その2 ~魔法少女・覚醒~

転性して転生したおっさんの短編小説第二弾です。外見はハスキーボイスな17歳美少女なのに、中身は残念なことに50代のおっさんという内容でした。痴漢されてレベルアップとかどうなんだそれ?…って出だしでしたが如何だったでしょうか?(まぁ、普通に敵対種と戦っても普通に経験値貰ってレベルアップしますがw)今回はヤらしいシーンは鳴りを潜めますが、果たしてどうなることやら…

※カクヨムに短編てことでアップする用に一部修正しました

━━━━━━━━━━━━━━━


- 対エネミー自衛隊の日常 -


高円寺対エネミー自衛隊に入隊してから早半年。俺は何とかこの世界に馴染みはじめていた。尤も、TS転性して少女になったことと少女らしい振る舞いをするのだけは慣れないんだがな…なんていうか、こう…負けたみたいな気分になるというか…(誰にだ?…という問いにはこう答えよう!…「黙秘権を行使する!」と(裁判所がないのでそれに付随する法律も無いので意味無いんだけどね(苦笑))


『緊急事態発生…緊急事態発生…』


そんな感傷を抱いていても関係なくエネミーはやってくる。俺は待機していた部屋を飛び出すと、ヘルメットを装備してジャンプする。他のメンツは後からバンでやってくるだろう。多分、処置エネミー退治が済んだ後の処理検分などしか仕事が残ってないだろうけど、ね。



「う~ん、働けど働けど我豊かにならず…」


公務員みたいなものだから、給料はほぼ固定。民間の会社なんかはもう少し稼げてるみたいだけど…


「がははは!何いってんだか!」


バンバンと背中を叩かれて笑い飛ばされる。叩いたのは部隊長の段田 弾だんだ だん、通称部隊長かダンさん。


「い、痛いから止めて下さい!」


幾ら体感触遮断スキルで痛みを感じないからといっても一応は花も恥じらう乙女の背中だ。気安く触って貰わない方がいい…とカナデさんに聞いたので念の為、嫌がる素振りをする。


「…ちっ、カナデか?」


こくりと頷くと面倒そうな顔をして頭をガリガリ掻いている部隊長。


「部隊のコミュニケーションとかさぁ…あー、うん、まぁいっか」


エネミーの処置と処理が済んで帰投中だったが、既に高円寺対エネミー自衛隊の敷地内でバンは止まっており、車外を見ると怖い顔をして睨んでいるカナデさんが立っていた。


「…お帰りなさい?」


「あ、あぁ、ただいま…」


彼女は安西 奏あんざい かなで、ここ高円寺対エネミー自衛隊の事務方であり、事務処理や対外処理やなどを一人でこなすスーパーウーマンである。体にピッチリとしたビジネススーツに身を包むみ、肉感的な体が魅力的な女性ではあるがアラサーということもあり、婚活もできないこの職場では「結婚」などのブライダル関連の単語は禁句となっている…


「余り嫌がらないからといって、過剰なスキンシップをしてて、訴えられても知りませんからね!?」


うん、そうして欲しい。俺のスキルが敵意や悪意がないからといっても、微妙に経験値と所持金を吸い取ってるからね…。個体別に最低限の割合にできるようになってたけど1%が下限だったし。3秒以内なら吸わないみたいだけど、3秒ルールが適用されてるとか落ちた食べ物扱いなのか?…よくわからん。ていうか裁判所が無いのに訴えるって何処に?…と思ったけど、一応セクハラで訴えるくらいはできるらしい。主に警察関連になるみたいだけど…


(…まぁ、仕事に支障が無い程度の弱体化ならいいけどなぁ…。給料がゼロになっても知らんけど)


どうやら、金銭の吸収は持ち歩いている現金かステータスに収まっている物に限定されるらしい。金銭専用・アイテムボックスは関係無いみたいだが。


(そういえばアイテムボックスがいつの間にか生えてたんだよな…)


【ステータス】

名 前:山田 花子やまだ はなこ

年 齢:17

ーーーーーー

レベル:72

経験値:7,061exp

所持金:2,0600,002円

BWH:85、60、87

身 長:160cm

体 重:54kg

血液型:A(RH+)

