その3 ~世間の人気者…?~

山中慎太郎は理不尽な結末を迎え、山田花子と言う少女に転生した。今世では人類共通の敵エネミーが居て、微力ながら対抗組織が存在する。花子は自らの高い肉体性能を自覚した今、人類の敵を倒す為に対抗組織「対エネミー自衛隊」に入隊することになる。そして、ダブルTS少女から魔法少女にクラスチェンジした山中慎太郎…否、山田花子は…本人の意思を他所に、何故かお茶の間の人気者になるのだった!w

━━━━━━━━━━━━━━━


- 某スーパーヒロイン? -


「鳥だ!」


「飛行機だ!?」


「スー●ーウーマンだ!」


「いや、魔法少女☆山田花子だ!!」


…などと、某スーパーな男性のパクったかのような掛け声がすると、遥か上空を黒い靄を纏いながらかっ飛んで行く山田花子が良く見掛けるようになって割と久しい。


「だー!うっさい!!…いや、遥か下から直接聞こえる訳じゃないけどさぁ~…」


無駄に発達した訳ではない聴力は、魔法少女のスキルの1つ「地獄耳ヘル・イヤー」で、視界が通る範囲の音を聞き逃さないスキルの1つだ。その視界すら、「千里眼サウザンド・アイ」で物理的に遮蔽されてない視線の通る先が見通せるという…。単に遠くが見えるだけでなく、どんな些細な動きや素早い動きもその目で見て視認でき、また千に分裂しても全てが視認可能だという…尤も、脳みその方がそこまで対応仕切れてない為に分裂した敵はせいぜい10体までしか認識できないようだが…


「聖徳太子かYO!」


と怒鳴る花子だが、「それは耳の方だろう」と隊の誰かがこっそり突っ込んでいたw


…さて、今日も今日とて飛んで現場に赴く花子。本日も闇の靄が濃い現場に急行している訳だが…


「うーん…ちょっと間に合いそうもないんだよな…」


距離があったり、現場から現場への飛ぶ距離が長かったりすると間に合わないこともある。指示を出している高円寺支部でも距離計測はしている筈だが、それでも計算が合わずに…ということもあるのだろう。逆風が吹いてればそれだけ飛行速度も落ち、結果として間に合わない…ということもあった。


「あ~…出現しちまったなぁ…」


千里眼で見えた映像に、大型のエネミーが出現している様が視て取れる。タイプは大型種ラージで、担当地域の対エネミー自衛隊でも何とか倒せるとは思うが…


「遅れちまった責任を取った方がいいだろうな…ぶちぶちと文句は言われるだろうけど、も!」


空中を蹴って急降下の加速力を付ける花子。空歩の応用技だ。空歩とは宙空を歩くスキル。空気中の空気分子を蹴って歩くように移動する技だが、強く蹴れば体を強引に押し出して跳ぶことができる。今のは天井を蹴るようにして急降下する勢いを付けたという訳だ。


(これってどう見ても魔法少女のスキルって感じじゃねーよなぁ…)


どちらかといえば、仙人の技のように見える。尤も、地獄耳も千里眼も仙人の技にしか見えないが…


「さて、そろそろ肉眼でも見えて来る頃合いだが…居た居た」


肉眼といっているが、千里眼も同じ肉眼で見ているのだが、スキル無しで見ていることを「肉眼で見る」と思い込んでいる花子だ。一応前世では50代のおっさんだったのだが、思ったよりおつむが良くなかったのか、転生して肉体に引っ張られておつむの出来が悪くなったのかは不明だ。前世ではふっくらした体(デブとも肥満体とも…)だったのだが、こちらに転生してからは若い肉体(17歳の高校2年生のぴちぴち(死語)な体)を手に入れ、就職先が肉体労働を強いる環境(対エネミー自衛隊という地方公務員という、エネミーが消えない限りは安泰な職場です!)な為に酷使してるともいう…。毎日が運動という脳筋な環境故に肉体美が日々構築されていき、腹筋が6つに割れてとても魔法少女コスでお見せできない筋肉モリモリの…とは成らず。僅かに筋肉はついたものの、普通に魔法少女コスを着ても問題無いという体形に留まっていたのだった…(所謂痩せマッチョ? 花子「ひでぇ!」)


「とりゃあああああ…!!!」


どどぉぉぉおおおおんんんっっっ!!!


