10話.[優しさじゃない]

「なにもできないまま終わるのは可哀想だと思ったんだよ」

「それは優しさじゃない」

「仮にあの好意が私に向けられていても?」

「ああ、同じだ」


 あれはよくないことだった。

 だから攻撃をしたことを後悔はしていない。

 でも、いいことではないから自分にも同じようにしておいた。


「あ、哀れんだとかそういうことじゃないんだよ、私だったらなにもできずに終わるのは嫌だって――」

「もうこの話は終わりにしよう」

「あ、うん……」


 風遊には悪いことをした。

 だが、今度会ったときに謝罪をするというのも……。


「はい、チョコでも食べてくれ」

「なんでチョコ?」

「あれから気に入っているんだ」


 友達といるときにではなく自分のためだけに使ってしまっているから自分が決めたことを破っていることになるが、こういうときには甘い食べ物というのは有効だ。


「あむ、お、優しい甘さだ」

「だろ?」

「風遊には悪いことをしちゃったな……」


 どう反応するかを考えている間に「次に会ったら謝るっ」と本人が終わらせてくれて助かった。

 で、結局俺がふたりのためにできたことがないということがよく分かってヘコむことになったが。


「しかも裏ではくっついているって最低だよね」

「え、まだ続けるのか……」

「あ、うーん……」

「も、もう終わりにしよう」

「そ、そうだね」


 学校に残っているからこんなことになる。

 今日も彼女の家まで運んでしまうことにしよう。

 何気に運動になるという点もいいことだった。


「……やっぱり抱きしめられるのはお父さんと私だけがいいかな」

「ああ」


 付き合えている限りは俺もその方がいい。

 父に抱きしめられたらなにか悪いことが起きそうで嫌だが。

 いやだってほら、普段は全くそんなことをしないからさ。


「本当に馬鹿なことをしたよ」

「はは、もう終わりだろ?」

「うん、今度こそ本当に終わり」


 走っていたのもあってそのタイミングで家に着いた、が、あの場所に行きたいとか言われてまた走る羽目になった。

 なんにもないのに俺も彼女もここを気に入りすぎだ。

 しかも彼女は寒いのが苦手なのに敢えてここに出てきているから面白い。


「アイス、まだ宗典と食べに行けてない」

「それなら今週の土曜日に行くか」

「行こう、あとさ」

「ん? ――え」


 彼女は離れてから笑って「あんたのそういう顔も可愛いよっ」と。

 え、いや、何故この流れでするのか……。


「私は笑顔より困った顔かなー」

「……意地悪をしないでくれ」

「はははっ、優しくではあっても叩いてきた人間にはこれでいいんだよ!」


 自業自得……ということになるのだろうか。

 まあでも、楽しそうだからいいということにしておいたのだった。

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