スキル:体感覚遮断

    アイテムボックス

ーーーーーー

・体感覚遮断Lv3

 ・分配率[経験値-50%+][所持金-50%+]

     [攻撃力-00%-]

     [防御力-00%-]

・アイテムボックスLv2

 ・収納可能重量…1Pt(ペタトン)※1

 ・収納可能サイズ…一辺10km※2

 ・時間停止、何でも収納可能※3

※1:トンでいえば1000兆トンとなる(地球の海水は140京トンらしい)

※2:一度に収納可能な大きさ。重量制限以内なら大きさは無限

※3:生物・非生物問わず。時間停止するので10年後に取り出された生物は当時のままの年齢に…ということに!(一種のタイムマシン?)

攻撃力:172…72(+100)

防御力: 42…36(+6)


(えっと…?)


改めてステータスを…まぁあれから半年の間、忙しかったし見る暇が無かったんだが…


(確か、他の隊員たちの平均レベルが…)


機密事項だからと、民間上がりの俺には詳しく教えてくれなかったんだよな…。別にレベルくらいはいいと部隊長たちはいってたけど、上のお偉いさんって奴が…まぁいっか。


(確か、30前後だっけ?)


スキルも汎用っぽいのが1つ2つ有れば良さそうだよな…そのレベルだと。


(部隊長は強力ごうりきみたいなのが生えてそうだよな…火事場の馬鹿力くらいで聖剣を投げるなんてできそうもないし…)


入隊した日、超大型エネミーヒュージを倒すのに必須だった聖剣は従った相手以外には自己保護の為に異常に重くなる仕掛けが施されている。それでも尚上空に向かって投げ飛ばすとか、唯のスキルでは到底無理だと思う。


(…まぁいっか。隊員たちのスキルを考証しててもしょうがない)


俺は待機室に着くとヘルメットと上着を自身のロッカーに放り込むと身を清める為にシャワールームへと向かった。



「エネミーが現れる理由?」


待機室に戻るとそんな話題がなされていたので口を突っ込んでみた。ちなみに今は乾いてない頭をタオルでガシガシと拭いてるところだ。


「あぁ、その原因がわかれば多少なりとも出動が減るんじゃないかなってね」


こいつはその他2名の1人。名前は…何だっけ?…まぁいっか。仮にその他1号と呼ぼう。もう1人よりは器用だし。あっちは力が強いからその他2号な…って命名基準が仮面●イダーかよ!(独り突っ込み乙)


「ふぅ~ん…で、何なのかわかったの?」


興味が無い振りをしながら訊いてみる。この半年でレベルが11も上がるとか普通におかしいからな…。他の隊員は殆ど上がってないみたいだし…(原因は花子が真っ先に駆け付けて倒してしまうからだが当の本人は気付いてなかった!)


「いや、さっぱり」


すてーん!とコケる花子。


「あ…あ、そお…」


おもむろに壁に掛けられた時計を見るとそろそろ定時だ。今日は遅番でもない花子は(帰るか…)と呟き、


「じゃ、先輩方。わたしは時間ですので失礼します!」


といい、


「おけ、気を付けて帰りな!」


「おつかれさん!」


と返され、軽く頭を下げてから部屋を出る。今日は部隊長とクレイはパトロール中で部屋には居らず、その他ブラザースと待機任務だったのだ。


(それでも警報が出たら人数不足でも出なくちゃならないしなぁ…)


パトロール中の部隊長に拾われて帰宅したので楽ができたけど、当の部隊長とクレイさんは引き続きパトロール。先輩たちは他の夜勤組が出勤まで待機とか…


(挨拶した以外にも隊員が居るとか知らなかったけど、夜勤専門らしいからほぼ会わないんだよね…)


