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02話.[何故ここにいる]

　でも、祭りにひとりだけでの来場禁止なんてルールはなくても、俺が戎谷にひとりで近づくのは禁止というルールを作った方がいい気がする。

　日曜のあれだってひとりで過ごしたいのかもしれないのに俺が来るから仕方がなく相手をしてくれているだけだろう。

　というわけで、

「なあ」

「あ、貫井君だー」

　そう、分かりやすく興味を抱いている彼女に頼むしかない。

「戎谷に興味はないか？」

「あるよ！　あるある、ある！」

「それならよかった」

　別に彼女経由で情報を知りたいというわけではない。

　俺はただ紙でもなんでもいいから戎谷にとって会話ができる相手が増えてほしいというだけなのだ。

「じゃあ――」

「なるほどね、貫井君も興味があるから戎谷さんと同性である私に協力してほしいんだね」

「え」

「まあまあ、別に恥ずかしいことではないよ、年頃の男の子が女の子に興味を持つなんて当たり前のことなんだからさ」

　い、いや、違うが……。

　俺はもう困っていてもなにもしてやれないから彼女に頼みたかったというだけの話だった。

　もちろん動いてもらうだけでは申し訳ないから俺にできることならなんでもする、俺は彼女に対してなんにも変なことを考えるような人間ではないからそういうことになる。

「ん？　うわ！？」

「あ、戎谷さんだ」

『なんのお話しをしていたんですか？』

　いまはもう放課後だ、確かにいなくなったのを確認してから彼女に話しかけたというのに何故ここにいる。

　しかも彼女は声が大きい、それだというのにいちいち聞いてくるあたりが怪しい。

「ああ、ここにいる貫井君が戎谷さんに興味を持っているらしくてさ、それは私も同じなんだーという話をしていたよ」

『私に興味を……？』

　止めなかったのは触れることができないからだ。

　というか本人がここに来てしまった時点で詰んでいる、それならせめて無様なところを見せないようにと動くのは当然だろう。

　だが、学校外でやるべきだったな、彼女であれば誘っても「いいよー」と受け入れてくれただろうに。

　ちなみに放課後に残ってくれていたのだって偶然ではない、俺が午前中の内にそうやって頼んだからだった。

「いつもそうだけど書くの早いよね」

『それより貫井さん、本当にそうなんですか？』

「あらら、ここでも私は負けるのかー」

「気にしなくていいぞ、きみは十分俺に勝っている」

　あんたともお前とも言えなくてこんな形になった、それでも世話になった存在にお前とか言ってしまうよりはいい。

「あはは、きみってなに？」

「いいだろ、それと戎谷」

『なんですか？』

「俺は戎谷に興味を持っているぞ」

　全部言い終えるとなんかすっきりした。

　現在は相棒の彼女も「そうそう、素直にならないとね」と気持ちのいい笑みを浮かべて言ってきた。

『どういうところにですか？』

「えっ！？　さ、流石にここでは……」

　そこは『そうなんですか』とか『気持ちが悪いですね』とかではないのか、どういうところがなんて聞いてくるのは意地悪すぎる。

「あー、もしかして体が目当てとか？」

「違うっ、……表情がころころ変わるところとか……だな」

「結局言っちゃってるね」

　このままだと爆発するからその前に発散をさせておこう作戦だ。

　相手のことは一切考えていないから褒められることではないが、彼女に任せて離れるからこれ以上迷惑をかけることはない。

　言い逃げみたいになって申し訳ないものの、それで許してほしかった。

「それよりきみ、戎谷のこと頼んだぞ」

