23.裁判直前
「リーシャ今の…」
エイドリアンとアリシャナは庭でお茶を飲んでいるときに宣言を聞いた
「遅かれ早かれ問題は起きると思ってましたけど…2か月も持たないとは思いませんでした」
アリシャナは特に何とも思っていないそぶりを見せる
「職務放棄に越権行為、偽証罪とは…ひょっとして魔術師団長の仕事を押し付けられたり?」
「5年ほど前から全て私が」
「…出来るものなのか?」
「あら。私には先代たちの記憶があるんですよ?その辺の小娘と同等の知識ではありませんわ」
当然でしょう?という体でで言われエイドリアンはポカンとする
「流石に自ら進んですることはありませんでしたよ?全て押し付けられただけですから」
そうはいうもののエイドリアンの中に一つの疑問が浮かんだ
「なぁリーシャ」
「はい?」
「ブラックストーン家の政務もしてたなんてことは…」
「もちろんしてましたよ?これからブラックストーン家はどうなっていくのでしょうね?」
アリシャナは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべながら言った
魔術師団長の業務にブラックストーン家の政務
普通の18の娘が賄える仕事量ではない
それ以上に問題なのは魔術師団の仕事同様、未成年にその手の仕事をさせてはならないという法が存在するという点だろう
もちろん当主が亡くなり未成年者しか残っていない場合は例外として許されるが条件がある
1つは正式な後見人とともに帝王に届け出て許可を取ること
そして定期的に国務期間で教育を受けることだ
ナイジェルが健在で魔術師団長を務めている以上その例外は認められるはずがない
エイドリアンがそう思っていると……
「お話し中失礼します」
執事が側にやってくる
「どうした?」
「帝王からの急ぎの要請が」
その言葉にアリシャナはため息を吐く
「裁判に出席しろと言うことでしょうか?」
「はい。エイドリアン様の同席もお認めになっておられます」
「ならば否はないな。2人で参加すると返事を」
「承知しました」
執事は頭を下げて去っていく
「…リアンが注目を浴びてしまうのね」
「は?」
それはエイドリアンにとって予想外の言葉だった
「入れ墨がなくなってから初めて公の場に顔を出すんだもの」
アリシャナは少し不安そうな顔をする
「下らん心配はするな」
「…」
黙り込んだアリシャナを見てエイドリアンは立ち上がる
「リアン?…え?ちょっと待って…!」
エイドリアンはアリシャナを抱き上げ、そのまま歩き出す
寝室に入りソファに座るとそのまま膝の上にアリシャナを座らせた
そしてエイドリアンはポケットから何かを取り出した
「な…に…?」
アリシャナは不安そうにエイドリアンを見る
「じっとしてろ」
そう言って左耳に触れると何かをつけるのを感じた
「…ピアス?」
「ああ」
エイドリアンは頷いて自分の左耳にもピアスをつける
「サファイヤ…」
その色を見てアリシャナはエイドリアンを見る
「リーシャの色だ。そしてこっちは…自分で確認してくるといい」
そう言われてアリシャナは化粧台に向かう
「エメラルド…リアンの色…」
そのピアスに触れたアリシャナの目から涙が零れ落ちる
互いの色の石がついたピアスをそれぞれの左耳につける
それはこの国で唯一の相手を得たという印だ
一夫多妻制のこの国でありながら、そのピアスをつけるということは他の妻を娶らないという意思表示である
同時に、そのピアスを作る際に魔力による誓いを練りこむため、浮気や不倫をした際、死を持って償うことになる
そしてその死は浮気相手、不倫相手にも同様に訪れる
ピアスは男性側から送るものであり、送る際の覚悟は相当のものだとされている
お洒落としてのピアスは存在しないため手を出さないと同時に出されないためにも効果は絶大となるのだ
「俺はリーシャしかいらない」
「リア…」
呼ぼうとした名前は落ちてきた口づけにかき消された
「このピアスの意味は分かるよな?」
アリシャナは無言のままうなづいた
「今まで家族にさんざん利用されてきたリーシャに心配するなと言っても難しいだろうし…それにブラックストーン家から解放されたリーシャの虫よけの意味もある」
「虫よけって…」
アリシャナは困ったような顔をする
「リーシャが俺が注目を浴びることを不安に思うのと同じで、俺もリーシャが注目を浴びるのは嫌だってことだ」
「え?私なんて今まで誰にも相手にされてなかったし…」
「それは魔術師団と家以外の場所に出ることが無かったからだ」
「そんなの関係ないと思うんだけど…」
「あるんだよ。ついでに保護結界も付けてあるから、女性でも悪意を持つ者はリーシャの1m以内に近づくことは出来ない」
サラッというがとんでもない事である
おそらくこのピアスを作るために膨大な魔力と繊細な魔力操作が必要だったはずだ
「これで少しは安心できるか?」
「…はぃ…!」
アリシャナはエイドリアンに抱き着いた
そんなアリシャナをエイドリアンはしっかりと抱きしめた
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