その5 ~ハワイの謎 その2~

山中 慎太郎やまなか しんたろうは理不尽な結末を迎え、山田 花子やまだ はなこと言う少女に転生&転性した。今世では人類共通の敵エネミーが居て、微力ながら対抗組織が存在する…元の世界ではないが近しい世界であり、エネミーという異物から人類を守る組織がある世界だった。花子は人類の敵を倒す為に対抗組織「対エネミー自衛隊」に入隊の後、自らの高い肉体性能と魔法少女に変身することにより発揮する人外となったと自覚した今…半ばやけっぱちとなってはいるが自らの生活と母親を守る為に頑張ることとなる。そして…ダブルTS少女から魔法少女にクラスチェンジした山中慎太郎…否、山田花子は…本人の意思を他所に何処の誰かもわからない意図に依り、本人が気付かない内に身体を張った実験をさせられるのであった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 召喚! -


腰を屈め、いつでも反応できるように戦闘態勢に入る花子。右腕には聖剣を持ち、いつでも動かせるように油断なく構えていたが…


「そんな物騒な物で斬られては困る…だから、ね?」


びゅっ!


…花子をあからさまに見下した声がそういうと、床が形状変化して飛び出し…


びしゅっ!


「ぐあああああっ!?」


花子へと突撃して右手首より手前から雑に斬り飛ばしていた!…単にぶつかっていれば右腕が上に跳ね飛ばす程度だが…斬り飛ばす程だったのだ。恐ろしい威力ということがわかるだろう!


がららぁ~んっ!


べちゃっ…


聖剣が先に落ちて派手な音を立て、聖剣を掴んでいた右手首が落ち、濡れた音を立てて床に転がる…


「がっ!…う゛っ!…あ゛あ゛あ゛あ゛………!!」


七転八倒の勢いで転がりまくる花子。傍目には余りの痛みに転げ回ってると目に映るだろう。


「ふっ…魔法少女とはいえ、大したことはないな?」


「痛みも抑制できない、唯の小娘か…」


と悪態を突く謎の声たち。こちらを見下し、やれやれと期待外れだったという言葉が聞こえた瞬間、


(…今だ)


花子は素早く己の右手首を取ると素早く右腕に付け…治癒魔法を行使する。瞬時に完全回復は無理だが、取り敢えずグッパグッパと動く程度には神経を繋げて動くことを確認する。


「「…なっ!?」」


驚く声を他所よそに…聖剣を取り寄せアポートし、花子はガラスの壁に急ぎ駆け寄ってから斬り飛ばして大空…ではなく、闇の靄の漂う空間へと…ガラス状の壁を蹴って跳んだ!


「吸収!…そして、来い!」


目前に在るのは…唯々闇の靄が広がる、オアフ島の中心地にできていた謎の火山ぽい代物の…地下空間だ。


だが…吸収の掛け声で闇の靄は集まり…一定以上の漆黒の球体に育ったそれ・・に…変化が生じる。男の子なら誰もが一度はあこがれるだろう…巨大ロボットだ!(但し、色は漆黒一色で、瞳に当たる部分だけが血の色のような赤一色に染まっていた)


「搭乗…」


赤い光が花子目掛けて照射され…トラクタービームのように引き寄せる。花子は漆黒の巨大ロボに取り込まれ…その場には漆黒の闇が未だ渦巻く広大な地下空間と天井からぶら下がっている人工建造物…そして漆黒の召喚?された巨大ロボだけが残されていた…



- コクピット?内部 -


「おほっ…やっぱ異世界とくれば巨大ロボットだよな!」


いや、それはジャンルとしてはどうだろうか?…確かに異世界という世界ならば何があってもおかしくはないが…だが、敵方エネミーだけに有利というのもおかしいといえばおかしいのだ。人類側に現れた唯一の力…魔法少女という個に、戦う力が認められ…更にそれをサポートする小道具があってもおかしくはないだろう…