「任せてっ」

　今日は寄り道をすることもなく真っ直ぐに帰宅、家に着いてからは部屋に移動してベッドに寝転んだ。

　これからどうなるのかなんて容易に想像……できない、が、俺がもやもやする毎日を過ごすことになるのは確定していた。

　でも、後悔をしているわけではないから俺らしく過ごしていくだけでしかない。

「って、上手くできるのか俺は……」

　そんなことをごちゃごちゃ考えていたら父が帰宅、飯を作ろうとしたから今日は任せておいた。

　一応いつもはこっちが作っているから勘違いしないでほしい、俺でもたまにはこういうときがあるというだけのことで。

「悪いな」

「気にしなくていい、だけど今日はどうしたんだ？」

「とある女子に興味があるとぶつけてきたんだ」

「なるほど、その感じだと拒絶されたのか」

「うーん、どうだろうな」

　それこそ連絡先だって交換していないから夜に確かめるということもできない。

　直接は無理でも携帯とかなら顔を合わせなくて済むから聞きやすかったのかもしれないが、ないから気にしても無駄だ。

　あとは俺にも意地がある、そのため、ずっとこのままでいい。

　というか離れる前に言いたかっただけで明日からは、なあ。

「まあいい、いつかまた気になる女の子が現れるさ」

「そうだといいけど」

「よし、できたから食べよう」

「運ぶよ」

　いまはあの女子がどれだけ頑張ってくれるのかにかかっている。

　自分から近づくことはしないが同じクラスというのはその点、確かめやすくてよかった。

「やっほー」

「あ、次の授業のことなんだけどさ」

「私ってほら、ブロッコリー嫌いだから」

　彼女は期待通り頑張って、くれていなかった。

　何故か今日はこっちばかりに来る、戎谷を放置してだ。

　戎谷は戎谷で積極的に自分から動く人間ではないからずっとひとりのままで。

「貫井――」

「おいきみ、なんで俺の方にばかり来るんだ」

「それは簡単だよ、戎谷さんに声をかけても反応してくれないからだね」

　声をかけても反応しないってそんなことがあるわけないだろ、俺が相手でも普通に相手をしてくれる戎谷が無視をするわけがない。

　だが、今回もまた自分が決めたことによって近づくことができないわけで。

「まあいいや、相手をしてくれるようになったら頼むぞ」

「任せて、だけどそれまでは貫井君といるよ」

「それはいいけど、他に優先したい人間はいないのか？」

　もっとも、俺は彼女が他の誰と関わっているのかを知らないが。

　でも、俺ではないから友達だって多そうだから言っているわけだ。

「いないね、私は戎谷さんにしか興味がないから」

「同性が好きなんだな」

「んー、まあ、好きだけど」

　おっと、これはなんとも言えない顔をしてくれる。

　この時点で余計なことを言ったことは確定したから謝罪をしておいた。

　ただ、上手くいっていないからこのままだと……。

「起きなよ」

「……ん？」

「早く帰って寝た方がいいよ、風邪を引くから」

「え？」

「はぁ、私と同級生なのにもう難聴なの？」

　いや、そんなことはどうでもいい、それよりもどうしてこうなってしまったのかという話だった、何故なら話しかけてきているのは戎谷だったから。

「あ、本当の私はこういう喋り方なんだよ」

「そうか、それはまあ自由だからな」

　この感じだと信用してくれているというわけではないだろうが、普通に話せるようになって嬉しかった。

　しかもこれはルールを破ってはいない、彼女から来てくれているわけだから悪いこととはならない。

「うん、あと紙に書くの面倒くさかった」

「ははは、だろうな」

「うん、それと敬語は合わなかったよ」

