14.焦り(side:帝王)
超鑑定というスキルを持つ我はここ数日焦りを持っていた
町中での小さな小競り合いの報告を数件受けたことが発端だった
「帝王、今朝商店街で強盗が起きました」
「強盗?」
「はい。帝王の指示で騎士団が巡回していたため大事には至らなかったようですが…」
ハンスはそう言って書類を渡す
我はその書類に目を通し顔をしかめた
「ちょっと出かけてくる」
そう言うなりハンスの目の前から姿が消えた
転移を使いスターリング家へ訪れた帝王は半分パニックになった門番とかろうじて平静を装った執事に案内され応接室でエイドリアンを待った
少しして応接室に入ってきたエイドリアンは我の知る限り初めて表情を崩した
「そなたのそんな表情を見れるとは驚いた」
「帝王…」
エイドリアンは平静を装い向かいに座る
「一体どうなさったと?命じていただければ…」
「構わん。アリシャナの事が少し気になったのでな」
「アリシャナを?」
警戒心をにじませたエイドリアンにおや?と内心目を見張る
いつの間にやらエイドリアンがアリシャナに対する独占欲を持っていることに気付いたからだ
「そなたはアリシャナからどこまで聞いておる?」
「どこまで…とは?」
「祝福のことだ」
「!」
歪んだその顔からアリシャナが報告したのかと誤解しているのが窺える
「誤解するなよ?我はアリシャナに聞いたわけではない。我が産まれた時より授かっているスキルのおかげだ」
「スキル…」
エイドリアンはそのまま何も言わなかった
「アリシャナはまだ寝ているそうだな?」
「はい。最近少し体調がおかしいのか弱ってきているようで…」
『やはりそのせいか、だとしたらあまり時間はない』
自分の外れてほしかった予感が当たっていたことに顔を顰めた
「質問を変えよう。そなたは祝福に関して何を聞いている?」
『アリシャナが隠してることをアリシャナのいないところで告げるのは危険だ』
そう判断した上での質問だった
「…私が伴侶と決めた相手と魔力を交換することが出来れば封印された魔力が解放されると。その魔力は国を左右するほどの力だと」
「他には?」
「いえ…」
『やはり肝心なことは何も伝えていない…か…』
「アリシャナの力については?」
アリシャナの事を質問するとエイドリアンの不快に感じる心が溢れ出すのが見て取れる
それでも立場がものを言うのか答えないという選択肢は無いようだ
「私の淀んだ魔力を浄化することができると」
「そなたの淀んだ魔力を…か」
繰り返しながら大きなため息が吐く
「アリシャナはただそれを浄化をしていると?」
「はい」
頷いたエイドリアンに我の心の中は苛立ちが大きくなっていた
「アリシャナの元に案内しろ」
「は?それは…」
「否は認めん」
威圧を含んだ我の言葉に逆らえる者はこの国にはいない
スキルのせいだけに仕方がないことではあるのだが…
エイドリアンは納得いかない表情を隠しきれないままアリシャナの元に案内した
「リアン様?どうな…」
エイドリアンの背後から姿を見せた我を見てアリシャナは目を見開いた
「帝王がなぜ…?」
今さらそれを聞くか?
「久しいなアリシャナ。そなたの事だ。我が訪ねてきた理由位察しているだろう?」
むしろ察していないはずがないと言外に伝える
それを悟ったのかその表情は固い
「申し訳…ありません」
「そなたは一体何を考えている?このままではそなたの身は亡びる。それが何を意味するのか分からぬ愚か者ではないと思ったが?」
「…」
黙ったまま我を見るアリシャナの目はエイドリアンの前で何も言わないで欲しいと訴えているようだった
『それでもこのまま放置するわけにはいかない』
そこだけは我にとって譲ることの出来ない点だった
「目覚めたばかりのそなたには限界がある。今そなたが限界を迎えれば…そこに待っているのはそなたが一番望まぬことではないのか?」
アリシャナが成人してからさほど時はたっていない
今アリシャナがしてるだろうことを考えれば、限界を迎えるまで1週間もあるかどうかだと我にはわかっていた
エイドリアンはただじっと聞いていた
『この国の為にもアリシャナを失うわけにはいかない』
それは我が帝王である以上絶対の事だった
だからこそあえてエイドリアンの前で話を続けた
「そなたはこれ以上エイドリアンを傷つけたくないと申したな?本当にそう思うなら真実を全て話した上でエイドリアンに選択させるべきではないのか?」
「それは…」
エイドリアンには全てを知る権利があるアリシャナ自身嫌というほどわかっているのだろう
『もう一押しか』
できれば使いたくない一種の脅しを使うことにした
卑怯な手だということは分かっていてもこの際仕方がない
「そなたの身が滅びればそなたとの約束は無くなる。それがどういう意味かは分かるな?」
ここまでくればあとはエイドリアンの嫉妬心や独占欲が上手く運んでくれるだろう
我はそう確信しスターリング家を後にした
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