第7話 真面目に解説ミステリーの作法

ミステリー小説程、現実世界との違いを比較され、読者からのツッコミを受けるジャンルはありません。

今回は、そんなミステリー小説で、一気にリアリティを失い、読者が冷めてしまうという、序盤でよく見てしまう恐ろしいミスの一例を紹介したいと思います。


場面は、ニュースが伝える殺人事件の報道です。


「包丁で胸を刺された遺体が、被害者のマンション自室で発見され……」


このアナウンサーのセリフ、どこにリアリティの欠如があるか分かるでしょうか?


一般的に凶器が現場に残され明らかである殺人事件等の場合であっても、警察は凶器を明らかにしません。よく「刃物のようなもの」という言葉を聞くと思います。また、死因に至った刺傷の場所も発表しません。

何故発表しないかというと、自白での証拠の信憑性を高めるいわゆる「秘密の暴露」のためです。

犯人しか知りえない情報を自白することに意味があるのです。「殺ったのは私です」だけでは証拠として弱いのです。


これは余談ですが、逆に警察が凶器も明らかにしたケースが近年ありました。高千穂での一家6人殺害事件です。

警察は事件報道される早い段階で、死亡した次男が犯人であるという確証を得ていたため、犯人死亡の報より早く、凶器の発表があったのです。

ですので、少々犯罪捜査とマスコミ発表の関係を知っていれば、凶器が発表された時点で、犯人が判明している。かつ、逃亡の恐れもない。つまり、犯人は既に死亡している、と推理できるわけです。


この「秘密の暴露」を使ったミステリーの展開でよく見られるのが、最後に犯人を追い詰めるシーン。


「私はロープで首なんて絞めてないですよ。他殺じゃなくて自殺じゃないんですか?」

なんて容疑者が口を滑らせたら、

「どうして凶器がロープだと? 被害者は新聞紙を纏めていた時に絞殺されたと発表されているでしょ? マスコミも『紐のようなもので首を絞められ』と言っている。普通はビニール紐だと思いませんかね?」

なんて感じで。


と、言うわけで、例え物語上で凶器や死因を明らかにしても問題ないとしても、犯罪をニュースで扱うシーンを描く時には注意したほうが良いでしょう。

※意見には個人差があります

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