「えっと…こいつの動かし方は…んん?これはヘルメットか…被ってみるか…」


花子の頭にすっぽりと包まれたそれは、オートフィットの魔法でも掛かっていたようにサイズ調整がされる。


「うお!…びっくりした。あ~…このボタンを押すと外れるのか」


ぽちっと右耳辺りにあるボタンを押すと、


カチッ


との音と共にヘルメットが僅かに緩み、スポンと除装できた。どうやらヘルメットの上面が緩くなって外れるようだ。花子は再び装着し、あちこちを見回していると…


「お?おお?…これは…」


どうやらヘルメットから…この漆黒の巨大ロボの動かし方が流れ込んでいるようだ。先程、ヘルメットの除装方法が自然にできたのも、この学習装置?の恩恵のようだ。花子は暫く流れ込む情報に任せ、巨大ロボの学習を続行するのだった…そして


「レーダーはこれか」


ぽちっとスイッチを入れる。レーダーはオフの間は働いておらず、オンにして初めて稼働するようだ。そしてそれは思考により弱い短距離索敵モードと、強い戦闘遠距離モードを切り替えられるようだ。現在は周辺1km程を索敵する短距離モードのようで、この広大な地下空間全てを索敵はできてないらしい。


「遠距離モードに…む?」


戦闘用の遠距離モードに変わった途端、地下空間の果て…要は壁に当たる所に強いエネルギーを感じた。


「これは…砲塔か?」


そちらに頭部を向けて拡大する。光は一切ない為に光学観測モードから赤外線観測モードへ…


「なっ!?…不味い?…こちらを狙っている、のかっ!?」


花子は慌ててバリアが無いか検索し…主にエネルギー弾などを弾き飛ばす光学バリアを張る。そしてその直後…四方八方からエネルギー弾が飛来し…巨大ロボに殺到して被弾の轟音が轟く!


ごごぉぉぉ…んっっっ!!

ごごごぉぉ…んっっ!!!


凡そ2秒間、エネルギー弾が殺到したと思ったら、唐突に攻撃が止む。実体弾ではない為、爆煙などは発生しなかったが膨大な熱量で陽炎のように空気が歪んでいる…暫くの間、エネルギー弾の影響で明るかったがやがて熱も光量も落ちて行き…再び辺りは漆黒の闇へと閉ざされる。


〈パイロット「花子」へご挨拶を申し上げます〉


いきなりの声に、


びくっ!?


…と身震いする花子。


「へ?…なに?…今の、声は!?」


ハスキーな17歳の少女の声が若干震えた声を上げる。未知に対する恐怖ではあるが…この場合は何処かに隠れているだろう知らない者へ対する威嚇も含んでいるのだが…大して威嚇できているとは思えなかったw


〈失礼致しました。ミス・花子。現時刻を以て、ミス・花子の生体情報の収集と確認、並びに当方の機体「」に搭乗する資格ありと判断しました〉


(「」?…名前が無いってこと?)


この機体のナビだかAIだかわからないが、花子は伝えられる言葉を無言で聞き、理解に努める。


〈つきましては…名付けと血の契約を以て…主従の契約を成したいと思います〉


(矢張り…名が無いのか…名付けはテイマーっぽいなぁ。んでもって血の契約って悪魔か何かの契約っぽいけど…大丈夫かな?)


実はノリと勢いで「来い!」なんて怒鳴ってたんだけど…何が来るかなんて考えてなかったし、この場でお助け何とかが来てくれたら…と思っただけなんだけど。


(まさか、搭乗可能なお助け巨大ロボが…しかも契約しないと乗れないのが来るとか思わなかったよぉ~…どうしよ?)


実際にはコクピットらしき所には乗れてしまっているのだが、それは取り敢えず横に置いといて…


「質問があるんだけど、いいかな?」


〈どうぞ、何なりと…〉


という訳で、FAQの場へと移行するのだった!



- 外は熱々、中は影響無し、なぁ~んだ!? -


「契約すると、俺に何か悪影響はあるか?」


〈特には無いと思います。寧ろ、召喚して貰えれば闇の靄ダークマターの吸収能力が向上してお役に立てますよ?…後、僭越せんえつですが、一人称は「俺」じゃなくて「私」か「あたし」の方がいいと思いますよ?〉


(闇の靄の吸収能力が上がるのか…って、あれってダークマターっていうんだ。つか、一人称くらい別に好きにさせろよ…つか、異性にモテようなんて思ってないしな…元同性に媚び売るなんて、鳥肌が立つっての…おお、ブツブツが…)


