第3話

僕が、すっぽりと入ってしまいそうな海賊の宝石箱を思い起こさせるその箱に、赤いトランクから取り出した持ち重りのする鍵を差し込む。

開いたらキラキラと黄金に輝く金貨が出てくるかしらと胸を高鳴らせながら、そっと鍵を回す。いつも開け閉めをしていたのか軋む音もせず、するりと回ってカチリと乾いた音がした。


重たい蓋を持ち上げて、力任せに後ろ側に押しやるとキラリと光ったので「まさか」と呟やいて、よく見ると箱の中は何かが入っている気配がなく、空のようだ。

箱の内側に貼ってある紙か革なのかそれが、昔は金色をしていたのだろう懐中電灯の光をかざすと鈍く光る。

「なぁあんだ」やっぱり金貨がザクザクなんて有りえないよねと思いながら、もう一度背伸びをしてよく中を見てみると箱の中の手前側に縄がグルグルと巻いて縛り付けてあった。

赤い紐が引っ張ってごらんと言うようにヒラヒラと風を受け揺らめくので、つい手を伸ばしてピッと引くと、スルスルと巻いてあった縄が下へ伸びていった。

縄梯子だ。深い高さのある箱の底がよく見えない。

誰もいない部屋の中をグルリと見渡し、考える。

丸テーブルの横にオットマンがあった。

そう僕は、箱の縁を跨ぐのに丁度良い踏み台を探していたんだ。きっと。

ガッシリとした作りのオットマンを音が出ない様に、足に布を噛ませて引きずって箱の前に持って行く。

大きく息を吸ってから、オットマンに乗ってもう一度中を照らしたのに、まだ上手く底が見えない。

縄梯子が微かに揺れて箱に擦れる音が僕を誘っている様な気がして「降りてこいってことかしら」とわざと声に出して言ってみる。

目を閉じて、大きく息を吸って呼吸を整えると、またおじいさんの声が「さぁおいで」と聞こえるようたった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る