流石に(見た目)未成年者には夜間の勤務は対外的にアウトらしい。能力が有っても過酷な仕事には違わないからなぁ…一歩間違えば死んじゃうしな。


「ま、相棒が居れば即死しても蘇生してくれるだろうけど?」


見れば、腰に履いた聖剣が誇らしく輝きを示していた。


………

……



- 魔法少女、現る -


『お昼のワイドショーです!』


何となく用意された昼飯を食べながらテレビを見ている。特に何か情報を…という訳でもなく、ながら見をしてたんだが…


『エネミーって何で現れるんでしょうねぇ…』


先日、部隊内で話題になった内容がテレビでも討論?され始めた。ぼ~っとしながらムシャムシャと昼飯を咀嚼して…


「あ…ごちそうさま」


食べ終わったので食器を片して出掛ける準備をする。


テレビは着替えるまでつけておいたが、討論に決着は付かなかったようだ。


「ま、わかるんだったら世話無いか…」


俺はテレビの電源を落として出掛けた。今日はいい天気だなぁ…帰るまでこのままだといいんだけど…


………

……



時は流れ、買い物の途中から雰囲気がおかしくなって…ここは秋葉原…だった筈。いや、確かにさっきまではそうだったのだが…


「何処だ?…ここは…」


明らかに普通じゃない雰囲気が漂い、何となく空気も変わっている。いうなれば表通りから裏通りに迷い込んで雰囲気が変わり、行き交う人種も真っ当な人から悪人だらけになったかのような…


「…!?」


ふらりと現れる影。見た感じ、人影のようでそうでないような…物凄く曖昧。


〈悪意を検知。3秒後に接敵します〉


スキルから警告が飛ぶ。腰の聖剣は最大限に光輝いている。加護バフを一杯掛けて貰ったので心配はこれっぽっちもない。有るとすれば…


(一般人が取り憑かれている場合、か…)


最近、エネミー本体ではなく一般人が取り憑かれて暴れ、対エネミー自衛隊隊員が処置した後に人間の死体が…という事件が後を絶たない。通常、エネミーを処置するとドロップ品が残される場合はあるが、死体が残ることは…ない。


「はぁ…非番の時に遭遇とか…勘弁して欲しいわ…」


(唯のでさえ痴漢に遭って疲れてるっつーのに…)


未だに痴漢に遭ってるのかって?…悪いか!?…恐らくだが、身から迸るホルモン臭が野郎を誘ってるんだろう!…多分、な(訂正:フェロモンです)


「ん~…」


くんくんと匂いを嗅ぎ出す花子。左右上下と嗅いでいると、とある方向でピタッと止まる。


(あれか?)


あれとは濃い闇が漂う辺りの空間だ。花子は聖剣を抜き、一気に駆け付けて…斬る。


ヒュンッ


…手応えが無い。


(…っかしいなぁ?)


ここぞと思う空間を斬り付けるが…


(顕現してないのか?)


恐らくは正解。だが、顕現してないからと放置するのも憚れる。闇の濃度はいつエネミーが顕現してもおかしくない程なのだ…


「う~ん、何か焦れったいなぁ…出るなら出る!出ないなら出るなよ!…っていいてえ…」


理不尽な物いいだが出ないに越したことはない。いざ顕現してしまえば…少なからずとも人的被害はその時々だが、周囲の被害は甚大だろう。それこそ、公共工事の予算が組まれる程度には…



「はぁ…何かこう…エネミーの出現の源をパパッと断つ方法ってないもんかね?」


〈完全ではありませんが、一時的に断つ方法があります〉


システムから何か方法を提示してきた。花子は何も考えずに反応する。


「え?そんなのがあるの!?」


周囲が暗闇で覆われている為か、聖剣の加護がある為か、油断して大声で聞き返す花子。心の中で話せばシステムとの会話が成立するのだが、頭からは吹っ飛んでいるようだ。


〈あります。実装致しますか?(y/n)〉


いつもの選択肢が表示される…とはいえ、そんなに出たことはないが。


「え…もう選べって?…ま、変なのだったら使わなきゃいいか」


恐らくアクティブスキルだろうと思い、使おうとしなければ発動しないと安易に考えてYesを押し込む。途端、周囲の闇が花子に集い出す。


〈こう唱えて下さい。「変身!」と…〉


「へ、変身!?」


若干のニュアンスが違う気がするが、俺はいわれた通りに変身のキーワードを唱えた。すると…


闇のモヤモヤが急速に花子の元へと集まり、その身に纏わり着き、パァ~!っと光りを放った後、着ていた服は消え去り、どこかで見たようなひらひらな服装に変わっていた…そう、魔法少女ちっくなコスチュームに、だ!!