巨大ロボは浮遊しながら闇の靄を…ダークマターを、花子の吸収能力の1/4程度の吸引力で徐々に吸いつつ…バリアを維持していた。浮遊能力は飛行能力をゼロに近い消費で維持しているらしく、バリアに依り直撃していない間はピクリとも動かないで済んでいるようだ。恐らく、全速で移動しても余り消費はしないのだろう…


「次だ。名付けっていうことは、この巨大ロボは名無しなのか?」


〈元々付いてなかった訳ですが…現在ということであれば、Yesということになります。ミス・花子は「巨大ロボ」と当機体を呼称してますが、それが名付けの名…ということで宜しいですか?〉


「あ、いや…機体名ではなく、一般的に呼ぶ機種名みたいなもんだな。空飛ぶ機械を「飛行機」と呼ぶみたいな」


〈…了解致しました。当機体の機種名と致しましては、「召喚型無機質外装・有知性生命体搭乗型・人型戦闘ゴーレム」となります〉


(うわ…長い名前…つか、該当する名前全部くっつけたような…)


センスの欠片も無い機種名にうんざりする花子。つか、「型」が3つ付いてる時点で余り名付けに関して気を回してないんだろうな…と思うと、当の機体本人?と、ナビにも同情を禁じえなかった…


〈ですので、わたくしは敢えて「黒壱号ブラック」と…許されてはおりませんが心の中で名乗っていました〉


ん?…そういえば「来い!」と呼んで召喚された…ということは、このダークマター闇の靄を消費してその場で生成された…のではなく、何処か…別の場所に存在していたが此処に…現れ召喚されたってことか?


「ちょっといいか?」


〈なんなりと〉


「ひょっとして…この機体ってダークマターを素材に此処で生成された…のではなく?」


〈…ああ、なるほど。ミス・花子からすればそう見えたのですね?…この狭苦しい空間に詰まっているダークマターを消費して生成されたかのように…〉


狭苦しいって…そう思い、外を映しているスクリーンを見ると、散発的にだがレーザーだかビームみたいな光弾が飛来してはバリアで弾かれていた。スクリーンの端に表示されている外気温の数字を見ると…


「げ…外の温度が1,000℃近い…つか、この機体、こんな鉄が蕩けそうな温度でも大丈夫なのか?」


ちなみに、このコクピットの温度は20℃も無い。17℃なのでどちらかといえば涼しいと評した方がいい。


〈問題ありません。外宇宙航行も想定していますし、恒星での活動も想定しています。最大3万度での高温下でも稼働は可能です…まぁ動くだけでしたらって条件は付きますが〉


それでもトンデモな機体性能だ。つまり、今現在も散発的に飛来するエネルギーの塊程度では回避する必要も無い…ということらしい。それも、バリア無し・・・・・で…先の説明ではバリアを展開して…とは無かったからだ。ま、まぁ…攻撃性のあるエネルギー弾を機体の装甲だけで弾けるかどうかは不明なんだが…


〈機体の耐熱性能の説明は以上です。それは兎も角…本機体は此処・・で生成されたものではなく、この世界とはまた別の世界で創られた…ということですが。それについてはご理解頂けましたでしょうか?〉


「…まぁ、大体。その…「別世界」ってのは?」


〈制約によりご説明し兼ねます。所謂、禁則事項タブーということでご理解下さい〉


「あ…はい」


…まぁそういうことなんだろうと、考えることを放棄する花子。無理に突っ込んで訊いても回答してくれるとは思えないし…


〈それで…名付けと血の契約はして頂けますか?〉


…仮に拒否し、この機体の外に放っぽり出されたとする。1,000℃近い空間に出た瞬間…人間なんぞ蒸発して跡も残らないかもしれない。いや、蒸発はしなくても即死すること請け合いだろう。幾ら魔法少女として能力が向上しているとしても…生き残れる自信は無い。


(はぁ…選択肢は1つしかないって訳か…)


