第5話
駱駝に揺られて着いた城郭の中は、人々の生活臭で溢れていた。
人の群れをかい潜って黄土色のレンガを積んで出来た少し歪んだ感じの宿へとやって来た。おじいさんさんは、宿の人と短く会話して
駱駝を宿の前に繋ぐと、今度は徒歩でバザールに向かう。
おじいさんの後を見失わない様に懸命に歩いていると、彼方此方の商店や道端で座っている人が「ヤァ元気かい?」とか声をかけてくる。曖昧に返事をしながら、複雑な石畳の道をズンズンと進んでいく。
これは迷路だ。
目印にと角角の家を記憶しようとするが、追いつかない。いくつもの角を曲がり階段を登ったり降ったり、家と家に挟まれた間道を抜け一際大きな日干し煉瓦の家の角を曲がると、パッと開けた広場に出る。そこがバザールだった。
真ん中に大きな噴水。
噴水は三重構造のようになっていて、上から下へ流れながら用途を分けていた。
下では駱駝が水を飲んだり、洗濯をする場所もあるようだ。上では飲み水を汲み易いように、樋が何本も出ている。
オアシス。勿論知っていたけれど、水が在る、そこに水が在るということが、人をどんなに豊かにするのかを初めて実感した。水に触れているわけでも無いのに、ぷくりと細胞の一つ一つが膨らんだ感じだ。
オアシスの街は、暮れなずむ空の下声が響き人が溢れ返ってバザールの活気が一層高まっていく。
ボファ。突然鳴った空間を揺るがすようなその音の方を向くと、広場の真ん中噴水を背にして火を吐く男達。その横ではくるくるも舞う色とりどりの派手な衣装の女達。
そして背の低い大げさに口髭を生やした男が芝居ががった足取りで前に出てくると、胸から小さなラッパを出す。短くピュルルンピュルルンと懐かしい音色で、皆の注目を集めた。
「お立ち会いお立ち会い、今宵このバザールで出逢ったのも、それもまた運命。我らは東方の雪降る高原から、素晴らしき技をお見せする為にやって参った旅の一団。」
そこで今度はドォッンドォッンと太鼓が響き、シャンシャンシャン、プァープァーと鈴やラッパの音が響く。
注目が集まったのを確認した小男が、クルリと一回転して深々とお辞儀をする。
「今宵南門前の銀の月広場にて、我が一団の公演を開催させて頂きぃまぁ〜す。是非みな皆様、ご家族、お知り合いを誘い合わせてお越し下さぁ〜い。」
ドンチャカカッカ、ドンチャカカッカと、楽団が演奏するのに合わせて、宣伝する一団は去って行った。去って行き際に、ビラをバラバラと撒き散らしながら。
そのビラが僕の足元にヒラリと降って来てる。
何が始まる予感。
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