第11話 最後の役者
「初めまして、メイメルのメンバーみゆきです」
達也の目の前には、先ほどまで止まぬ歓声を浴び、舞台で歌いそして踊っていた女性が握手をするために手を差し出していた。
本来であれば、この差し出された手をたった1回握るのに、多額のお金と時間をかけるファンがいる程有名な女性が、何の押味もなく出された事に達也は少し優越感に浸っていた。
「あ、はい!初めまして、天野 達也と言います。その、はい、握手です」
先ほど復讐相手をたまたま見つけ、殺気立っていたとは思えないほどにやけた顔をしていた。
が、顔が整っている為、第三者からは少し照れているようにも見えた。
「あはは。達也さんの手はとても暑いですね」
みゆきは、優しく達也の手を握っている。
みゆきの手は達也よりも一回り小さく、強く握って仕舞えば折れてしまいそうになる程、細く優しかった。
「あ、あ、ありがとうございます!」
「あら?顔が赤いですよ?うふふ。女性は苦手ですか?」
口元に手をやり微笑む、みゆきの純粋無垢な笑顔にニヤケが止まらない達也だった。
「あはは……実はその通りで……」
「うふふ。とても、良いと思いますよ。今のご時世、純粋潔白な方は人気が出ますからね」
「あはは、ありがとうございます」
「はい!挨拶は終わり!2人とも、せっかくだからお食事にしましょう!」
瑠衣は、手を叩きオーダーをし始めた。
その量は、3人でも食べられるのかと言うぐらいの量が達也たちのテーブルに並べられていた。
「あの……瑠衣さん。た、頼みすぎじゃないです?」
「ん?食べるのは私じゃないわよ。彼女よ」
「え?みゆきさん……が……」
達也の視線の先には、アイドルとはかけ離れた姿のみゆきがいた。
「バグ……ハム……ガブ!」
みゆきは、並べられたおかずを次々と皿に取り、息をする間も無く口に運んでる。
しかし、どことなく品が……あるわけもなく、右手には箸で春巻きを掴み、左手には骨つき肉を持っていた。
春巻きを一口、優しさや品もなく勢いよくかぶりつくとすぐさま飲み込み、左手に持つ肉を頬張った。
それで終わりかと思いきや、喉に詰まった肉を流すため、ワカメスープを右手に持ち飲み始めた。
ーーす、すごい。なんて子だ……少年漫画の主人公みたいな食べっぷりだな。大食い選手権を見ているだけで、お腹が膨れてくる謎の現象が起きてきたな。
「ング!……ハム……ガブ?ふぃふぁふぁんふぉたふぇないんでふ?」
ーーたぶん、皆さんも食べないんです?って言いたいんだろうな。
「あ、僕も食べますよ。なら、春巻きを……」
達也は、空気を読み一つだけ余っていた、春巻きに手を伸ばすと殺意を向けられているのに気づいた。
「ング……うぅ……」
みゆきは、頬をパンパンにしながら達也に威嚇をしている。
ーーこれは、食べるなと言うことだな。まるで犬だな……食事中に餌に手を伸ばすと唸るあれだ。ただ、ちょっと可愛いな。
「あはは、ならこれにしようかな」
隣にあったエビチリに手を伸ばすと、可愛い犬はニンマリ笑っていた。
その後も特に会話など無く、無我夢中で食べ続ける彼女をおかずにして、何事もなく食事は終わった。
「ぐふ……ふぅ〜たべた」
みゆきは、天を仰ぎながら息を整えている。
ーーうん。なんか。うん。そうか、これがアイドルか。
達也は、目の前で変貌している彼女を見ながら、理想と現実は違うんだな。っと、再確認した。
「アイドルって凄いですね……」
「!?」
思わず口から出た一言に、みさきの殺意がまた向けられた。
「あ、僕何か変なこと言いました?」
達也が恐る恐る質問すると……
「……絶対に口外しないでくださいよ!LINE、Twitter、Instagram、Facebook等、全部ですよ!じゃないと私、嫌われちゃいます」
「あはは……はい。絶対に口外しません。それに、秘密を知ってるって特別感があるので、バラすなんて勿体無いない事しないですよ !!」
達也は、純粋無垢な笑顔で笑っていた。
……これで、全ての役者は揃いました。
この人達は、達也が復讐をする上で、利用される利用する人達です。
達也と言われる男は純粋です。
それこそ、命令があれば喜んで人々を守る肉塊になれる程の強い正義を持っています。
警察と言う、人々から求められている正義に命をかけているのだ、人々にとって悪い人のはずがない。
しかし、その強い正義感が復讐に変わってしまった……
では、最後はこの『正義』について語ろうとしましょうか。
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