未来

朝日屋祐

第1話

 白い埠頭の立つ岬町である。波打つ海は昔を彷彿とさせる。両親は優しくめいっぱい紗世さよを可愛がってくれた。だが、紗世は二年前に交通事故で両親を亡くした。それ以来、紗世は父方の親戚の家に預けられる。義母は紗世にかなり厳しい。紗世は毎日ほとんど勉強に時間を割いている。紗世は親のところへ行けるか、と思った。


綾瀬あやせ! 時間だぞ!」


 斎藤が先頭を立ち。歩いた。内心は怖い、と紗世は思った。また変な子が居たらどうすれば良いんだと不安な気持ちに駆られた。紗世は教室のドアを開けた。1-Cクラスの生徒が着席している。斎藤は綾瀬紗世と黒板にチョークで書いた。チョークを払って。斉藤は生徒に拍手を求めた。乾いた拍手が返ってきた。


「綾瀬?」


 生徒の視点は一挙に瓶底眼鏡の青年に集る。紗世は全くわからないまま首を傾げた。紗世はこの髪の色。ふわふわな髪。どこかで見覚えがあると思った。パーマをかけた黒髪ミディアム。色白の肌。彼は瓶底眼鏡さえなければかなり美形の顔だ。女男みたいな容姿だ。女顔のイケメンと言った感じか、紗世は思わず声をかけた。


「さ、佐伯さえきくん?」


 後ろに座っていた茶髪の青年は佐伯に尋ねた。


「え、お前ら知り合い?」

「ああ、俺の小学生の頃の同級生」

 と佐伯は答えた。


「綾瀬のこと、知ってたのか?」


 と西本吉懸が尋ねた。


「うん」


 と佐伯が返答した。

 紗世は佐伯の隣の席に腰掛けた。佐伯から香水の匂いを感じた。紗世はお洒落なんだぁ、と思った。


「よ、よろしくね」


 佐伯はペンを回しながら気だるそうに答える。


「ああ、よろしくな」


 紗世は思う。佐伯は紗世のいじめを傍観していた。紗世は佐伯はいじめっ子と同じようなもの。これから彼に期待はしていない、と思った。茶髪ミディアムのくるりんぱヘアアレンジの女の子が声をかけてくれた。


「名前、紗世ちゃんって言うの?」


 と柔らかい声だ。


「……うん」


 と紗世は答えた。


「私は白石しらいし芽郁めいって言うんだ。よろしくね」


 自己紹介をしてくれたから良い子なのかな、と紗世は思った。


「う、うん」


「紗世ちゃんは美人さんだね」


 紗世は容姿を褒められたことはなかったから驚いた。手を振り否定した。


「いやいや、そんな……。滅相もない」

 斎藤はニコニコしながらこう言った。


「綾瀬を歓迎してやれ。綾瀬は佐伯の隣だ」

 と紗世はびっくりした。


「佐伯、白石、綾瀬に仲良くしてやれよ」

 と白石と佐伯は答える。


「あっ、はい!」


「ああ、はい」


 紗世は緊張したまま。授業を終えた。夕陽を浴びた放課後になった。紗世は暫く自分の座っていた。すると白石が声をかけた。


「綾瀬さん、ハジッコぐらし好きなの?」

 と白石は尋ねる。紗世は拍子抜けをした。


「……え?」

 白石はニコニコしながらハジッコぐらしのペンケースを手に取った。


「綾瀬さんのペンケースがハジッコぐらしだったから好きなのかな?と思って」


 と紗世は間髪入れず質問に答えた。


「ああ、ハジッコぐらしは義弟が好きで」


 すると黒髪ボブの目が細めかわいい系の女の子が現れた。


「そか。あ、紗世ちゃん。この子は私の友達の藍川あいかわ瑠璃るりって言うんだ。私も瑠璃も綾瀬さんと仲良くしたいって思ってさ」

 と白石は続ける。


「……え?」


 と紗世は戸惑いながらも嬉しい様子を隠せない。紗世の頬の血色が良くなった。


「綾瀬さんのことなんて呼んだら良い?」


「紗世ってよんで」


「分かった! これから紗世ちゃんって呼ぶね」


「あ、ありがとう」


 と白石といると心が洗われる、と紗世は思った。


「佐伯とは同じ小学校だったんだね」

「うん、まあ」


「紗世ちゃん、あんな下手物好きなの?」


 と瑠璃は団扇を仰ぎながら紗世に尋ねる。


「瑠璃よくないよ、そんな言い方」

 と白石は瑠璃を制する。


「佐伯はこのクラスの不思議ちゃんなんだよね」

 と白石は消しゴムを眺め、机に置いた。確かにそう思った。不思議ちゃんのイメージはあるな、と紗世は思った。


「……不思議ちゃん?」


「特定以外の男の子とはつるまないし、いっつも教室の片隅で難しい本を読んでるから」


 と紗世は確かに佐伯はそんなイメージはつくな、と思う。


「あ、そういえば美味しいファミレスあるんだ一緒に行かない?」


 と誘われた。紗世は心躍らせた。答えようとしたらあるショートヘアの女の子が話を割って入る。


「あ、うんーー「白石さん、いま、忙しい?」

「ああ、亜矢?」


 亜矢と呼ばれた女の子は笑みを浮かべた。


「この子は同じクラスの三崎亜矢って言うんだ」

 と白石は言う。亜矢と呼ばれた女の子は笑みを浮かべた。握手を求めた。


「よろしくね」


 亜矢は紗世に握手を求めてきた。紗世は恐る恐る握手を交わす。

 だが、三崎はこの二人とは少しが違う、と思った。


「じゃあ、私は帰るね」


 亜矢は通学カバンを持ってどこかへ行ってしまった。


 ◇◇◇


 白石さんと藍川さんと紗世はファミレスでご飯を囲む。ファミレス?ちょっぴりドキドキだ、と思った。


「三崎さん優しそうだね」


 と紗世はハンバーグを切りながら切り出す。すると藍川がよくない表情で話した。


「ああ、亜矢?」

「まぁ亜矢は良い子といえば良い子なんだけどね」


 白石もそう話す。


「瑠璃。紗世ちゃん、それより、夜の星が綺麗だよ」

「星なんて東京では見たことある?」

「見たことないなぁ、星、綺麗だね」


 満天の星空の下。蝉の声がした。


「しかし、暑いねー」


「あっ、そうだ! 今度、夏祭りあるんだけど紗世ちゃんも良かったら一緒に行く?」


「え? わたしが?」

 とても嬉しい。紗世は心躍らせた。


「連絡先、教えてほしいな」

 紗世は携帯を見せた。


「あ、いいよ」

「転校してくる前は東京にいたの?」

「うん」


 きれいな空だ。紗世は写真を撮った。


「東京か。おしゃれなお店あるんだろうな」


「……まあ」

「あ、斎藤先生?」


「悪いな、俺は一人だぞ」


「先生も一緒に食べよう!」

 と白石が快活に話す。


「……斎藤先生?」

 斎藤は紗世の隣の席に腰掛けた。


「良かったな。綾瀬、友達が出来たじゃないか」

「ありがとうございます」

 と紗世は切り返す。


「好きなだけ食べるんだぞ!」

 とハンバーグ食べ放題コースだ。

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