第8話
ハキムと連れ立ってラジャの店に行くと、中はいつもの様にごった返していて、中央のステージでは、赤い布を纏った女が、反りの強い剣を両手に持って官能的に踊っている。色とりどりランプの光がより一層店の中を騒つかせる。光の届きづらい奥の席では、賭け事でもしているのか、時折「うぉーゥ」とどよめく声が上がる。
そんな奥まった壁際の緑のランプが下がっている丸テーブルにアリが待っていて、目顔でまぁ座れよと顎で隣の席を指した。
ハキムはアリに「明日だ」と短く言い。アリも「よし」と答えて話は決まったらしい。
次の日朝、風が強くなっていく中で聞かされた計画はこうだ。
2つ先のオアシスの街まで行ってから、ナツメヤシの実を2籠買う。
多分、砂嵐に一度は出くわすはずだから、それに備えて食料や水の確保も忘れずにしてから、戻る行程を少しずつ西に逸れながら、プルイジャームの洞窟へ向かう。
その有名な大洞窟の前を横切って1キロほど行くと、岩壁の割れ目の様な道があるのでそこへ誰にも悟られずに潜り込みたいというのだ。
嵐の直前に入れたらちょうどイイんだが、とアリが愛嬌のある顔をこちらに向けてやけに重々しい声で言った。
アリはハキムの従兄弟で、腕っ節は大層強いのだが、顔が幼い。目がクリッとしていて可愛らしい。
だから、怖いもの知らずのお兄さん方によくたかられて喧嘩をする羽目になる。今のところ負け無しの武勇伝を自分から語る事もない。
「喧嘩は嫌いだ」とよくこぼすのは、出入りできなくなる店が増えるからだ。
2人が、本当は何者なのかは知らない方が良い様な気がして、敢えてそこは聞いていないのだが、こうして、人知れず奥地に連れていかれても不安にかられる事が無いのはどうした訳だろ。
ツーリストがこんな真似をしたら、誰だって
「止めろ命が惜しくないのか」そう言うだろう。
途中まで抜きつ抜かれつしていた大道芸のキャラバンは、洞窟で嵐をやり過ごす様だ。
「まだ先まで行くのか」キャラバンのしんがりを守っていた用心棒風の男が声を掛けてくる。
「あぁ、この先のトプカプンタの宮殿跡まで嵐に追いつかれない様慌てて行くさ」
空を見上げて用心棒は、「幸運を祈るよ」と手を振って遠ざかって行った。
ごうごうと空が鳴り、背後から嵐が追いかけて来るみたいだ。
僕は、気が気でなくハラハラと何度も背後を振り返る。
ハキムとアリから離れない様に手綱をお互いつなぎ合って前に進む。
ザザッと砂が頭に降ってきたその時、駱駝がおもむろに右側へ方向転換をした。
駱駝がやっと二頭通れる位の岩の隙間に入ると急に音が静かになり、痛かった砂つぶてがほぼ無くなり前を見る事が出来る。
ビバークかと思ったが、ハキム達は、ゆっくりした足取りで細く続く道を進んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます