13.限界
アリシャナが嫁いでから1か月が過ぎると、浄化の影響もあり体調がすぐれない日が出てきていた
怠さと食欲不振のおかげですぐれない顔色をアリシャナは魔術で誤魔化していた
「大丈夫か?」
目を覚ますとエイドリアンが顔をのぞき込んでいた
「…おはようございます」
「もう少し寝るか?最近ずっと体調がよくないだろう?」
「大丈夫です」
アリシャナは答えながら思わず笑ってしまった
「何がおかしい?」
「リアン様は心配性だったのですね」
その言葉にエイドリアンは一瞬驚いた顔をする
「…俺も初めて知ったよ」
そう言って微笑むアリシャナに口づける
「リアン様?」
「俺はアリシャナに救われてる。この気持ちをどうやって返せばいい?」
「私は何も…」
「流石にそうじゃないことくらいは分かるよ」
「…」
帝王に面会した日から問い詰められることはなかった
でもエイドリアンなりに悩み、考えていたのだろう
その時執事がエイドリアンを呼びに来た
「…ちょっと行ってくる。ゆっくり休んでろ」
エイドリアンはそう言って準備を済ませて部屋を出た
アリシャナが嫁いできてからスターリング家の皆は使用人も含めアリシャナを気に入り大切にしていた
家族の温もりを初めて知ったというアリシャナは、日を追うごとに自然な笑みを零すようになっていた
エイドリアンはアリシャナが来てから全身のだるさが薄れることに疑問を持ちアリシャナに尋ねたことがある
その時に返ってきた答えは、これまで強すぎる魔力のよどみをエイドリアン自身の中にため込んでしまっていたからだというものだった
アリシャナはそれを浄化する力を持っているとその時に初めて知ったのだ
「どうかなさいましたか?」
一人考え込むエイドリアンに執事が尋ねる
「いや。何でもない」
そう返し応接室に入ったエイドリアンは中にいる人物を見て一瞬固まった
「そなたのそんな表情を見れるとは驚いた」
「帝王…」
エイドリアンは平静を装い向かいに座る
「一体どうなさったと?命じていただければ…」
「構わん。アリシャナの事が少し気になったのでな」
「アリシャナを?」
「そなたはアリシャナからどこまで聞いておる?」
「どこまで…とは?」
「祝福のことだ」
「!」
「誤解するなよ?我はアリシャナに聞いたわけではない。我が産まれた時より授かっているスキルのおかげだ」
「スキル…」
エイドリアンはそのまま何も言わなかった
「アリシャナはまだ寝ているそうだな?」
「はい。最近少し体調がおかしいのか弱ってきているようで…」
その答えに帝王は何かを考えている素振りを見せた
「質問を変えよう。そなたは祝福に関して何を聞いている?」
「…私が伴侶と決めた相手と魔力を交換することが出来れば封印された魔力が解放されると。その魔力は国を左右するほどの力だと」
「他には?」
「いえ…」
「アリシャナの力については?」
エイドリアンは帝王がなぜアリシャナの事を気にかけるのか理解できなかった
そしてそのことが不快であると明らかにその表情が物語っていた
「私の淀んだ魔力を浄化することができると」
「そなたの淀んだ魔力を…か」
繰り返しながら大きなため息が吐かれた
「アリシャナはただそれを浄化をしていると?」
「はい」
「アリシャナの元に案内しろ」
「は?それは…」
「否は認めん」
帝王の威圧を含んだ言葉に逆らえる者はこの国にはいない
エイドリアンは納得いかないままアリシャナの元に案内した
「リアン様?どうな…」
エイドリアンの背後から姿を見せた帝王にギョッとする
「帝王がなぜ…?」
「久しいなアリシャナ。そなたの事だ。我が訪ねてきた理由位察しているだろう?」
「申し訳…ありません」
アリシャナは自らの手を握りしめてそう言うと頭を下げる
自分の中で何か大きな葛藤があるのだと誰の目にも明らかだった
「そなたは一体何を考えている?このままではそなたの身は亡びる。それが何を意味するのか分からぬ愚か者ではないと思ったが?」
「…」
黙り込むアリシャナに帝王は続ける
「目覚めたばかりのそなたには限界がある。今そなたが限界を迎えれば…そこに待っているのはそなたが一番望まぬことではないのか?」
帝王とアリシャナの言葉をエイドリアンはただじっと聞いていた
「そなたはこれ以上エイドリアンを傷つけたくないと申したな?本当にそう思うなら真実を全て話した上でエイドリアンに選択させるべきではないのか?」
「それは…」
「そなたの身が滅びればそなたとの約束は無くなる。それがどういう意味かは分かるな?」
帝王はそこで言葉を切ると見送りはいいと言って帰ってしまい、2人残された部屋は静まり返っていた
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