アホなことに掛け声をした結果、ひょい!と避けられて自滅する花子。瓦礫の中から「ぺっぺっ!」と口の中に何か入ったのか唾を吐きながら這い出て来る。


「くっそぉ~!…避けるなんて聞いてないぞ!?」


(そら大声出しながら蹴ってくりゃ誰でも避けるわ…)


と、遠巻きに見ていた群衆たちの心の声は一致団結していた!w


「…ま、それは兎も角…吸収!」


エネミーが出現した後も闇の靄は漂っており、時間が経つにつれその濃度は濃く深くなっていく。そしてそれはエネミーの活動にプラスに働き、エネミー本体を強力にする上に視認を難しくしていく…故に、花子はそのエネミーに有利な環境を壊す為に、そして自身の強化に闇の靄を吸収する!


ずごごぉおっ!


一気に吸収される闇の靄。そして強化される花子の…魔法少女のコスチューム!


「「「おお!…ひらひらが派手になった!」」」


パシャパシャと遠慮無しに写メを撮影される花子。尚、目で見る分には顔なんかは普通に見えるのだが、写真などのメディアにはモザイクが掛ったかのようにぼやける仕組みになっていた。日常生活に考慮した仕様だとシステムは説明していたのだが…


(記憶力がいい奴が見てたら意味無くね?)


と思い、システムに突っ込んでみた。翌日、システムから「翌日には記憶から抹消・改ざんするように仕様変更しました」っていわれたんだが…何それ怖い!…としか思えなくなった。うう…


(ま、それは兎も角、吸収終了っと!)


辺りの黒い靄が完全に消え去り、夕暮れの薄暗い中に…本来は新月で真っ暗な中や、薄暗い闇夜の中でしか活動しない大型エネミーラージが動いている。先程より動きが鈍っている為、必殺技も問題無く当たりそうだ。あるとすれば…


(破壊光線だから周囲に飛び火する可能性がなぁ…)


本来なら結界を展開してからぶちかますのだが、まだ担当部隊が着いていない。ので、仕方なく聖剣を抜くことにする。時間を掛けていては次の現場に着いた時に同じ展開になる羽目に遭うからだ…はぁ。


………

……


「重力カット!」


聖剣の力を開放して使う魔法は「重力魔法」だ。飛行能力はこの魔法に依る所が大きく、飛んでなければエネミーを浮かすことに応用も可能だ。他に聖属性の斬撃を飛ばすことも可能だが今回は切っても仕方ないので同じ聖属性の光弾を飛ばす。但し、横では被害が出てしまう為…


「よし、十分高度が取れたな…光弾発射ぁっ!!」


まんまのコマンドワードを唱えて大型エネミーラージの真下から聖剣を振って刀身から光の弾を真上へと飛ばす。魔法少女のコス全体も光り輝き、それが聖剣の刀身に行き渡ってから膨れ上がり、弾き飛ばされた光弾は目標エネミーに向かってかっ飛んで行く…


「ブレイク!」


エネミーの体の中にめり込んだ光弾を2つ目のコマンドワードで破裂させ、大型エネミーラージは空中凡そ100m程で爆発四散する。花子は爆発して再び漂いだす闇の靄を確認すると、


「吸収!」


と叫んで、ずごごご!…とその身に闇の靄を吸収していく。魔法少女のコスチュームは第3段階までは進化せずに、ひらひらが大きいだけの第2段階で留まっていた。


尚、「闇の靄・吸収スキル」はあれからレベルアップしており、吸収してからのクールタイムは大幅に短縮されて1時間に1回から10分に1回になっていた(吸収範囲は10kmというのは変化しないようだがクールタイムが短縮されただけでも仕事の効率は上がるだろう…花子にとっては忙しくなるだけだが!)


