21.魔導士団の混乱

アリシャナが抜けてからの魔導士団は最初の内はそれなりに動いていた

でも1週間もすれば少しずつほころびが露見する

そして1か月を過ぎれば問題が立て続けに起こり出した


「師団長!3日後の騎士団との協同警護の外出許可がまだ下りてこないのですが」

団員の一人がナイジェルの執務室に飛び込んできた

「どういうことだ?」

「先週師団長に提出した書類の許可がまだ下りてきていません。このままでは警護に問題が生じます」

「何?その警護対象は…」

「書類に書いた通り帝王ですよ!」

ナイジェルは固まった

そんなナイジェルを見て団員の目に不信が見て取れる


「国務機関に確認したところそんな書類は回ってきていないと…師団長はいつ提出を?」

「書類などすぐに処理しているに決まって…」

そう言いながら団員を見るとその視線がナイジェルのデスクの上に向けられていた

ついこの間まで常にきれいに整えられていたデスクは書類の山と化している

「まさかこの中に…」

「そんなわけないだろう!その件は私が国務機関に抗議するから仕事に戻れ」

「…承知しました」

納得いかないという表情を隠しもせずに団員は出て行った


そんなことが既に10件近く起きていた

「まずいな…」

ナイジェルつぶやいたその時、突然目の前に影が差した

「…?」

不思議に思い顔をあげて引きつった

「て…帝王…!」


「そろそろ正直に話す気になったか?」

何の前置きもなく帝王はそう尋ねる

「ここしばらく様々な苦情が寄せられている。その8割が貴様に起因するものだ」

「!」

ナイジェルは一気に青ざめた


「アリシャナが抜けてからの1か月の業務内容を報告をするよう10日ほど前に書類を送ったが…それもその山の中のようだな」

底冷えするような冷たい声が響く

「いえ、それは現在作成中でして…」

「ナイジェル」

「は…はい!」

「もう一度だけ聞く。報告するよう依頼した書類に目を通したのか?」

ナイジェルは尋常ではない汗を額から流し出した


「と…当然でございます。て、提出は本日中には必ず…!」

帝王はナイジェルをじっと見る

怒声が飛ばなかったせいか一瞬ナイジェルの顔に安堵の色が見えた


「…残念だ」

「は、え?帝王!?」

「ナイジェル・ブラックストーンを拘束し地下牢へ」

「は!」

帝王の指示で騎士がナイジェルを拘束する


『本日の午後3時より先ほど捉えたナイジェル・ブラックストーンの職務放棄並びに越権行為、帝王並びにこの国に対する偽証罪について裁判を行う。申し開きのある者、身に覚えのある者は書面にまとめそれを持って出頭せよ』

帝王の伝令が音声ではなく全国民の脳内に直接伝得られる


「お待ちを!帝王!どうか…!」

「ナイジェル、我はそなたに報告の依頼などしておらん」

「は…?」

「我は影に潜入調査をさせただけだ。事の重さに気付き自ら白状すれば一考の余地もあったがな」

帝王はそう言ってその場から姿を消した


魔封じの首輪を嵌められたナイジェルは2人の騎士に捉えられ地下牢に放り込まれた

「待ってくれ!頼むから帝王と話を…!」

見張りの騎士に頼み込むが誰一人耳を傾けるものはいなかった

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