22.お父様の裁判(side:アンジェラ)

いつものように泣き叫びたいほど厳しい教育を受けていた

「本当にどうしようもないお方ですわね」

礼儀作法を教える教師はそう言って冷たい視線を向けてくる

「ちょっとの違い位勘弁してよ…」

『パシッ』

「言葉遣いがなっておりません。口答えもはしたないと何度お伝えすれば理解できるのです?それともあなたにはこの国の言葉から教える必要があるのですか?」

そう言いながらこの女は私の左腕を扇子で叩く

「そんな言い方しなくてもいいじゃない…」

思わずつぶやくと更に扇子で叩かれた

どれだけ叩けば気が済むのよ?!

いつかこの女をボコボコにしてやるんだから!


豚が教師を寄越すと言いに来たのが1か月くらい前、たったそれだけの期間で私の左腕は目をそむけたくなるほど汚くなった

赤く腫れあがったような跡が無数にある

痛みは麻痺してきたのかあまり感じないのが救いかしら


宣言通り豚はここには来ない

何度メイドに命令しても条件をクリアしてからおっしゃってくださいと返される

こんなことしてたらいつまでたっても満たされないじゃない!


正直最近体がうずくのよね…

誰もいない時に自分で何とかしようとしてるけどどうにもならない

どういうわけかこの部屋に来るのは女だけ

騎士や護衛まで女だなんて思いもしなかった

男ならちょっと抱かせてあげればここから逃げられるはずのに…

そんなことを考えていると耳障りな言葉が聞こえてきた


「全く…この程度の事、4~5歳の少女でも完璧にこなすというのに…」

何よ…そんなことわざわざ言わなくてもいいじゃない…

正直地味に凹むんだから!


「10歳で魔法師団に入られたアリシャナ様は、その時点でお教えすることが一つもないほど完璧なマナーを身に着けておられましたのに…」

心底嘆かわしそうに言うこの女を殴ってやりたい

でもここに来る教師に暴力を奮ったら執事からその数の10倍鞭で打たれる

あんな痛い思いは二度とごめんだわ


「同じ家でお育ちになったはずなのに…どこをどう間違えればこのような差が生まれるのです?アリシャナ様は文句のつけようのない最高のレディー、それに引き換えお姉さまであるあなたは子供以下とは…あまりにも嘆かわしい」

「それを何とかするのがあなたの役目なんでしょ?だったらとっとと…」

「こればかりはご自身の努力なしには…ねぇ」

教師はあざ笑うように言う

「これだけは言わせていただきます。私がこれまで指導させていただいたご令嬢は100人を越えますが、あなたを除いたすべての方は遅くても3か月で合格を言い渡せるレベルになっておられます。年齢も5歳児からですからあなたが出来ないのは私の責任ではございません」

「な…」

「言い返したくなるほど気に障るならこの程度の事いい加減にマスターしていただけますか?合格された暁には文句でも何でも聞いて差し上げますわ」

腹立つこの女!

苛立ち、言い返そうとしたもののその言葉が出てこない

この女を丸め込めるだけの言葉が私には浮かばないのだ

だから私にとって最後の手段ともいえる言葉を吐き出していた


「あなたが偉そうな態度を取れるのは今の内よ」

教師に向かってそう言った私は勝ち誇った気分だった

お父様は魔術師団長

帝王の次に強いと言われている人物だもの

こんなクソ教師の首を切るくらい簡単なはず

この女も泣いて謝ってくるはず

そう思ったのに…


「どういうことでございましょう?」

表情も変えずにそう尋ねられた

この女そんなこともわからないのかしら?

仕方がないから説明してあげるわ


「そろそろお父様とお会いするつもりなの。あの豚の事もあんたたち屑教師の事も全てお父様に訴えてやるわ。そしたらあんたたちなんて即刻首よ!」

これでどうだと意気込んで言った私を待っていたのは残念そうに私を見る女の顔だった

何で?ここは恐れるところじゃないの?


「アンジェラ様よろしいですか?」

「な…によ?」

「マックス様はこの国と帝王の血を引くお方です。アンジェラ様のお父上はその帝王の部下でしかありません」

「は?何言ってんのよ。お父様は魔術師団長なのよ?この国で一番魔力の強い…」

まって、おかしい

一番強ければ帝王を恐れる必要はないはずよね…?

それに私があの豚に嫁ぐ必要もなかったはず

え?ってことはまさか…このクソみたいな環境もお父様にもどうすることも出来ないってこと?


「ようやくお気づきになりましたか?ナイジェル様は帝王の次に強いとされているお方でしかございません。それに、私共はマックス様に雇われております。ナイジェル様に解雇する権利はございません」

なに?じゃぁ私は…

「本当にあんたたちの合格を貰えなきゃこの地獄から抜け出せないってこと?」

そうつぶやいたときだった


『本日の午後3時より先ほど捉えたナイジェル・ブラックストーンの職務放棄並びに越権行為、帝王並びにこの国に対する偽証罪について裁判を行う。申し開きのある者、身に覚えのある者は書面にまとめそれを持って出頭せよ』


「え…?」

通常の言葉とは違い頭の中に響く言葉

何なのよこれ?どういうこと?


「まぁ…帝王の宣言だなんて珍しいこと」

「帝王の宣言?」

何よそれ?


「帝王のみが持つ力の1つですよ。全国民に直接周知することが出来ると言われています。長年生きてきましたが私も過去には1度しか経験がありません」

「だから何だって言うのよ?問題はそんな事じゃなくて…」

お父様が帝王に裁判にかけられるって一体何があったの?


「帝王が裁判を決める等よほどのことがあったのでしょうね。ナイジェル様の場合あなたのこともありましたし挽回すべき時に失態を犯せば先は無いでしょうし…」

「縁起でもないこと言わないでよ…お父様に何かあったら私はどうなるのよ?!」

思わず叫んでいた


「…この期に及んでまだご自身のことしか考えられないようですね?」

心底軽蔑したような目を向けられる

「それの何が悪いのよ…私は…誰よりも幸せになるべき人間なのよ!?」

そう言いながらも私は気が狂いそうだった

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