「よし、終了っと。じゃあ、後始末はここの対エネミー自衛隊の者が片付けますんで。では失敬!」


と、助走もせずにジャンプした花子は一気に加速して飛び去る。


「…本当に女子高生がエネミーをやっつけちまうんだな…」


実は学生ではない花子だが、一応花の17歳と広報から宣伝されてしまっているので、勝手に妄想されている訳だが、その事実を花子が直接一般市民に質問されるまでは知ることもない訳で…全国の高校や女子高などに問い合わせが殺到してる事実も知らないのであった!w(所属している対エネミー自衛隊は非公表となっている。公表したら最後…公務に支障が出る訳なのでする筈も無いということだ)


………

……



- 帰還 -


「はぁ…今日も疲れた…」


対エネミー自衛隊といえども、未成年(少なくとも見た目は)に深夜残業をさせることは…表向きは無い。午前9時に出社し、午後5時には退社の9時5時な勤務体系となっている(お昼は12~13時の1時間)特に重要な事件が起きなければ、だ。


ジャッ!


…とタイムカード(厚紙の物理的に時刻を印字するアレ)を差して退社時刻を確認した後に花子は高円寺の勤務地を後にする。一応、汗はシャワーで流しており、多少汗臭さを感じる気はするが傍に近寄らなければ匂いは気にならない筈…と思い込みながら歩き出す。


「はぁ…お腹空いたなぁ…」


今日は朝からあちこちを飛び回ってたせいで、昼飯抜き。流石に魔法少女コスのままでコンビニに寄る勇気も出せず、インカムに入る情報を元に出突っ張りだったのだ…。高円寺では食堂があるのでそこで食べることができるのだが、戻る猶予は結局無かった訳だ。日替わり定食だけは無料で1食分だけ食べられるという職員の特権が今日に限っては行使できなかった為、腹の虫が特に機嫌悪く、ぐぅ~ぐぅ~鳴っている…


「しょうがない。近所のコンビニでパンでも買って喰うかぁ…」


今日はまだ給料日前で、懐も寒く、買えるのはせいぜいパンという…毎日死にそうになる程に扱き使われるのに安月給とは此れ如何に…。地方公務員といえど国民の奴隷というのは辛い生き様でしかないが、無駄に溢れているぱぅわぁーを生かす職場でもある。ちなみに某スキルで得たお金は…身バレが怖いので殆どがタンス預金みたいに隠してある為、表立って使えるのは極僅か。つまりはほぼ貧乏人の域を脱してない花子だった…対エネミー自衛隊の給料?…まぁ、命を懸ける職場にしてはクソ安いといえばわかるでしょう?(せめて大卒の初任給くらいは欲しかったと悔やむ花子であった…)



「ただいま~…」


「おかえり」


母親と住む実家暮らし。実は、転生前と転生後の母親は殆ど同じ婆さんだったのだが…花子自身がこの世界に馴染んだ後、17歳の娘が居る母親…つまり、20歳で産んで37歳程度の若さに定着したというか…70代の婆ではなくなったという事実!…でも、働いてないのは同じなんだよね。給与の殆どは家に入れてるので、まぁ生活はできるんだけど…お陰で「働けど働けど、尚暮らし楽にならず…」って昔読んだ小説を思い出しちゃったよ…ぐすり。


「お腹空いた。昼食べられなかったし…」


「…仕事、忙しいのかい?」


「うん、まぁ…」


「そう…」


親子の会話終了。まぁ共通のネタなんてあんま無いししょうがないのかな?…この世界はエネミーなんて人類共通の敵が湧いて来るし、見た目程平和って訳じゃないからねぇ。人間も弱者を襲うなんてこともあるようだし…ちなみに野良犬とか野良猫なんかも存在しない。エネミーが憑りついて食べちゃうらしくて…ね。飼い犬や飼い猫も時々被害に遭うらしくてそんなに数は居ないみたい。金持ちの家だとセキュリティがしっかりしてれば問題無いみたいだけど。小鳥なんかは飛んで逃げることができるせいか、生存率は高いみたい。時々飛んでいるのを見ることはあるね。