　夢……ではないよな、確かに目の前にいるのは戎谷本人。

　それとも寝ぼけているだけなのかと考えていたら「まだ本調子じゃなさそうだね」と彼女は少し呆れたような顔をしていた。

「帰ろ、私もいまから帰ろうとしていたところなんだ」

「おう、じゃあ荷物をまとめるわ」

　敬語キャラでいられるよりははっきり言ってくれそうだからこの方がいいが。

　嫌なら分かりやすく拒絶してくれることだろう、俺はそれを期待している。

　そう考えると敬語の時点で線を引かれていたようなものだよな。

「興味があるって言ってたけど」

「おう、嘘じゃないぞ」

　離れる前にと考えたのは事実だが、別にそこまでやけになってはいなかった。

　あれで嫌ってほしいとかそんなことを考える人間ではない。

　いいのかどうかは分からないものの、ネガティブキャラではないのだ。

「こうやって本当のところが分かっても変わらないの？」

「変わらないな、あ、もちろん相手が嫌がっていたらやめるけど」

「なるほどね」

　一緒に帰るときもいつも学校近くの場所で別れていたから今日もこれで終わりということになる。

「そうだ、連絡先を交換しようよ、日曜は毎朝一緒に過ごしているんだからさ」

「悪い、携帯はないんだ」

　言うことを聞いて契約しておけばよかった！　なんてことはない。

　何故こうしたのかは分からないが俺からしたら不自然だから、これがいつも通りの彼女なのだとしても冷静になれば意見も変わるかもしれないから。

「え？　私でも持っているけど……」

「父親しかいないからあんまり迷惑をかけたくないんだ」

「……って、そういうことを言われると反応に困る……」

「気にするな、また明日な」

　金のことだけではなく家事とかもしっかりしなければならない。

　飯を作ってからのんびり外を歩こうと決めた。

　自宅周辺を歩くだけなら冷たい風に泣かされることもないし、帰ろうと思えばすぐに帰ることができるし、なにより気分転換になる。

　明日になったら敬語キャラに戻っている、なんてことはないだろうか。

　はっきり言ってくれそうでいいだなんて考えたが、ざくざく言葉で刺されそうで怖くなってきてしまったのだ。

　もうすっかり気持ちが悪い俺から彼女を守るためではなく、怖いから自分を守るために行動となっていた。

「できたから歩く――」

「ただいまー」

　のは後にして、飯を食べることにする。

　時間が経っていないから温めなくて済むのは楽でいい。

　できたてを食べてほしいなんて考えはないからあくまで楽かどうかだ。

「大体は八時から十七時っていい会社だよな」

「土曜はよく消えるがそうかもな」

「会社の人とは飲みに行かないのか？」

「たまに行くぞ、ただ、あいつらは奥さんがいるからなー」

「なるほど」

　基本的に逆らえないということか。

　それでも厳しいばかりではないからなんか少し羨ましかった。

「な、なんだと！？　戎谷さんが自分から貫井君のところに行っているだと！？」

「来てもらうばかりだと申し訳ないですからね」

　この女子が来たときは戻すということを知っているから違和感はなかった。

　少し微妙そうな顔をしているのは敬語を使うことになっているからだろう、別に人のことが嫌いというわけではないみたいだからきっとそうだ。

「え、んー？」

「あ、失礼なので紙はやめたんですよ」

「あ、それか、戎谷さんってちょっと低めの声なんだね」

「はい、そういうことになりますね」

　ちなみに紙を使用していたのは自分の声があまり好きではないかららしい、そんなことを教えてくれた彼女にいいのかとぶつけたら嫌そうな顔をされてしまったのが先程までの話となる。