「なっ…ななな、なんだこりゃあああぁぁぁ~っ!?」


宵闇は既に解除されており、周囲は秋葉原の駅前から少々離れた場所へと戻っていた。状況が変化した際に立っていた場所からはびた一文ずれることなく、だ。


「おほ、これ何かのイベント?」


「君可愛いね?…これから何か予定ある?」


女相手に慣れた感じのチャラ男たちが声を掛けてくる!


パシャパシャパシャ!


「むほぉ~っ!?」


オタク系男子はスマホやデジカメを構えて無断で撮影を開始する!


「こ、こらぁっ!無断撮影やめれ~!!」


取り敢えず撤退しようと動き出すが、秋葉原の混雑具合…いや、花子の姿を見て集まってきた野郎どもの密集具合に動くことができずにいる。その内、馴れ馴れしく触りだすチャラ男が現れ、何とかしてどこかに誘ってしっぽり…と思う輩も現れ始める。


(ちぃっ…悪意つーか淫猥な心を検知しまくりだぜ…いいのか?…経験値と金を吸いまくってるんだけどっ!?)


何故か触れている者に限らず、プライベートゾーンの中に踏み込んでいる連中からも吸いまくっている体感覚遮断スキル。もうこれ、そゆ名前のスキルじゃないよね!?…と花子が思っていると、


〈秋葉原周辺の闇の靄の吸収を完了しました。魔法少女スキルのLv2への上昇を確認しました。空中飛翔魔法の発動が可能です。空を飛んで脱出しますか?(y/n)〉


やたらと長いシステムメッセージが表示され、逃げられるんならとYesをタップ!…花子は聖剣の力を借りずとも大空へと飛翔する!


ずぱぁっ!…ひゅるるるる…


最初こそ加速して上昇し、次第に息が苦しくない程度の速度に抑えて水平飛行に移る。


「うわぁ…俺、空を飛んでるよ…相棒の力も借りずに…」


だがしかし、その姿は魔法少女のひらひらなコスチュームであり、下から見るとぱん・つー・まるみえ…な状況であった!…その日の夕方のニュースでは大々的に報道がなされており(偶然撮影スタッフが近所に居て、撮影したものだと思われる)、赤っ恥をかく花子だった!(流石に目線が入っていたのだが、目線だけでは花子とバレるのは時間の問題だろう…南無)


………

……



「はぁ~…で、結局これって魔法少女になるってだけのスキルなのか?」


俺はシステムに問い質す。他にも色々ありそうだが、とにかく小っ恥ずかしい。中身が人生50年以上のおっさんにとっては拷問にも等しい恥ずかしさなのだっ!


〈エネミー出現の素である闇の靄を吸収して活動エネルギーを得る魔法少女スキルは、変身した区域…凡そ半径10km四方の闇の靄を完全に吸収します。闇の靄は人間が居る限り無くなることは有り得ませんが、暫くの間はエネミー出現の時期を遅らせることができます…〉


思わず「なにぃっ!?」と叫びそうになるがここは高円寺対エネミー自衛隊のトイレの中だ。隣の個室に誰も居ないのは確認済だが声を聞きつけた他の隊員が突入する危険性はある。大声を出さないようにするべきだろう…


〈自由行動ができる日に変身して闇の靄を吸収してまわるのが得策かと…〉


(…ってことは何か?…あの小恥ずかしい格好になって、全国行脚の旅をしろと?)