「…えっと、今…まぁ前からか。外は危険だからあんま外に出ないようにね?」


「あ?あぁ…大丈夫だよ。これ持ってれば襲われないしね」


と、ブレスレットを見せられる。あ、これって…


「対エネミーの防犯グッズ?」


「そうそう、それ」


(でも、これって紛い物じゃないかな?…確か、事務所で見せられた中に…)


ごそごそとバッグを漁ると「注意しよう!」ってタイトルが書かれた1枚ペラの報告書が出てくる。


「えっと、これ見てみて?」


渡された紙を母親が読むと、次第にわなわなと震え出して、最後には


「これ…本当なの?」


と聞いてきた。そりゃ自衛隊で配布してる物だから本物だと思うんだけど…


「本物でしょ?…だってうち対エ自衛隊の配布物だもん」


と肯定する。どうやらブレスレットが紛い物…つまり偽物だと気付いた訳で。まぁ事務所の方で対応してくれるから、後で現物持って出向いてくれと伝えてこの話しはお終い。身内だからといって、俺自身が持って来るのは禁止されている。あくまで偽物を購入した本人が、購入した時の付属物(化粧箱や説明書や保証書など)と本人の身分を証明する物を持って来ることになっている。


「じゃ、明日でいいから、それと現物一式と保険証持ってうちの事務所に来てね?…受付は10時からだから、俺と一緒に行っても1時間待つと思うので…」


尚、前世では一人称は「俺」だったんだけど、直すのも面倒なので口調は前世のままとなっている。俺っの上に口調が男性の荒々しい物となってるが職業柄そういう人も多いってことで、結局そのまま通すことになった訳だ。


「…わかった」


返事の後、温め直された夕飯を出され、それを食す。


「いただきます」


「ごちそうさま」


食べてる間は殆ど会話は無し。職業柄、機密事項が多いので致し方ないが、それでもついポロっと…というのもあるので仕事関係の話しはしないようにとのお達しで…まぁほぼ仕事しかしてない俺は…家族であってもすることが無いと…うーむ、前世よりも一層会話が無いご家庭になっちまって、すげーウツなんですけど!…といってもなぁ。警察官のご家庭だってもっと会話あるだろうに…って、刑事ドラマの家庭を比べたらダメか…トホホぉ~。


(まぁ、今日は帰宅してすぐ「昼抜いたから腹減った!」って会話が成立してるけどな…)


それしかないというが…何も無いよりはマシかぁと思う俺、山田花子なのだった。


………

……



- 花子の給与 -


「ぜはぜは…こう毎日、黒い靄が多い現場が多くちゃ…」


(体がもたないぜ…)


と思いつつ、インカムから連絡されて別の現場へと向かう花子。尚、事務所から貸与されたスマホとタブレットの中間くらいの中途半端な大きさのタブホ?…っていう商品名の…デカいスマホを持ち歩いている(個人的にはデカホと呼んでいるが)…んで、そこの地図アプリで表示したGPS機能でリアルタイムに現在位置と進行方向を…所謂カーナビ機能で移動をサポートして貰っている訳だ。


(前は紙の地図見ながらだったからなぁ…ハイテクアイテムで仕事も無理無く進むんだけど、それを逆手に取って無茶な回数あちこち出張させられて、それなのにノーギャラですもんねぇ…やってらんねー!)


せめてタクシーとはいわんから交通費くらいは出して欲しい…と思いながら愚痴る花子。飛行速度を考えれば(風防眼鏡を付けている為に)小型のセスナ程度の速度で200km/hは出てないくらいだ。それでも新幹線並みの速度なので、一時期は「新幹線の切符代くらいは出して下さいよ!」と突っ込んでみたが、カナデさんから


