◆性欲<食欲
「ひゃーくう!はぁはぁ。お、終わった」
肩で息をしながら両手を膝についた
オレも疲れている。主に目が。
だが、これを李奈に悟らせるわけにはいかない。
「お疲れ!どうだ。勃ちそうか?」
「息切れしすぎてそれどころじゃないッ!」
それが狙いだからな。
「はぁはぁ。やってみて気づいたことが一つあるの」
「なんだ言ってみろ」
「心拍数が上がりすぎて診察を受けられないってこと!」
「あー」
そこまでは考えていなかった。
「『あー』じゃない。聴診器あてられて心拍数が乱れていたら心配されるでしょ」
心配されるね。
不整脈が疑われる可能性もある。
「『深呼吸してくださいねー』とか言われるから!」
「白衣恐怖症と診断されたらいけるんじゃないか」
「い・け・な・い。この案はなし!」
なしか。結構自信があったんだけどな。残念だ。
というか李奈、声大きくないか?
「なんでそんなテンションが上がっているんだ?キャラじゃないだろ」
「心拍数が上がるとテンションも上がるの。
「遠慮しておきます」
オレがこれ以上疲れても意味ないからな。
「それじゃあ次の案は痛みで気を紛らわす」
間髪入れずに次のアイデアを投下する。
「却下」
即答⁉
「痛いのは嫌いだから」
さいですか。
「次!」
「ふんどしをまく」
「持ってないし。着けかたも知らない。却下」
男であるオレですら持っていないし着けかたも知らないんだ。李奈が知っているはずもないか。
残念。ふんどし姿の李奈、少しみたかった。
「次はまじめな案だ」
「今までのはまじめじゃなかったの?」
否定はできない。ふんどしの案は完全に欲望だったし。
「実はさっきの腿上げはこの案の伏線だったんだ」
「伏線?なんだか期待できそう!」
よろしいならばその期待に応えようじゃないか。
「人は二つ以上の欲を重ねることは出来ない」
「欲を重ねる?」
「この場合の欲は生理現象の欲な。生理的欲求」
生理的欲求とは食欲、睡眠欲、性欲などの生きていく上では必要な欲のこと。
「李奈にも経験はあるはずだ。例えば睡眠欲と食欲は同時に来ない。昨日何も食べていなくて空腹だったとしよう。だが、一度眠いと思ってしまえば食欲より睡眠欲の方が勝ってしまう。これにより食事より睡眠を優先させてしまう」
「確かに身に覚えはあるかも」
「有名な話ではタクシードライバーは眠くなるとエロいことを考えて眠気を吹き飛ばすらしい」
「どの界隈で有名な話なのよ」
……運送業界とかで有名な話だと思う。
決してエロ界隈で有名な話とかではないはずだ。
「つまり睡眠欲は食欲に勝って、性欲は睡眠欲に勝つってこと?」
「そのとおり!もしその法則が正しいのなら、食欲は性欲に勝てるということになる」
そんなジャンケンみたいな都合よいシステムが存在すればの話ではあるが。
「いまいち納得できないけれど試してみる価値はありそうね」
「よし!では腿上げ百回―――」
「ちょっと待って!」
スタートの合図を始めようとすると李奈が右手で静止してきた。
「え?なに?」
なぜ止められたのか分からない。お腹を空かせたいんじゃないのか?
「悠聖は朝ごはん食べてきた?」
「軽くなら食べてきた」
今朝の朝食は食パン一枚に目玉焼きとソーセージにサラダ。食べ盛りの中学生にしては少ない方だと思う。
「何時に食べてきた?」
「朝六時」
時間まで訊いてきていったい何のつもりだよ。
「つまり今はちょうど小腹が空いている時間じゃない」
「朝食から結構時間がたったしお昼も近いからな」
「私で試す前に悠聖で試させて」
グイっと距離を詰めてきて荒い息でそんな提案をしてきた。
「なんでだよ?お腹を空かせたいのは李奈の方だろ?」
オレがやっても意味がない。
「私はまだこの法則に懐疑的なの。それにわたしの場合は食欲より疲れが先に来ると思うから」
李奈の言おうとしていることはわかる。
運動後すぐにお腹が空くとは限らない。運動直後は気持ち悪くて何も口にできない人もいるからな。少し時間を置いた方が食欲がわく場合もある。
特に体力がない人に多い症状だろう。
逆を言えば体力のある人間が適度な運動をすれば運動後すぐにでも食欲がわくということになる。
ここには李奈より体力があって、小腹を空かせた男が一人。この男なら運動後すぐにでもお腹が空くだろう。
試すにはちょうどいいサンプルがいるわけだ。
「なるほど。わかった。自分で唱えた法則だしな。試してやるよ!証明してやるよ!」
「よし!では腿上げ百回始め!」
李奈は満面の笑みで右手を高く上げてスタートの合図とともに振り下ろす。
それと同時にオレは腿を天高く上げた。
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