◆流されてもいいんだよ

 オレたちの通う中学校は学年が上がるごとに教室も階層を上がっていく。

 一年生は一階。二年生は二階。そして我らが三年生は最上階の三階である。

 年を重ねるごとに上に行き眺めがよくなるのはいいことだが、その分階段の段数が増えるのは考えものだ。

 オレたちは若いからどうってことはないが先生方は大変だろう。

 特にうちには年配の先生が多くいる。彼らには毎日の階段往復が苦行というものもいるだろう。

 そんな先生方の為に作られた秘密のエレベーターがあるとかないとか噂になっていたな。

 今度探してみようかな。

 そんなどうでもいいことを考えているとあっという間に三階までたどり着いた。


 四人そろって教室の扉を開こうとすると中から騒がしい声が聞こえてくる。

「なんか騒がしくない?」

 耳を澄ませるように教室内の異変を敏感に探ろうとする美波みなみ

「確かに少し騒がしいが新学期なんてこんなもんだろう」

 ヌエはあまり興味を持っていないのかどうでもいい感じだ。

「騒がしいのは私たちのクラスみたいだね」

 李奈りなの言う通り音の発生源はオレたちのクラス三年B組。

「とりあえず入ってみようか」

 入ってみないことには中の様子はわからない。

 もしかしたら緊急事態かもしれないしな。

 そういってオレはスライド式のドアを開けると、中では教壇を囲んでクラスメイト達が盛り上がっていた。


「まじかよー。委員長。信じらんねぇ」

「手がはえー」

「何があったんだ?」

 教壇で大騒ぎしているクラスメイトに声をかけてみる。

「いやそれがさ。委員長が下級生に手を出したらしい」

 どうやらクラス委員長が下級生に対して毒牙をふるったらしい。

「人は見かけによらないね」

 後から入ってきた美波が意外そうにつぶやく。

「まったくだ。まさかあいつが年下に手を出すなんて同じ武術家として解せん」

 同じ武術家であるヌエには何か思うところだあるのだろうか。

 だが、俺の知る限り委員長はそんなナンパ男じゃない。

 尾道進おのみちすすみ。身長190㎝の大男。柔道部所属のクラス委員長。

 髪型は坊主頭でザ・柔道部という表現がよく似合う男。

 コミュ力が高く。クラスの人気者だ。

 ちなみにクラス委員長は二年生時のものである。たぶん今年もクラス委員長になるだろう。

 そんな男がまさか付き合いだすとはてっきり柔道一筋だと思っていた。

 やることはやってるんだな。

「あいつはオレと同じでモテないと思っていたのに」

 先ほどオレたちの質問に答えてくれて現在進行形でショックを受けているのが神田川薫かんだがわかおる

 野球部エースのおしゃれ坊主。

 横暴な性格だが頼み事は断らないため男子生徒には人気はあるが、女子生徒からの評判はいまいちの男。

「でも、別に私たちの年代で恋人ができるのは珍しいことじゃないと思うよ」

 三人より遅れて入ってきた李奈の言う通り中学生で恋人を作るのは別に珍しいことじゃない。

 その証拠にオレと李奈は恋人同士だし。

「その証拠に私と悠聖ゆうせいは恋人同士だし」

 そうそうオレと李奈は恋人同士だし。

 …… え?いまなんて言った?

 打ち明けたのか?つい数分前に成り行きに任せると言ったばかりなのに打ち明けたのか?

 これじゃあ任せたのは成り行きじゃなくて流れじゃねえか!

 突然のカミングアウトに呆然としているクラスメイトをよそに李奈はいきなりオレの腕に抱きついてきた。

 まるで自分のものであるということを主張するかのように。

「私たち付き合いだしたの!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえーー」

 先ほどの騒々しさよりはるかにパワーアップした声量が教室中に響き渡る。

 いや、もしかしたら学校中に響いたかもしれない。

 突然の告白に誰よりも驚いているオレに対して満面の笑みの李奈は耳元に近づき。

「流されてもいいんだよ」

 そんなことを可愛く言ってきた。

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