◆食べごろのリンゴのような
ここからどんなうれし恥ずかし体験がまっているのだろうか?
おっとまた変なことを考えるところだった。あぶないあぶない。
考えると言えばさっきの李奈は何を観察して何を考えていたのだろうか?
気にはなるけど、とりあえず今はそんなことを考えている場合じゃないリビングの修復の方が重要だ。二人に任せたとはいえ任せっきりは良くない。
ここは李奈を置いてさっさと戻ろう。
「それじゃあ李奈。タオルはここにあるのを使ってくれ。服はそこに置いておいてくれ染み抜きはやっておく」
「
小首をかしげながら、優しくたしなめてくれた。
「はい、できません。かっこつけました」
「いいよ。私がやっておくから悠聖も服脱いで」
「自分のことは自分でやるからいいよ」
「いいから脱ぎなさい」
もはやお母さんだな。
「はい、脱ぎます。でも、恥ずかしいので自分の部屋で着替えてきますね」
廊下に出ようと脱衣所の扉に手を掛けようとすると、その手を李奈が後ろからつかんでくる。
背中越しに李奈の体温を感じる。
「…… 李奈!」
いきなりの行動に心臓が跳ね上がる。
ど、どうしたんだ⁉
オレを部屋に行かせたくない理由でもあるのか?
そんな理由はないと思うが。それとも染み抜きは時間との勝負だから急いで脱げということか。
「…… 一緒に入らない」
「……はい?」
いまなんて言った。聞き間違いじゃないならこんなにうれしいことはない提案だ。
だけど、リビングに友達二人を残して一緒にお風呂に入るのは普段の李奈からしたら想像もできない考えだ。
おかしいと思い肩越しに振り返ると。
「一緒に入って下さい」
今度はか細いながらも芯の強い声で言ってきた。
上目遣いで見上げてきたその顔は食べごろのリンゴのように赤かった。
だが、その目は何かを決心したかのように力強いまなざしを向けている。
李奈が何を決意したかは知らないが、女の子にここまで言わせて断るなんて男じゃない。
オレは扉の方に向き直り、李奈からは顔を決して見えないように角度を調節して自分の素直な気持ちを口にする。
「…… オレも…… 李奈と一緒に…… 風呂に入りたい」
顔を真っ赤にしながら、たどたどしい恥ずかしさいっぱいの返事をしてしまった。
本当はもっとこうクールでスマートな返事をしたかった。
せっかく李奈から見えないようにしたのに耳まで赤くなったのなら意味がないな。
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