転移魔法とか覚えていれば…この場を脱出できただろうけど。残念ながらそんなズルはできない。


「わかった。契約しよう…」


〈わかりました。できれば…恰好良くて短い名前を所望します!〉


黒壱号ブラック」という名前を考え、心の中で名乗っていたくらいだ…きっとその名前がいいんだろうと思った花子は


「では、黒壱号と書いてブラックと」


その瞬間、巨大ロボ改め…黒壱号ブラックは歓喜の気を放ち…次弾として放たれていたエネルギー弾を全てその気で…そのボディから圧を放って全て弾き飛ばし、反射されたエネルギー弾は全て発射元の砲身に正確にぶつかって全て破壊されてしまった…



- 謎の施設サイド -


「なっ!?」


「何なのだ…あの大きなロボットは!?」


「エネルギー砲を急ぎ修理せよ!…」


…謎の組織の者たちは泡を食っていたかのように慌てていた。


花子が飛び出した後、ロボットを召喚してから慌てて破壊しようと闇の靄が異常発生した時の為のエネルギー砲で攻撃をしていたのだが…一向に破壊できないどころか空間の温度が1,000℃に迫ろうとしていたのだ。


このままでは施設が溶解してしまいかねない…だが、当の攻撃されているロボットは健在だ。だが、ロボットを破壊できねばやられるのはこちら…その焦りが頂点に達した頃。全てのエネルギー弾が跳ね返され…全ての砲塔が破壊されて次弾を発射できなくなってしまう。


「オーマイガッ!」


「何なのだ…あのロボットはっ!?」


偉そうなこの2人は施設の人員に命令を指示した後…脱出する為にこの場を後にする。この後の惨状を予測できないどころか…責任を取らされる以前にあのような目に遭うことも予測できず…



- 再び花子サイド -


〈では、血の契約を…〉


しゅぱ…


と、手の平を示す輪郭がある凹みがコクピット一部…スライドした部分に現れる。丁度椅子の肘掛け部分の手を置く辺りにそれは現れた。いやまぁ…とんでもなく奥に現れるよりはいいんだけど…手が届かないし。


「右手だけで?」


〈どちらでも。右手首を失ってたり両手首を失っている人が居る場合は首から血を頂いておりますが…?〉


「あ、いや。右でいいです」


実は右手首を一瞬失ってたんだよね…と思ったが、今はきちんと治癒してくっついているので問題は無い…。無理して右手で聖剣をぶん回さなければ、ね。聖剣はバスタードソードと同様に片手でも両手でも扱えるサイズなので無理して右手だけで振るう必要はないけど…


花子は手形にそっと右手を触れさせた。血…というよりは精力的な…エネルギーが吸われる感じがして…それも一瞬で終わる。


〈ミス・花子。名付けと血の契約を完了しました。これで…召喚名「黒壱号ブラック」で本機体は闇の靄ダークマターを触媒として召喚可能です〉


「おお…えと、具体的にはどんな呼び方で?」


つまりは、「召喚!ブラック!!」とか恰好付けて呼んだり召喚しなければならないのだろうか?…と危惧している訳だ。黒歴史を増産するような恰好で叫ばないといけないのかと戦々恐々としていたのだが…


〈あぁ…そういう…。安心して下さい。ダークマターが満ちているという条件さえ満たしていれば、心の中で「ブラック」の名を呟くだけで問題ありませんので…そうですね。最低限、「ブラック、来て」という意味のある言葉で構いませんので〉


そうナビ?AIさん?…が優しい声色で花子の黒歴史を創らないようにしてくれたのだが…全長10mの漆黒の黒騎士然とした巨大ロボが街中で召喚されることは黒歴史に他ならないのだが…今、心のゆとりが失われている花子には気付くことはなかった…


「あ、最後に…貴女の名前は?」


〈…そうですね。今までは名乗る名前を持ってなかったのですが…ミス・花子のお陰で自信を以て答えることができるようになりました…〉


え?…と、嫌な予感が過ぎる花子。まさかな…と思っている所で時間は待ってくれない。そして放たれる自己紹介に…立っていたならば膝が崩れてorzする自信があった花子であった!w


黒壱号ブラック…と申します。「くろいちごう」でも、「ぶらっく」でも、お好きな方でお呼びください…マスター!〉


だが、その声は女性のものだ…20代前半くらいのしっとりした大人しめの…名前がごつくて似合わない…とは口が裂けてもいえない花子だった!