「それより貫井さんになにかご用があったあったんじゃ……」

「え、私はいつでも戎谷さん派だよ、男の子とか興味ないもん」

「は？」

　俺の席の前に立っているためどんな顔をしているのかは分からなかったが、間違いなくいい反応とは言えなかった。

　女子が相手でも、いや、女子が相手だからこそなのかもしれない。

「うぇ！？　な、なんでそんなに怖い顔を……」

「あ、すみません、何故か急に出てしまったんです」

「そ、そっか、とにかく貫井君は取らないから安心してね」

「別に私の彼氏というわけではないですよ」

　自分を守るために余計なことを言うのはやめてほしいと自分を守るために行動しすぎている自分勝手な人間はそう思った。

　ただ、彼女が素を出してくれるようになってくれたのはいいことだった、何故なら他者に動いてもらう必要が全くなくなったからだ。

　自然と来てくれるのも大きい、これがなかったらいま頃は……。

「あ、少し貫井さんとお話ししたいことがあるので」

「分かった、それじゃあまた後でね」

　彼女はこちらに聞く前に腕を掴んで歩き始めたから付いていくことにする。

　多分、言われるのは「勘違いしないでよ」とかそういうことだよな。

　それなら問題ない、いまのままなら彼女に迷惑をかけることはない。

「はあ～」

「すごいため息だな」

　あまり上手くいかない俺でもはぁぐらいなのにさ。

「敬語の私って気持ちが悪くない？」

「いや、別にそんなことはないけど」

「別に素直に感じたことを言えばいいのに」

「気持ち悪くないよ、ただ、敬語だと線を引かれているみたいで嫌だけど」

　それに嫌なら隠さずにいくしかない、本当の自分を出したぐらいで相手が離れるなら勝手に離れさせておけばいい。

「そういうもの？」

「俺的にはな」

　付き合うことは無理でもあくまで友達として仲良くやりたい――って、俺はそういうことを求めていたわけではないが。

　興味を持っているだけだ、それがたまたま異性だったというだけの話でしかない。

　無視せずに相手をしてくれるというだけで俺からしたら貴重な存在、そうしたらなるべく話せるようにって普通動くだろうよ。

「はは、じゃあいいよね、貫井にはこうしているんだからさ」

「あー、確かにそうだな」

「でしょ？　だけど私があの子にこれを見せることはあるのかな～」

　すぐに変わるだろうよ、何故ならいまのままだと俺が勘違いしてしまえるようなことになっているから、壊すために彼女はあの女子に許可をする。

「しかももう恥ずかしいところも見せてしまったからね、『は？』とか可愛くない声で言っちゃった」

「俺もは？　と聞き返すことはあるぞ」

「それがそういうのじゃないんだよね、貫井と違って難聴系じゃないし」

「いや、俺だって難聴系じゃないぞ」

　まだ病院に行かなければならない聴力というわけではない。

　体力もそこそこあるし、これからもお世話になることはほとんどないだろう。

　大体、そんなことになったら毎日頑張っている意味がなくなる。

「まあいいや、これからもこれを継続すればね」

「そうか」

「じゃ、教室に戻ろう」

　体育はないから移動が少なくて済むのはいい。

　次の授業を受けたら昼休みになるから外に行こう。

　今日はいい天気だから暖かくて気持ちがいいからな、校舎内に引きこもっておくのはもったいなさすぎる。

　そもそも弁当派でも購買派でもないということが影響していた。

「いい天気だ」

「だね」

「弁当を食べないと時間がなくなるぞ」

　付いてきたってなんのメリットもない、適当なところで適当な時間まで過ごして戻ろうとしているだけだ。

「いいじゃん別に、私がお弁当を食べたがっているならそもそもこうして付いてきていないでしょ」

「後で俺のせいにしないならいいけど」

「しないよ、そんな人間じゃないし」

　なんか別人と接しているみたいな気分になる。

　はっきり言うことを期待しているのにはっきり言わないし、中途半端すぎて不安になってくる相手だった。

　とにかく留まっていても仕方がないから前へ、考えることなんて家に帰ってからいくらでもできるからな。

「というかなんで急にやめたんだ？」

「もしかして自分が相手だからとか勘違いしちゃってる？」

「……勘違いされたくないならやめておくべきだ」

「ははは、貫井は可愛いね」

　可愛い同性なら苦労はしてないよ、同性なら近づいたってなにも問題はなかった。

「そうだね、貫井になら――」

「やめろよ、いいから歩こうぜ」

「自分から出してきたのに？」

「後悔してる、だからもう許してくれや」

　話すために出てきているわけではない、休むために出てきているのだ。

　結局いつだって自分が決めたことを誰かによって邪魔をされている。

　しかも彼女のためにしているのに本人だぞ、そのうえで揶揄なんてされたらたまったものではない。

「お、こことかどう？」

「なにがいいんだ？」

「なにがって、見れば分かるでしょ」

　両方の校舎と、上を見れば空があるというだけの場所だが。

　残念ながら察する能力は低いからちゃんと全部説明をしてほしかった。

　それが面倒くさいということなら言わなければいいし、校舎内で過ごせばいいで終わる話だった。