「無理。毎回往復してる回数分そんなの出してたら、高円寺支部が潰れちゃうよ!」


と泣かれた。大切なことなのでもう1度いおう。泣かれたんだ…マジに…orz


「でもさ~…こんなに苦労してあちこち飛び回ってエネミー出現の源を吸い尽くしてるのに、何も手当て出ないのって変でしょ!?」


と食い下がったら、


「…確かにね。最近は花子ちゃんが向かって処置した所でのエネミー発生率も下がってるんだし…。うんわかった。データを纏めて申請出してみるよ!」


と、前向きな返事が返って来たので来月に期待しよう!…と思っている。


………

……


ちなみに給料日といっても紙ではなくWeb明細しか出してないので、貸与されたデカホで見てみるしかない。後は帰宅してから家でPC使ってみるくらいか?後は…振り込まれる口座を記帳するくらいでしか確認する術がない。


(その場合、詳細がわからんから口座残高で増えたかどうかを考えるしかないんだけどな…)


一番早いのはWeb明細を見ることで、デカホがあるのだからそれで確認すればいいと…いう訳で、俺は自分のWeb明細を見ることにした。勿論他人に見られるのは嫌なので、帰宅する前にトイレに引き籠ってだけど!


「…あれ?」


月毎に並んでる給与の合計額の一覧が…先月と同額ということに気付く。


「…増えて…ない?」


一応、念の為、詳細を開く。先に先月の分を…



【○月分給与明細】

---------------

基 本 給:¥===,===

特殊技能給:¥ ==,===

合計支給額:¥===,===

---------------



そして今月分のを開いてみる…



【△月分給与明細】

---------------

基 本 給:¥===,===

出 張 費:¥ ==,===

合計支給額:¥===,===

---------------



「はぁ!?…名目が変わってるだけで、中身一緒!?…てか、普通は出張費が追加されるでしょ!!」


思わずトイレの中で叫んでしまう花子。これまた意外な方法で申請が半ば通っているが、違う!それじゃない感が全開である!!!



事務所に入っていきなり語り掛ける花子。給与明細片手にカナデさんに説明をおっぱじめるのだが…


「…という訳で、これじゃない感しかない給与明細の詳細が書き換えられてる件について、オハナシをしに来たんですが…イイデスカネェ?」


少しだけ美少女感が失われて…否、どちらかといえばホラー感が漂い、変なテンションになっているの花子に目が泳ぎまくるカナデさん。


「ええっと…後じゃ駄目かな?」


ちらっとワークデスクの上に積んでいる書類の束に目配せをするカナデさんに


「ほう…つまり、俺の給与の件は2の次3の次でイイト?」


妙に額に影が被さり、上から目線で眺めるホラーサイドに堕ち掛けている花子の圧に内心、絶叫するカナデさんw


(こ、怖いよ~!ダン隊長ぉ~、たぁ~すぅ~けぇ~てぇ~!!!)


駄菓子菓子、当のダン隊長も事務所に踏み込もうとしたが花子の妖怪染みた豹変ぶりにガタブルしていて中に踏み込めなかったとか…無論、その他ブラザーズも裏方部隊もだ!w…尚、クレイは当日は出張していて事務所には不在だったことをここに記しておこう…


そして後日、不貞腐れた花子が短期のストを敢行した後、エネミーの発生率が嘘みたいに急上昇してあちこちの対エネミー自衛隊の出動が急増した上で被害が激増したことにより、ようやく重い腰を上げた上層部が花子の出張費を認めた模様…。後に直接の妖怪ガン見被害を受けたカナデ女史は語る…


あれは直接見てはいけない魂が削られるモノだ」


と…(SAN値直葬DEATHね。わかります(苦笑))



【△月分給与明細】

---------------

基 本 給:¥===,===

特殊技能給:¥ ==,===

出 張 費:¥ ==,===

合計支給額:¥===,===

---------------


………

……



- 再び勤務中の魔法少女☆山田花子 -


「うう…もうすぐ退勤時間だけど………」


まだまだ残っている「闇の靄吸収作業」の残っている現場が3つ。しかも隣り合わせの地区だ。走って移動できる程度の距離だが、闇の靄の吸収範囲より広い場所だけに真ん中で一気に!…という訳にもいかない。