- さて、脱出だ! -


(普通、ナビかサポートAIだと思うよな?…まさか巨大ロボそのものと思わないだろう!?)


そんな心の叫びは誰にも届くことは無く…そしてバリア越しにも響く音で思考は中断される。


ずずずずず・・・・


「何だ?…この音」


外部の音を拾ってコクピット内に響いてくる音。正式に契約した途端、最低限の機能が活性化して各種戦闘用機能が自動で稼働開始した訳だが…


〈この空間を制御している施設でしょうか?…自爆装置が機能しているようです〉


「はぁっ!?…自爆って…さっきの声の連中か。ブラック黒壱号を抑えられないと気付いて自爆して無かったことにしようってかっ!?」


〈そのようですね。ダークマターを媒介にしてこの島毎吹き飛ばす目論見のようです〉


「えぇっ!?…ダークマターってそんなこともできるのっ!?」


〈はい…ある程度の起爆エネルギーが必要ですが…例えるならば、起爆エネルギーが導火線で一定濃度のダークマターを火薬として爆発させることが可能です。ですが…〉


濃度としては70%を下回っている為にエネミーは現れない。が、この空間に保有されている総量が多い…大都市で湧く総量に比べても遜色ない程度には…


〈…計算終了。このまま起爆すれば…このハワイ諸島…ですか。この島周辺どころか、東はアメリカ大陸のロサンゼルスの沖1,000km辺りまで。西はほぼ何も無いとは思いますが…日本にも影響が出るでしょう〉


「え?え?…っと、爆発の影響が?」


〈いえ、爆破される範囲が、です〉


…つまり?…


「爆破される範囲が…ここからロスまで何kmだって?」


〈4,000kmと少しでしょうか?〉


※計測開始位置にも左右されるが、4,123kmだそうだ(GoogleMapより)


「つまり…爆破半径が…」


〈3,000kmです。直径6,000kmとなります〉


「・・・」


あんぐりと口を開けて想像してみる。ダークマター爆弾が起爆した場合、ハワイ諸島どころか太平洋の半分近くが吹き飛ぶという…単純に火炎が撒き散らされるだけなら…いや、それでもとんでもない熱波が地球上を駆け巡り、生きとし生けるモノ全てが死体となると想像に難くない。


「これ、もし実現したら…どうなる?」


〈…この惑星は地球といいましたか?〉


「あ、うん…そうだけど」


〈このサイズの岩石惑星は…これだけのダークマター爆弾で破壊された場合、〉


「…うん」


〈最小の被害でも惑星が半壊して地上地下水中の別なく、生命は死に絶えます〉


「…矢張り」


〈最悪の被害ですが…聞きたいですか?〉


「いや…最小でそれだ。聞かなくとも想像はできる」


〈…わかりました〉


ブラックはそれ以上は語らなかったが…最悪の場合はこうだろう。


惑星は分解消滅し、

被害は近隣宙域まで及び…

衛星である月すらも巻き込んで原初の状態にまで戻ってしまうと…

下手すれば小型の太陽が短い期間ながらも現れるんじゃないか?


…と。


そこまで考えていたら、ブラックは呆れた調子でこういった。


〈何でそれだけのヒントでそこまで辿り着けるんですか…マスターは超越者なんですか?〉


いやあんた。何で俺が考えてたこと読み取れたんだ?


〈あ…えと、血の契約を結びましたよね?…ですから、考えてることとか筒抜けなんですよ〉


「え…プライベート無し?」


頭を抱えていたら、


〈表層の思考しかわかりませんから〉


といわれたが…


(信じられっかーっ!?)


…と、心の中で絶叫しましたとも、ええっ!!



- その頃の日本…の対エネミー自衛隊高円寺支部 -


「なぁ…」


「はい?」


部隊長の段田 弾ダンダ ダンが、安西 奏アンザイ カナデに話し掛ける。傍目には上司の部隊長が事務の女性部隊員に話し掛けているだけなのだが…筋肉ムキムキの野蛮人がキャリアウーマンにコナを掛けているようにしか見えない危うさがあるw


