第2話

 紗世は早起きした。友人より、先に朝方に早く来た。佐伯が着席していた。紗世は怯えたが。佐伯は難しい本を読んでいた。だが、同じクラスならと思い、声をかけた。


「佐伯くんおはよう」

 と紗世は挨拶した。佐伯は挨拶し返してくれた。


「綾瀬? おはよ」


 紗世と佐伯だけになった。ふたりきりだ。紗世はは緊張した面持ちだ。相変わらず、我関とせずといった態度な佐伯だ。佐伯は紗世に顔を近づけた。紗世はびっくりした。


「……綾瀬、なに。その寝癖は」


 紗世は驚いた。

 と思わず、寝癖と紗世は自分の髪を触る。


「え? 寝癖?」


 と佐伯はクツクツと笑う。


「あはは。冗談」


 佐伯はからかっていたのか、と紗世はガクッと肩を落とした。


「俺は水虫」

「え? 嫌だなぁ」

「あはは。これも冗談」


 佐伯はからかい過ぎる性格だ。これから佐伯の言うこともほとんど冗談だなと紗世は思う。


「綾瀬」

「……え?」

「お前の友達の一人のこと」

 紗世は何の話か戸惑う。


「うん?」

「いさきだっけ?」


 いさき?聞いたことがないと紗世はますますわからなくなる。


「いさきなんて子いないけど」

 紗世はそれだと余計に分からない、と思った。


「伊織だっけ?」

「伊織? 知らないよ」

 佐伯は話をした。


「いさきとはあんま関んないほうが良いと思う。いさきは綾瀬のことを利用してるだけだと思う」


 佐伯は空を見つめて話していた。


「本当に? それも冗談じゃ」

「なら証拠に」


 スマホを見せた。紗世は手にとって見た。紗世は思う。この事件は東京にいるとき。ネットで記事を読んだことがあるような、と紗世は思い出す。


「この事件、聞いたことがある」

「俺の母親がガス爆発に巻き込まれて亡くなったの」


 紗世はハッと驚いた。そんなことがあったのか。また冗談なんだろうか、と紗世はそう思っていた。


「……ガス爆発?」

「俺が中学生の頃、授業中に連絡が入ってさ、母さんは丸焦げのまんま俺と対面した」


 紗世は絶句した。紗世は佐伯にそんな心痛な出来事があったのか、と驚いた。と同時に心に突き刺さると思った。


「お気の毒に。そのことを誰かに話した?」

「……お前だけ」



「お前も何かしら、胸の中にどす黒いもん持ってるんでしょ」


「……いい加減にしてよ」


「お前の両親は俺の母親と同じ事故だよ」

「え?」


 聞いただけで衝撃な一言だった、紗世は驚いた。それと同時に佐伯は紗世と同じ不幸の元で育ったことに気づく。


「お前の両親はガス爆発で吹き飛ばれた交通事故」

「やめてよ!」


 紗世は、はっきり話した。佐伯は驚いた様子もない。冷静だ。


「気の毒に」

「俺はお前の声を聞くと安心する」


 一瞬紗世によくわからない感情が湧き上がる。


「……なに。どういうこと?」


「綾瀬は夏祭りに行くんだっけ? 変な男に引っかからないようにな」


 なぜ知ってるのか分らない、と紗世は思う。


「お前のことは俺が見てるからね。大丈夫。大丈夫」


「綾瀬は照れくさそうな顔、かわいいね」


 佐伯は紗世の頭をぽんぽんと撫でた。机から去ってしまう。紗世は佐伯は変な人だな、と思った。


「……変な人」


 ◇◇◇


 斎藤はホームルームの時間だぞ、と声をかけた。

 生徒は静まる。


「各自、これから夏休みだ。問題を起こすなよ」

「夏休みかー。紗世ちゃん」

 と藍川がニコッと笑った。

 白石も混じって話に花が咲く。


「桜の木の下で願い事すると叶うんだってさ」

「ああ、ありがとう」

 同じクラスの武田たけだるいだった。紗世は声をかけられるのは、はじめての相手だ、と思った。


「白石! 綾瀬をちょっと借りるよ」


 なんだろうか、と紗世は思う。話を切り出した。


「良かったら、今日俺と帰らない?」

「ああ、今日は芽郁ちゃんと帰るからね」


「いいじゃん。いいじゃん。俺と帰ろーよ」


 全然、物怖じせず、引かない人だったから人集り出来た。


「綾瀬、かわいいし」

「……武田、何やってるの?」


 武田はビクッとしていた。紗世の窮地を白石が助けてくれた。


「紗世ちゃん、嫌がってるんだからやめなよ」

「つまんねー」


 と呟いてどこかへと行ってしまった。白石に尋ねた。


「武田くんは?」

「校外の不良グループとつるんでる子だよ。関わんないようね」


「明日夏祭りだから浴衣着て来てね」

「うん、分かった」


「明日の5時に猪崎いのさき神社に集合ね」

 と白石と藍川と楽しい談笑を交えて帰路につく。

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