17.真相(side:エイドリアン)
一体何が起こっている?
とてつもない疎外感と不安、心配、帝王に対する嫉妬…
上げたらキリがないくらい様々な気持ちが自分の中で渦巻いているのがわかる
アリシャナはただ俯いているだけだった
「このままではお前の身が亡びるとはどういうことだ?帝王の言う全ての真実とはなんだ?」
「…」
黙ったままのアリシャナにさらに重ねて尋ねる
「あの日帝王と何を話していた?あの時に何の約束をした?」
あの日が帝王の屋敷に出向いた時の事を指しているのは言わずともわかるだろう
苛立ちを含んだまま吐き出した質問に返ってきたのは望んでもいない言葉だった
「言いたく…ありません…」
何…だって?
鈍器で殴られたような衝撃があった
自分でも信じられたいほどのダメージだ
「俺にお前が弱っていくのをただ見ていろと?」
頼むから否定してくれ
そう思いながらそう口にしていた
「そういう意味では…」
アリシャナは咄嗟に反論しようとしていた
でもそれがアリシャナ自身の為でないことだけは何となくわかった
「アリシャナ、俺は最初からお前に惹かれていたようだ。アリシャナの事を知る度愛しいと思う気持ちは大きくなる」
そう言いながらアリシャナの頬を両手で包み込む
白く柔らかい肌が少し赤みを帯びた
「愛してる…お前に同じように愛を返してくれとは言わない。でも、一人で何もかも抱え込まないでくれ」
「リアン様…」
アリシャナの目から涙が溢れ出すのを見てアリシャナを抱き起した
頼むから自分の中に抱え込んだまま一人で苦しまないでくれ
そう思いながら抱きしめる
薄いナイトウェアだけでは寒いだろうと側に合ったガウンを肩から掛けて抱き上げ、ソファに身を預けると自らの膝の上にアリシャナをおろした
「全て話すまで逃がさない」
もう気づかないふりをするつもりはない
逃れられないようしっかりと抱き寄せる
出来ることならこんな風に無理矢理聞き出すようなことはしたくない
でも帝王との話を聞いた以上そんな悠長なことは言ってられない気がした
「どれだけ長くなっても、まとまってなくても構わない。祝福の事もアリシャナの力の事も全て話してくれ」
全て受け止める決意とアリシャナに一人で抱え込んで苦しんでほしくないという願いを込めてアリシャナを見ると、アリシャナは逃れられないと悟ったのか短く息を飲んだ
「…魔力を封じられている間、リアン様はご自身の負の感情の強さに比例して、まわりのあらゆる負の影響をその身に取り込むんです」
アリシャナは静かに話し始めた
「負の感情に比例して?」
つまり俺が苦しめば苦しむほどということか?