「山田だけどさ…」


「花子さんがどうしたんですか?」


ヒロイン?である山田花子の呼称の違いが、各々の距離の違いを感じさせる。いうまでもなく、カナデの方が花子との距離感が近いということがわかる。


「いや…大丈夫かなって…」


「上からの指示なんですよね?…闇の靄を吸収するだけって聞きましたが危険な任務なんですか?」


実は、同盟国である米国…アメリカ合衆国が直々に日本の一個人を指名しての出張なぞ、対エネミー自衛隊が発足してから初めてのことなのだ。仮に「対エネミー自衛隊を借りたい」ということであれば、普通なら部隊毎貸し出す…となる筈なのだが。不測の事態に備え、個人では対処しきれないこともあるだろう…ということを踏まえれば、だが。


「まぁ…多少強引な話しだなと思ってな…」


「まぁ…普通は部隊単位となりますもんね。花子さんが幾ら高レベルだからって独りでは対処できることなんて限りがありますし…」


フォローし、されてこそ集団行動の利点だ。個人では死角を突かれた場合…そこで終わって仕舞い兼ねない。


「現在の山田のステータスだが…」


「出発時に記録したので宜しければ…見ます?」


「あぁ」


カナデは操作していたパソコンのソフトのデータを保存して終了させ、別のソフトを起動する。メインサーバに接続する特殊ソフトを起動し、山田花子のデータを呼び出して表示させる。



【登録隊員ステータス表】

名 前:山田 花子

年 齢:17

レベル:123

攻撃力:223(123+100)

防御力:167(61+106)



「…こりゃあ」


「ま、まぁ…アメリカさんに抜擢されるだけはありますね…」


改めて見ると人外なステータスである。()内の数値は花子本体の地ステータス+身体強化スキルの数値で()の外は単純に加算した結果が表示されている。そこに装備品を装備すると、更に数値は増量な訳だ。


身体強化スキルは常時発動能力パッシブ・アビリティなので本人がオンオフを切り替えられない為に普段のつもりで力を入れるととんでもないことになるが…闇の靄が無ければそれ程気にしなくてもいい。また、気が抜けていればそれ程力を発揮しないので常時力を抜けるように気を付けなくてはいけない…ということもないようだ。ドアを開けるのにうっかりドアノブを握り潰して修理費が嵩む…とはならないのは朗報だろう。


「しかし…レベル上がったよなぁ…」


「そうですね。入隊時はレベル60でしたが…」


そこは61なのだが細かいことは覚えてないらしいカナデ。


「入隊時でそれか…俺、その頃幾つだったっけ?」


「さぁ?」


別に関係が冷え込んでいる訳ではないが、余り興味が無いのか軽くスルーするカナデ。花子が入ってくるまでは最高レベルを誇っていたのだが…必要が無い時には個人情報である隊員のステータスは不要であれば閲覧してないだけの話だ。



「そういえばさぁ…」


「はい?」


「気になって上司に問い合わせたんだよ」


「花子さんの?」


「あぁ…」


ダンはコーヒー片手に一休み中。カナデは事務の仕事中である。できれば仕事の邪魔をして欲しくないんだけどなぁ…とカナデはややつっけんどんな態度だ。


「そしたらさ」


「…」


「「一隊員に肩入れし過ぎじゃないか?」っていわれたんだよ…」


(そりゃあね…)


「でも、年端も行かない子がだよ?…海外で独りぼっちって…気になんない?」


「まぁ…ならないといわれれば嘘になりますけど…」


とその時だ。操作しているパソコン…ではなく、天井近くに設置してあるスピーカーから緊急事態を示す警報が鳴り、続いて通信士から報告が続く。



〈ビーッ!ビーッ!ビーッ!〉


『緊急警報!緊急警報!…詳細は通信ルームにて説明します!…手が空いている隊員は全員集まって下さい!…緊急警報!緊急警報!…詳細は…』


2人は顔を見合わせ、事務作業を中断して通信ルームへと急いだ。そして…そこで花子の出張地であるハワイ諸島の現状を知るのであった…


━━━━━━━━━━━━━━━

その詳細は次話で!…勿論、日本でダンとカナデが無事であることから、地球が木っ端微塵に…ということにはなってないのは事実ってことで!

※いきなり巨大ロボとか出て来てジャンルが変化しそうですが…異世界ファンタジーからは変化ありません!(別に敵にもSFチックなのが出てくる訳ではないのでっ!!)

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