考えただけでくらくらしてくる花子。何が悲しゅうて恥ずかしい格好を晒しながら全国行脚をしろというのだ…。しかし、それとは別にエネミーの出現の原因と何をどうすれば抑えられるかがわかったのは僥倖だ。取り敢えず、何が原因で判明したのかはいいたくはないが、部隊長に報告するべきだろう。



「…という訳なんです」


つっかえつっかえだが、何とか報告を済ます花子。急ぎ集められた隊員たちは難しい顔でひそひそと話している。突拍子も無い話しだし、根拠も薄いのはわかるがこれは事実だった。嘘はない。そう思いつつ全員の顔を見回していると…


「話しはわかった。だが、証拠が無いとな…」


まぁそうなるだろう。幸い、高円寺周辺はまだ闇の靄を吸収していない。闇の靄濃度を考えると…取り敢えずは目に見えるだけの証拠は見て貰えるだろう。


「ん~、矢張り証拠を見せなきゃ…ダメですかね?」


証拠を見せられる状況ではあるが、あのコスチュームは…正直いって恥ずかしい。知らない群衆にちょっとだけ見られるのと(一気に上空に飛んで逃げ出せるから)、知り合いにじっくり見られるのとでは…後者の方が恥ずかしい。流石に恥じらいの乙女と自称するつもりはないが…あ~、うん。おっさんでも恥ずいわ!…どんな羞恥プレイだっての!?


「そう、だな。取り敢えず…警報器のエネミー検知装置を持ってこさせるから…あぁ、携行用の小型の奴な。設置タイプは人間が持てる重さじゃないからな…。訓練場に行って待っててくれ」


結局、羞恥プレイは開催されるようだ…。自分からいい出したことの証明とはいえ、今夜は恥殺しされるかも知れん…あぅあぅ。



それからおよそ30分程経過…。計器の設置と念の為に武装した隊員の待機。訓練場の周囲を外部から見えなくする擬装壁の設置…大規模な戦闘訓練をする時に時々使用しているらしい…が済み、エネミー検知装置の動力が入れられる。


「係数は70%…顕現には至りませんが、そろそろ気配が出てくるかも?…といった濃度ですね」


計器の数値を読み上げるカナデさん。部隊長とその他ブラザースは武装して待機している。裏方部隊も、後方で待機してるようだ。


「じゃ、始めてくれ。山田のいう通りなら…この計器の数値が殆ど0に至るということなんだな?」


俺はこくりと頷く。計器が設置しているのは訓練場の端っこであり、俺はほぼ真ん中に立っている。真ん中といっても、直線距離で20mくらいしか離れてないので十分に声は通るのだが。


(うう…恥ずかしい。やっぱいわなきゃ良かったかなぁ…でもなぁ…ううううう………)


だが、ぢぃ~っと見つめる隊員たちの視線をいつまでも浴び続けるとおいうのも気恥ずかしい。さっさと終わらせて羞恥プレイタイムを終わらせようと、決意する。


ぱぁん…!


気合一閃、俺は両手を頬に張って気合を入れてから、叫ぶ。


「変…身…!」


叫んだ直後、最初はゆっくりと…徐々に加速した闇の靄が徐々に可視化されつつ花子の元へと集まって行く。最終的には目に見えない程の速度で集まった闇の靄が遂には収拾範囲から全て集まり切り…花子の体が墨一色の状態から魔法少女のコスチュームへと昇華する!


「ほほぉ~…」


「いい…」


「ほぉ…」


「かわいい………はっ!…ちょちょっと、凝視しないの!あんたらロリコンかっ!?」


そのほかブラザースと部隊長の感嘆の声に続き、カナデの怒声が響き渡る。裏方部隊は「巻き込まれちゃたまらん!」と既にその姿を消していた…逃げ足だけは天下一品かも知れない。


「で…ふむ。本当にゼロになってるな?」


部隊長が計器を読み上げて納得する。正確にはほぼゼロであり、一旦ゼロまで減ってから闇の靄…計器が検知する対象は人間から再び漏れ出して周囲に撒き散らされているのだ。その状況を作り出した当の本人は見られまいとしゃがみ込んでおり、背中を向けている所だが…。


「あ…おい、誰か羽織る物持って来いや…流石にあれじゃ可哀そうだしな…」


部隊長が気付いてそういうと、カナデが予め用意していた予備のジャージ上を持って歩いて行く。画して、高円寺対エネミー自衛隊からエネミー出現の原因と、出現頻度を下げることができそうな内容のレポートが提出され、技術部にその装置が作成できるか検討する旨が通達されるのだった。