「はい。だから帝王はリアン様の祝福を呪いと恐れられるまま放置しただけでなく、帝王にとって都合の悪い者を失脚させると同時にリアン様をさらなる孤独に追い込もうとした」
「…まさか帝王の命での婚約は…」
「お相手は帝王に反旗を翻そうとした者や、今の地位に胡坐をかき邪魔になった者の娘だったと」
それはナイジェルとアンジェラの事をみれば疑う余地もなかった
それまでもなぜ選ばれたかわからない令嬢が寄越されてきていた
帝王の命での婚約を破棄した娘など今後貰い手は無くなる
その家は帝王に逆らったと同等の評価が周りからくだされるのだ
帝王はただ片付けたい家の娘を王命で俺と婚約させればいいということか…
そして俺は帝王の狙い通り、愛してなどいない相手からとは言え精神を病むほど拒否され、婚約を破棄されるたび心を閉ざしてきたと…
ふつふつと怒りがわいてくる
それでもそんな感情を押さえ平静を装った
「負の影響とは?」
「代表的なものは暴動や凶悪犯罪。今の帝王になってからそれらは一切起こっていません。流石に些細ないざこざ等はありますが…」
「確かにこの20年ほどは騎士団が平和ボケしていると父さんが言っていたが…20年…?」
嫌な予感しかしない
「リアン様が誕生されてから、です。この国の平和はリアン様やスターリング家の皆様の孤独の上に成り立っていた、ということです」
「帝王はそれを認めたのか?」
発した言葉には自分でも驚くほどの怒気がこもっていた
俺のことだけならいい
今更どうこう言う気もない
だが家族までその対象となるなら話は別だ
そんなことを許せるはずがない
「帝王に面会した時に肯定されました。私が成人するまでの…国の平和のための最小限の犠牲だと…」
「アリ…シャナ…?」
そう言って再び涙を流すアリシャナに怒りを忘れ戸惑った
「許せませんでした…こんなにやさしい人たちを、こんなに傷ついてるリアン様を…国の為に傷つけても仕方ないと言い切った帝王が…!」
その声は震えていた
自分ではなく俺が、俺たち家族が傷付くことを許さないというアリシャナが愛おしくて仕方なかった
「帝王は最初から私が成人すればリアン様に嫁がせる予定だったと思います」
どういうことだ?それならば最初からアリシャナを婚約者にすれば済む話ではないのか?
それに…
「アリシャナの成人がどう関係する?」
「私たちは力の一部を封じられて生まれて来ます。先代の記憶は時を追うごとに膨大になり、幼いうちにはそれを受け止める前に気が狂ってしまうと…ただ、18になったら儀式をしなければならないと刷り込まれて育ちます」
「儀式?」
「自らの封印を解く儀式です。誰かに教わる必要もなく眠っている間に、意志とは無関係に実行されるようです。目が覚めたらそのことも全て記憶となり理解していました。そしてその時に知りました。祝福の封印を解くための条件と、その条件を揃えるための力を得たことを」
「条件…伴侶と決めた相手と魔力を交換することが出来ればというやつか?」
最初に来た時にアリシャナはそう言っていたはずだ
「違う…のか?」
黙ってしまったアリシャナに言いしれない不安が沸き上がる
「…大筋はその通りです。ただ、魔力交換するためにはリアン様が祝福を受け入れる意思と、カギとなる言葉が必要なんです。その言葉を引き出すための力を使うことを帝王は望んでいました」
過去形でアリシャナはそう言った
カギとなる言葉を明かさないのも理由があるようにしか取れない
「断ったということか?そのために何かを約束したということか?」
「私が国を守るために力を使うことでリアン様にはもう誰も仕向けないと誓っていただきました」
その言葉に帝王の残した言葉をかけ合わせれば勝手に様々なことが浮かんでくる
情報をつなぎ合わせて真実を読み解くのは得意分野だ
「俺の淀みを浄化するだけでなく…この国の負の影響を…?だから体調が…?」
答えにたどり着いてしまった俺に一瞬目を見開きアリシャナは俯き目を閉じた
「教えてくれアリシャナ。俺の力が解放されたら何が起こるのか。何が出来るのか」
「…」
「アリシャナ?」
「…リアン様がいるだけで負の影響が浄化されます。豊かさも、天候もリアン様の望む通りに操ることが出来てしまう。助けたいと思ったものを助け、守りたいと思ったものを守ることも、もちろんその逆も…でもそれを知ったら周囲の人は最初は感謝しても、徐々にリアン様を利用しようとするでしょう」
ただの便利な道具として利用されると言いたいのだろうか
「今以上の孤独を味わうことになるかもしれません。実際過去にはそれで苦しんだ方もおられます」
アリシャナが俺に隠したかったのはその部分だったのだと嫌でもわかる
だからこそ祝福の封印を解くことが出来ると言ったわりにそれを勧めてくることはなかったのだろう
俺は何も気づけないままアリシャナに守られていたということか
そう思うと自分の無力さに苛立ちを覚えずにいられなかった
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