第18話 執着と欲に溺れた男⑥




 アラームの音が部屋に響き渡る。


 「んぁ〜……もう、18時か……準備していくか」


 隆二は、トボトボ歩きながら外へ出て行った。


 ーーよし……出ていったぞ!


 「ぶふぁぁぁあ!!」


 俺は、着ていたカッパをすぐに脱いだ。


 「はぁ……やばかった。これめちゃくちゃキッツイな!」


 俺の身体からは、サウナスーツを着ていてもおかしくないほどの汗が噴き出ていた。

 それもそうだ、隆二がこの家に入ったと同時に家に入ってから数時間経っているんだ。

 汗をかいてても仕方がない。

 今後は、どうするか考えとかないと、脱水で倒れる。

 そんなことした日には、俺の人生終わるな。


 「はぁ……はぁ……これは地獄だな。ささ、それじゃあ始めますか」


 俺はすぐに準備に取り掛かった。


 何をするかって?もちろん、金庫荒らしだよ。

 あいつが、正確な番号を教えてくれたから何の苦労もなく開ける事ができる。

 どれどれまずわ……


 「……よし。空いたな」


 ……何度見ても恐ろしい程の金だな。

 え?盗むのかって?するわけないでしょ。

 腐っても警察だったんだ。判別は弁えてるつもりだよ。

 じゃあ、開いてどうするかって?

 ふふ……プランはこうだ。


 その1

  社会的地位の喪失。

 これは思っていたより簡単だったな。

 まぁ、あいつが確認しなかったのが功を成したな。


 その2

 これはもう分かるよね?

 みゆきのサインだ。

 当然、みゆきのサインが書いてある色紙は、俺が仕組んだものだ。

 サインは?偽物に決まっているだろ。みゆきちゃんに書いてもらったのをコピーしただけだよ。

 え?それは、犯罪じゃないのかって?

 お金貰ってないからいいんだよ。

 そもそも、なぜこんな事をしたかと言うと、悪い事の後には良いことがある。だよ。

 どん底に落ちている人間を、さらに落とそうとするのは意外と難しいんだよね。

 なら、無理やりにでも少しだけあげてやれば良い。

 そうすれば、何度も何度も何度も何度も落とすことができるからね。


 その3 

 それは今やっている金庫荒らしだ。

 そうそう、さっきの続きだな。

 金庫を開けてどうしたいかと言うと、暗証番号の変更だ。

 実は、テンキー式の金庫は簡単に相性番号が変更できる。

 それこそ、やり方なんてネットで調べればすぐに出てくるほど。

 もちろん、その為に暗証番号を押して開く必要があるんだけどね。


 そもそも最初のプランに、こんな事は入れてなかった。

 あいつの部屋に来たのも、大切にしているものや秘密にしている物を探し出そうとして居ただけなんだよ。

 先も言ったが、簡単にどん底へ落ちてもらう気なんて無い。

 大きな絶望を与えた後に、希望を与えその後も同じ事を繰り返し、最後に地に落とすつもりだ。

 だったのだが、運の悪いことに隆二は命の次に大切にしているであろう金庫を俺の前で開けてしまった。

 そんな物を見てしまったんだ、当たり前だが俺は利用させてもらう。


 まっ!とは言っても、今日はここまでだ。


 本当は、部屋の中にカメラをつけたいが隆二も腐っても警察だ。

 金庫の鍵が開かなければ、全てを疑い部屋中を漁りまくるであろう。

 その為に用意したのがこのボイスレコーダーだ。

 それをどこに置くとかと言うと……金庫の中だ。

 開けられたらまずいんじゃないかって?

 大丈夫だよ。きっと開けることは出来ないから。

 それも、きっと録音されてると思うよ。


 もちろん、まだまだ準備はしたいが、瑠衣さんには買い物に行くとだけ言って出てきてしまったから、流石に帰らないとまずい。

 なんせ、家を出てから4時間は経っているし、携帯電話も駅内にあるロッカーの中だ。

 恐ろしい程の着信がないかが不安だ。

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