………

……



- 新任務・全国行脚の出張の旅、開始? -


「お手柄だったな、山田!」


「目の保養に…痛っ!!」


「お前な…女の子にそれは無いんじゃないか?あぁ!?」


何日か後にそんなことをいわれる花子。何のことやら?と首を傾げていると、


「これだこれ!」


と、高円寺対エネミー自衛隊にレポートに対して功績を称える通達が来ていた。まだ具体的な成果が上がっていないが、レポートの内容にはエネミー検知器の計器の結果が証拠として併せて提出されていたこともあり、半ば信頼できる物として認められたということだ。但し…


「個人のスキルが前提だからな。技術部で造れる機械で効果があげられなきゃあんま意味はないがな」


流石に全国を行脚して吸いまくってる訳にはいかない…といった所か。だが、花子には何となくだが嫌な予感がしていた…そう、とてもとても、とぉ~っても…嫌な予感だ。



「すまん、山田。ちょっと出張頼めるか?」


「は?…出張、ですか?」


突然の出張依頼に不信感を覚える花子。今までそんなことはいわれたことが無いから猶更だ。だが、様子を見るに断れる雰囲気でもない…


「えっと…行く…とは断言できませんが…何処に、ですか?」


取り敢えず訊いてみる。行くとは断言しないと防波堤を設置してみるが、恐らく無駄、だろうな…


「ここ…なんだけどな?」


指差された場所は…今現在、闇の靄濃度が物凄く高くて、いつエネミーが顕現してもおかしくない…と、警告が引っ切り無しに鳴っている地区だった。それも、ここから直線距離で100kmは離れている。どう見ても今すぐ出動しても間に合う距離ではない!


「え…ちょちょっと待って下さいよ…絶対間に合わないでしょ、これ!?」


幾ら高レベルのステータス全開で走っても30分では到底間に合わない距離だ。聖剣の飛翔能力を頼っても、恐らく途中で力尽きてしまうだろう。聖剣の能力は無尽蔵に湧き出るというものではなく、日々僅かづつ蓄えた魔力を開放しながら行使しているのだ。エネミーの根源である闇の靄は人間の悪意などが漏れ出て溜まっていくのだが、魔力とはそれとは違う別のエネルギー…という話しだった。


「君は魔法少女モードなら、空を飛べるのだろう?」


…そう。その辺のことは洗いざらい話してある。コスチュームと化した闇の靄のエネルギーが尽きるまでは飛んだり大幅に上昇した力で攻撃したりできることを。純粋に飛行や攻撃力に転化した闇の靄エネルギーは空気中に元の闇の靄として拡散することなく、消費して消えてしまうこともだ。攻撃手段には魔法みたいな炎の玉とか雷撃・水撃・土撃などの属性魔法も含まれている。聖剣を使う時は、聖剣の魔力に還元はできないが聖なるエネルギーを纏わせて放つことも…何故かできるのが不思議といえば不思議か。魔法少女なのに魔法のステッキじゃないのか?…というのもあるが、まぁそれは然して重要なことじゃない。


「えぇ…飛べますね。バリアみたいなのは張れないので、目が痛くない程度の速度に限定されますけど…」


せいぜいバイク程度だろうか?…風防メガネでも掛ければもっと行けそうだが。昔のレシプロ航空機はそんな感じで結構な速度を出していたと思う。


「じゃあ、隣の地区で変身してから行ってくれないか?…はい、これも持って行くといい」


差し出された手には、肩下げ鞄に入れられた任務依頼書と他地区行動許可証。そして風防メガネが2つ入っていた…。


「よ…用意がいいで、すね…」


「あははは…宜しく頼むよ?」


がっくりと項垂れた俺から視線を切ると、部隊長は立ち去って行った。俺は「うう…やるしかない、か…」と呟いてトボトボと外へ歩く。途中、羽織る大きめの上着をカナデに手渡され、情けが身に染みたかのように走り出す。そして…



「う~ん…地図の通りだとこっちだったよねぇ…?」


女は地図が読めない。どうも、方向音痴の花子です…じゃなくて、初めての地方出張を空の旅(それも自らの能力頼りの!)で行かされると思ってなくて…まぁ迷子になってんのだけど!