「あ、やべ…」


魔法少女コスが明滅し始めたので慌てて高度を下げる花子。吸収した闇の靄エネルギーが減少すると、残り10分くらいで魔法少女コス全体が明滅を始めるのだ。


「うげ…ってことはだ…。此処から指定の場所まで全力ダッシュぅ~!?」


まだ残り5km程はある距離にげんなりする花子。ぶちぶちと文句いわないで飛んでいればあっという間の距離だったのに…と思うが後の祭り。無い袖は振れないのだ…


「う~ん…ここで吸収したら、5kmくらい飛べる程度のエネルギーが吸収できないかなぁ?」


〈無理です。先程吸収した地点から然程離れてない為、闇の靄が存在しません〉


との冷たい返事がシステムさんから…


(あ~…そういやそうだった…うう、俺のバカ…)


尚、吸収したはいいけどそれ程濃度が高くなかったせいか、然程エネルギーとしては貯まらなかったという。ここで吸収して欲しいとの要請があって順番に吸収して回ってるのだが、最初以外は薄い濃度だったので飛行に消費するエネルギーでどんどん減って行って…というのが正直な所らしい。


「はぁ…仕方ねぇ…走って行くしかないかぁ…」


魔法少女コスに変身する前は、ダボっとしたジャージなので(変身すると魔法的な場所に収納されるらしい)現在は魔法少女コスが消えて、変身前のジャージ姿に戻っている。流石にコスの維持エネルギーも尽きた模様…周囲に野次馬が居なくて良かったわ。


「もし野次馬が居たら、顔バレしちゃうしな…」


念の為、周囲の様子を確認して…


「大丈夫みたいだな。じゃあ行くか…はぁシンド」


闇の靄のエネルギーが尽きたからといって、花子の体力そのものは空腹に応じて減ってはいるが走れない程でもない。デカホのGPSとマップの案内を見ながら道路を走る。普通の人間並みの速度で…


………

……


「ぜいぜいぜい…ここ、かな?」


先程の地点から一番近い指定の現場にようやく到着する花子。息が整うまでしゃがみ込んでいたが、ふと気が付いて顔を上げると…


「うわぁ…何か真っ黒だ」


闇の靄が濃度70%を越えようとしていた。エネミーの現出する濃度は70%前後となっている。多少の誤差はあるが、概ね70%を超えるとエネミーがあちらの世界から現れるということになる。その時間帯が明るい頃ならば、もう少し濃度が濃い状態から。夜に近ければ近い程、70%を下回っていても徘徊しだす…そして、今は逢魔が時と呼ばれる夕方と夜の境目。太陽が地平線に隠れた直後くらいの時間帯で今夜は新月に近い月齢だ。エネミーを遮る光はもう…届かないだろう。


〈………!〉


ぶわり、と何かが闇の中で蠢きだす。それを機に、幾つもの何かが次々と現れる。


「…来ちゃったかぁ…まぁいいや。吸収!」


ずごごぉおっ!


一気に吸われて消え失せる闇の靄。風情もへったくれも無く、唯掃除機で吸引されるゴミのように消え失せる闇の靄は、ある意味掃除機に吸われて消えるゴミと同じ運命を背負っているのだろう。唯、危害を加える対象の人間から毎日微量ながらも排出されている訳だが…悪意・害意・瘴気…色々な呼び名がある通常なら目に見えず、触れず、吸えない空気のようなモノだがある程度澱溜まると突然として見えるようになるモノだ。そして闇の靄が全て消え失せると、発生したばかりの小型エネミースモールたちは、その体を維持できなくなったのか闇の靄と同様に消え失せていた。


「…も少し進んだ所にもまだあるか…」


今度は十分に吸収した闇の靄を飛翔エネルギーに換えて飛ぶ花子。第1段階の魔法少女コスが風に揺れて靡く…そして。


ずだぁあんっ!


2回目の予定地に飛び降り、「吸収!」と叫び、再びジャンプして次の予定地へ移動。コスチュームは第2段階へと進化していた。


ずだぁあんっ!


