20.素顔

暫くエイドリアンの腕の中に閉じ込められていたアリシャナは昼食時になってようやく解放された

食事の為に部屋を出ようとしたアリシャナの腕を引き寄せる

「リアン?」

「じっとして」

エイドリアンは少し腫れているアリシャナの両目の上に手を乗せた

「あ…」

腫れぼったさがなくなったのがわかる


「リアン今のは…?」

「治癒の一種かな?泣かせたお詫び」

「もぅ…」

からかうように言うエイドリアンに思わず笑う


「ありがとう」

「どういたしまして」

お互いに笑みを見せると部屋を出る


「みんな驚きますよ?」

入れ墨のなくなったエイドリアンの素顔の破壊力は凄かった

実際すれ違ったメイドはその場で固まっている




「遅いよ兄さ…え…?」

ドアを開けるなりそう声をかけてきたテオが絶句する

「エイ…ドリアン?」

オードリーの声は震えていた

「まさか…」

「封印を解きました」

バックスの言葉に頷いて返す


「本当に入れ墨が消えるなんて…」

エイドリアンはオードリーに泣きながら抱きしめられどうしていいかわからずアリシャナを見た

「そこは…抱きしめ返すべきでは?」

「あ、あぁ…」

戸惑いながらもエイドリアンはオードリーの背に手を回す

エイドリアンにとって物心ついてから触れることさえなかったオードリーの体は随分と小さく感じた

それだけ長い時間自分は心を閉ざしてきたのかと

長い時間、この母をはじめ家族はどんな思いで自分を見ていたのだろうかと

この時になってようやく家族の心に思いを馳せた


「こんな日が来るなんて…!」

「母さん…」

「何もかもアリシャナのおかげね…ありがとうアリシャナ…」

「…私は何も。それよりお母様、リアンの素顔を見てあげてください。これからはずっとこの素顔で生きていくんですから早く慣れてもらわないと」

「はは…確かに慣れないとな」

「本当だよ。でもせこくない?兄さんの素顔がここまで破壊力あるとは思わなかった」


「破壊力?」

「ふふ…すれ違ったメイドさん皆を固まらせるくらいには破壊力がありますよ?」

その言葉にエイドリアンは首を傾げる


「これは周りのご令嬢がほっとかないんじゃないの?」

「あら、今頃騒いでも無駄よ?エイドリアンにはアリシャナがいますからね。それに突然手のひらを反すような令嬢を私が受け入れるわけがないでしょう?」

「あーたしかに母さんはアリシャナにぞっこんだもんな。時々父さんがやきもち焼いてるくらいだし」

「おいテオ?」

バックスが突然の暴露にアタフタしている


この日スターリング家はエイドリアンが産まれた日以来初めて穏やかな空気に包まれていた

夜にはスターリング家の使用人を含め皆でお祝いをするほど喜ばしい出来事だった

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