「携帯電話すら持たさないでどうやってナビするつもりだったんだろ…」


取り敢えず地図の縮尺と同じくらいの高度まで上昇して、微調整しながら巡航してる所だ。時々航空機とニアミスしそうになりながらだが…って、数m傍を通過とかじゃなくて、数10m程の距離だけどな。


「あ~怖…あっちからじゃこっちなんて鳥と同じで小さいから目視確認すらできないだろうしな…」


(インテークに吸い込まれたらエンジンぶっ壊しちゃうからなぁ…)


普通の人間ならミンチになるだけだが、こちとら普通の人間じゃない。痛いだけで済む怪物がエンジンを破壊したら墜落してって落ちた場所の被害甚大な上に数百名の人名が喪われる羽目に遭う。そうなったら何の為の地方出張なんだかわからなくなる。


「ふぅ…ん?何か黒い靄みたいなのが見えて来たな…あれか?」


ぶちぶちと呟いていたら、前方に街並みが見えてきた。時間的にはまだ明るい筈だが不自然に黒く塗りつぶされている…ということは…。


「うん、ビンゴ!…ここが目的地だね!!」


俺はすぐさま高度を下げて街へと降りて行った。上から見ると暗く蠢いている感じがしたが中へ入って行くにつれ、違和感が大きくなっていく。


(そういやこの格好のまま闇の靄発生地に突っ込んだことが無いけど…どんな反応をするんだろ?)


そう思いながら道路と思われる場所へ降り立つ。既に変身してる訳だから追加で変身することはできないだろうし…と悩んでいると、システムが反応する。


〈変身を解除せずに、吸収とコールしてください。但し、1時間に1回しか行使できないので注意を〉


(なるほど…闇の靄溜まり?に吸収するってことかな?…でも1時間に1回も使えるのか。溜め込んだ靄はそれくらいで吸収しきっちゃうってことかねぇ?)


逆に複数個所で同時多発すると対処できないということでもある。忘れずに報告しないと困ったことになるだろう…忘れずに報告しようと心に誓う花子だった。


「んじゃま…吸収!」


叫ぶと変身の時と同様に闇の靄が吸収され、微妙にコスチュームがレベルアップした気がする。主に、ひらひらが派手になった方向へと…。


「…終わったかな。んじゃ、誰も集まって来ない内に退散っと!」


ジャンプ一発。急いで地面から人間が米粒より小さい高度まで退避した後、花子は高円寺へと急ぐ、が…方向を間違えて日本海側に出てしまい、時間切れで魔法少女モードが切れて聖剣の力を借りて着地した後、更なる迷子を防ぐ為に現地の対エネミー自衛隊へと向かって助けを借りたというオチもあったりなかったり…


「しょーがねーだろ!…空を飛んで長距離移動なんて初めてなんだし!!」


己の肉体だけでそれを成し遂げたのは花子が世界初だろう…この世界では、という前提が付くが。



- 短いですがエピローグです -


そしてあれから数箇月。空を見上げると時々目で追うギリギリの速度で飛び交う姿が見えることも増えた。


「鳥だ!」


「飛行機だ!?」


「スー●ーウーマンだ!」


「いや、魔法少女☆山田花子だ!!」


誰がスー●ーマンのパクリをしろと…ゲフンゲフン。


━━━━━━━━━━━━━━━

うん、まぁ…。歩いてたらネタが浮かんだので取り敢えずぶっ込んでみたってノリで書いてみました。取り敢えず書きたい所は大体書いたけど力尽きたので投稿します、みたいな? 短編だけど2連荘投稿ってどうなの?…って気もしますけどねw(今回は1万文字くらいか…短かったけど、もう思い浮かんだネタが尽きました)


※改めて読み返して見て…ネタが尽きたのはわかるけど、短っ!…って思いました。まぁ短編なのでこんくらいが普通なんでしょうねぇ…

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