3回目の予定地に飛び降り…3回目の「吸収」を叫ぶも、発生したエネミーは消えなかった…


「うわっ…中型エネミーミドルか…しかも数が多い」


中型エネミーミドルは大型犬から成体の熊程度の体格のモノが多く、小型エネミースモールに比べてバリエーションは少ないものの、中には人型を象っている場合もある。パワーやガタイのデカさが厄介な大型エネミーラージ超大型エネミーヒュージに比べて、別の意味で厄介なのが中型エネミーミドルだ。知性が発達していた場合、人型のエネミーは最悪な部類となるだろう。


(あの時の新月に近い夜に出会った奴とかな…)


あの時より体も装備もレベルアップしている花子だが、その厄介さは今まで戦って来て身に染みてわかっている。何度命のやり取りを経験して、何度死にそうになったのか…。そして、その体験をしてもガンとして上がらない給料と…


(あ、何かアッタマに来た…)


ムカムカしだして魔法少女コスを戦闘モードに移行する花子。コスチュームの意匠がふわふわのひらひらから、鋭角な戦闘機のように固く尖る。そして…魔法のスティックではなく、聖剣をズンバラリン!と抜く花子。元の大きさのままでは目立つ上に知ってる人が見れば「聖剣」とわかってしまう為、普段はベルトのバックルに収めてある。取り出す時は、そう思うだけで手に持たせることはできるが…今は腰から抜き出す構えを取りたかったのでそうしただけだった(…聖剣さん、お疲れ様(苦笑))



- 聖剣を取り出してから5分36秒後… -


「ぜーぜーぜー…」


吸収した闇の靄を魔力変換して聖剣に流し込みながらバッタバッタと中型エネミーミドルをひたすら倒して歩いていたが、先程ようやく最後の1体を斬って消し飛ばし終えた所だ。花子は息も絶え絶えにその場に跪き、肩で息をしながら何とか整えようとしていた。そして凡そ1分が経過し、システムが戦闘終了と判断した途端に…


〈レベルアップしました〉


とシステムがメッセージを表示し、いきなりステータスが表示された。



【ステータス】

名 前:山田 花子やまだ はなこ

年 齢:17

ーーーーーー

レベル:100

経験値:907,061exp

所持金:120,002円

BWH:85、60、87

身 長:161cm

体 重:55kg

血液型:A(RH+)

スキル:体感覚遮断P

    アイテムボックスP

    身体強化A

ーーーーーー

・体感覚遮断Lv5

 ・分配率[経験値-50%+][所持金-50%+]

     [攻撃力-00%-][防御力-00%-]

     [対温度-00%-][対毒 -00%-]

・アイテムボックスLv3

 ・収納可能重量…100Pt(ペタトン)※1

 ・収納可能サイズ…一辺100km※2

 ・時間停止、何でも収納可能※3

※1:トンでいえば10京兆トンとなる(地球の全海水量は140京トンらしい)

※2:一度に収納可能な大きさ。重量制限以内なら大きさは無限

※3:生物・非生物問わず。時間停止するので10年後に取り出された生物は当時のままの年齢に…ということに!(一種のタイムマシン?)

攻撃力:200…100(+100)

防御力:156… 50(+106)



「うわぁ…」


益々人外街道を突き進む、山田花子で御座います♪


「って、♪じゃねぇっ!!」


ちなみに身体強化スキルが増えて、レベル1の時点で攻撃力と防御力が+100されました…。聖剣無しでも有りと同じ攻撃力になってどうするよ…


━━━━━━━━━━━━━━━

素手でエネミー倒し放題に!…しかも、隠しパラメータで色々強化されるので全力で走れば自動車並みの速度で走れるようになり、体力も増強され(全力疾走で20分くらいは楽々駆け抜けられる…但し、身体強化が20分もつってだけで体力増強はもう少し長くもつ程度には強化されてるっぽい?)瞬発力もそこそこある(高さ10m程度の壁もひとっ跳びで!…尤も魔法少女コスの飛翔スキルがあれば余り意味はない?)…あぁ、山田花子の素の状態で使えるので、闇の靄を吸収しなくてもある程度活躍できるということに…

花子「やっぱし人外認定…orz」

…ど、どんまい?w

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