴までいる

痛みも苦しみも慣れることはないんだぞ?

れなのにこのまま寿命が尽きるまでこの日々が続くのかと思うとぞっとした

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