第17話 執着と欲に溺れた男⑤


 ーー俺はどうすればいいんだ。


 隆二は、ベットに横になり天井を見上げていた。


 「……11……12……13」


 特に理由もなく、天井についているシミを数え出した。

 彼の心は、壊れかけていた。

 その1番の原因が、警察をクビになったからではない。

 実の信用を失う事だ。

 隆二にとって、実と言う人間は神と同レベルだ。

 推しているアイドルと、比べる事もできないぐらいに実を崇め執着している。


 ーー俺は……どうすれば……


 「すみませ〜〜ん。宅配です」


 ーーんだよ、こんな時に。俺は何も頼んじゃいねぇぞ。クソが。


 隆二は、イライラしながらも荷物を受け取りに向かった。


 「では、ここにサインをお願いします」


 「っん。これでいいだろ」


 「はい。こちら荷物です。ありがとうございました」


 配達員は、軽やかに階段を降りていった。


 ーーん?なんだこれ。ずいぶん、薄いな。本でも入っているのか?あ?俺買った記憶ないけどな。あ?これ、隣の部屋のやつだがや。あのクソッタレ、番号間違えやがったな。まぁいい、あけてやる。


 隆二は、八つ当たりついでに他人の宅配物を雑に開けた。

 まるで、心が引き裂かれているように袋は歪に破られていた。

 そして、中には一枚の色紙が入っていた。


 ーーこ、これわ!!!!!


 中にあったのは、隆二が推しているアイドルのメンバー みゆきの限定サインだった。


 ーーな、何でこんな物が!?ど、どうするこれ。かなりなレア物だぞ。い、いいよな?俺のとこに届いたんだ、アイツのミスだ。俺は悪くねぇ。クックックっ……いい気味だ。これ買うのに一体いくら金を使ったんだろうな。それなのに、隣の部屋のやつに届くなんて。気付いた時の表情を見てやりてぇな。いや?わざと聞こえるように喜ぶか?クックックっ。


 隆二は、サインの書かれた色紙を抱え天井を見上げていた。

 まるで、快楽が絶頂に達しているような至福の表情で。


 ーーもう警察はいい。俺には、そこで得た知識や伝手があるんだ。大丈夫だ、実は俺のことを捨てたりはしない。だから、これからはお金が尽きるその時まで、みゆきちゃんを推そう。それに、こんなけあれば数年は遊んで暮らせるだろうしな。


 「1.8.6.7.4.3.5.9……よし」


 隆二が開いたテンキ式ー金庫の中には、大量の紙幣が入っていた。

 ざっと見ても、5千万はくだらないであろう。

 これがいわゆる、賄賂であろう。

 もちろん、相手は 弥生 実 である事は言うまでもない。

 警察と言う看板を使い、好き放題証拠を隠滅してきたのだ、これぐらい貰っていても不思議ではない。

 だが、この金額はそれだけ闇が深い事を表しているように見える。


 ーーあぁ……いつみても、勃起がとまらねぇな……これだけで、抜けるレベルだ。あぁいかん、ムラムラしてきたな。そうだ、昨日の女の連絡先聴いてたから、また呼び出すか。


 隆二は、金庫を開いたまま電話をかけ始めた。


 『ガコッ……』


 「ん?なんだ今の音」


 隆二は、何かが当たる音なら気がつき周りを見渡した。

 金庫が開いている状態で、何かしらの音があれば、普通の人間なら異常に警戒するであろう。

 もちろん、隆二も警戒をした。

 音の聞こえた方には、机の上に置いてあった灰皿が下に落ちていた。

 タバコの灰は、落ちた衝撃で歪な形をしながら床に飛び散っていた。


 「……」


 隆二は、何か違和感を感じゆっくりと手を伸ばそうとした。

 少しずつ、ゆっくりと……


 「もしも〜し。隆二くん?」


 甲高く早口な女性の声が、スマホから鳴り響く。


 「お、お!里見か!今日は悪かったな、朝急に仕事が入ってよ。金も払わず出ちまった」


 「んん〜いいよ、いいよ!今度ご馳走してくれればさ」


 「お?そうか?なら、今日なんてどうだ?みゆきちゃんのレアグッズで見せたい物もあるし」


 「えぇーー!そうなの!?見たい見たい!いつ?いつ?」


 「そうだなぁ……」


 隆二は、自分の陰部を触りながら、頭の中でスケジュールを組み立てていた。


 ーーまずは、飯だろ?んでもって、終電ギリギリで尚且つ帰さないようにする為には……19時集合なら、行けるな。


 「それなら、19時に昨日と同じ場所でどう?」


 「おっけ〜。あ、私は、明日朝から予定があるから終電には帰るけど、大丈夫?」


 「おう!大丈夫だよ!なら、よろしく〜」


 「は〜い。じゃあまたね〜」


 ーークックック。返すわけねぇだろ。ベロベロに酔わせて、無理やりでも、連れて行ってやる。あぁ、今日1日の鬱憤が晴らせるんだ、興奮が収まらんな。


 隆二は、陰部を触り続けながら横になった。


 ーーお、そうだ。灰皿が落ちたんだったな。くそ、ダリィな。


 隆二はいやいや起き上がり、灰を集め灰皿をもとにあった場所は戻した。

 物音があった事などはすでに忘れ、里見を犯す想像を何度も繰り返しながら眠りについた。

 部屋には、隆二のいびきと床が軋む音がしていた。

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