16.真相
「アリシャナ」
沈黙を破ったのはエイドリアンだった
「このままではお前の身が亡びるとはどういうことだ?帝王の言う全ての真実とはなんだ?」
「…」
「あの日帝王と何を話していた?あの時に何の約束をした?」
あの日が帝王の屋敷に出向いた時の事を指しているのは明白だった
「言いたく…ありません…」
「俺にお前が弱っていくのをただ見ていろと?」
「そういう意味では…」
アリシャナは咄嗟に反論しようとしていた
「アリシャナ、俺は最初からお前に惹かれていたようだ。アリシャナの事を知る度愛しいと思う気持ちは大きくなる」
エイドリアンはそう言いながらアリシャナの頬を両手で包み込む
「愛してる…お前に同じように愛を返してくれとは言わない。でも、一人で何もかも抱え込まないでくれ」
「リアン様…」
アリシャナの目から涙が溢れ出すのを見てエイドリアンはアリシャナを抱き起した
薄いナイトウェアだけでは寒いだろうと側に合ったガウンを肩から掛けて抱き上げる
「リアン様…?」
何をするつもりなのだろうかと不思議そうな目を向ける
エイドリアンはソファに身を預けると自らの膝の上にアリシャナをおろした
「全て話すまで逃がさない」
「…!」
逃れられないよう抱き寄せられてアリシャナは戸惑っていた
「どれだけ長くなっても、まとまってなくても構わない。祝福の事もアリシャナの力の事も全て話してくれ」
真っすぐ見るその目には強い決意が秘められていた
もうごまかすことは出来ないと悟ったアリシャナは覚悟を決めるしかないと諦めた
「…魔力を封じられている間、リアン様はご自身の負の感情の強さに比例して、まわりのあらゆる負の影響をその身に取り込むんです」
「負の感情に比例して?」
「はい。だから帝王はリアン様の祝福を呪いと恐れられるまま放置しただけでなく、帝王にとって都合の悪い者を失脚させると同時にリアン様をさらなる孤独に追い込もうとした」
「…まさか帝王の命での婚約は…」
「お相手は帝王に反旗を翻そうとした者や、今の地位に胡坐をかき邪魔になった者の娘だったと」
それはナイジェルとアンジェラの事をみれば疑う余地もなかった
「負の影響とは?」
「代表的なものは暴動や犯罪。今の帝王になってからそれらは一切起こっていません」
「確かにこの20年ほどは騎士団が平和ボケしていると父さんが言っていたが…20年…?」
「リアン様が誕生されてから、です。この国の平和はリアン様やスターリング家の孤独の上に成り立っていたということです」
「帝王はそれを認めたのか?」
怒気のこもった声だった
「帝王に面会した時に肯定されました。私が成人するまでの…国の平和のための最小限の犠牲だと…」
「アリ…シャナ…?」
そう言って再び涙を流すアリシャナにエイドリアンは怒りを忘れ戸惑っていた
「許せませんでした…あんなにやさしい人たちを、こんなに傷ついてるリアン様を…国の為に傷つけても仕方ないと言い切った帝王が…!」
その声は震えていた
「帝王は最初から私が成人すればリアン様に嫁がせる予定だったと思います」
「アリシャナの成人がどう関係する?」
「私たちは力の一部を封じられて生まれて来ます。先代の記憶は時を追うごとに膨大になり、幼いうちにはそれを受け止める前に気が狂ってしまうと…ただ、18になったら儀式をしなければならないと刷り込まれて育ちます」
「儀式?」
「自らの封印を解く儀式です。誰かに教わる必要もなく眠っている間に、意志とは無関係に実行されるようです。目が覚めたらそのことも全て記憶となり理解していました。そしてその時に知りました。祝福の封印を解くための条件と、その条件を揃えるための力を得たことを」
「条件…伴侶と決めた相手と魔力を交換することが出来ればというやつか?」
「…」
「違う…のか?」
「…大筋はその通りです。ただ、魔力交換するためにはリアン様が祝福を受け入れる意思と、カギとなる言葉が必要なんです。その言葉を引き出すための力を使うことを帝王は望んでいました」
過去形でアリシャナはそう言った
「断ったということか?そのために何かを約束したということか?」
本当に聡い人だと、アリシャナはその賢さを恨みたくなった
「私が国を守るために力を使うことでリアン様にはもう誰も仕向けないと誓っていただきました」
その言葉に帝王の残した言葉をかけ合わせれば勝手に様々なことが浮かんでくる
「俺の淀みを浄化するだけでなく…この国の負の影響を…?だから体調が…?」
答えにたどり着いてしまったエイドリアンを前にアリシャナは俯き目を閉じた
「教えてくれアリシャナ。俺の力が解放されたら何が起こるのか。何が出来るのか」
「…」
「アリシャナ?」
「…リアン様がいるだけで負の影響が浄化されます。豊かさも、天候もリアン様の望む通りに操ることが出来てしまう。助けたいと思ったものを助け、守りたいと思ったものを守ることも、もちろんその逆も…でもそれを知ったら周囲の人は最初は感謝しても、徐々にリアン様を利用しようとするでしょう。今以上の孤独を味わうことになるかもしれません。実際過去にはそれで苦しんだ方もおられます」
アリシャナがエイドリアンに隠したかったのはその部分だったのだろう
祝福の封印を解くことが出来ると言ったわりにそれを勧めてくることはなかった
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